記念文

□Mission:Possible
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ゴクリ。
多くの妖が隠れて見守る中、玄関で靴を履かせてもらったまだ幼いリクオと猩影に、若菜がメモを渡していた。

「じゃあ、これを渡せばお店の人が用意してくれるから。お願いね。」

「うん!」

「いってきます。」

「寄り道しないで帰ってくるのよ〜。」

「はーい。いってきまーす。」

二人が若菜以外誰もいない玄関から飛び出していったのと同時に、隠れていた妖達がどっと姿を現す。
どう言う訳か人間として育てらている猩影の為に、彼らはその姿を必死に隠していたのだが、リクオが心配で心配で、こうして溢れ出んばかりに狭い隙間に隠れていたのだ。

今日は猩影が隠れて狒々様に付いてきてしまった為に、とりあえず屋敷から出そうと慌ててリクオの『お使い』のお伴を頼んでしまったのだが、考えてみればこれがリクオの『お使い』デビューであった。
リクオ達が向かうのは今では珍しくなった昔ながらの八百屋で、普段からよく利用している奴良組の息が掛かっているお店である。
当然、店主は人間の姿をした妖で、今回の件は既に連絡済みであり根回しも万全なのだが、もちろんリクオ達はその事を知らない。

「あらあら皆、心配性ね〜。」

「若菜様、本当に行かせて良かったのですか?」

「まぁ、心配ねぇだろ。護衛も付けしな。」

「鯉半様!」

いつの間にか姿を現した鯉半が、リクオ達の去った玄関を楽しそうに見ている。
護衛だなんて大げさな、と思った若菜であったが、本人が付いて行くよりはましかと溜息を吐くと、仕方が無いわねぇと鯉半を連れて居間へと戻っていった。



その頃、リクオ達の様子を陰から伺う不審人物達・・・もとい護衛の妖達が、自分達に課せられた鯉半からの指示を確認していた。
何やら背後からスパイもののBGMが聞こえてくるのは、気のせいかもしれない。

「よいか、皆の者。リクオ様のお仕事を、必ず成功させるのだぞ。」

「「おう!「はい!」」」

「おいおい、声が大きいよ。今回は狒々様の息子さんもいるんだ。
 何時もと違って、ばれないようにしなきゃ駄目だろ。」

盛り上がる黒田坊たちに対してコホンと咳払いする首無に、つらら以外全員が『コイツこんなに真面目だったっけ・・・』とジト目で答える。
そんな視線を気にも留めずに、首無は懐から和紙を綴った冊子を取り出した。

「ほら、ここに鯉半様から頂いた作戦司令・・・今度は何の趣味だ、まったく。
 作戦司令書にある指示通りに動くぞ。」




Mission1 人間に化けろ!

「そこからかよ!」

「ちょ、ちょっと首無!?」

突然首無が作戦指令書をバシーンと地面に叩きつけ、それをつららが慌てて拾い上げ埃を叩く。

「そんなの当たり前に決まってんだろ!
 なんでそこからイチイチ言われなきゃなんねぇ!!」

あー、また鯉半様にからかわれているな。
その事に気が付いた側近達は、とりあえず首無を落ち着かせようとしたのだが、それよりも早く、事態をよく呑み込めていない氷麗がとんでもない事を言ってしまった。

「何言ってんのよ。首無って人間に化けるの下手じゃない。」

「へ、下手!?」

「だってほら、首が無いままでしょ。鯉半様はきっと、その事を指して注意して下さったのよ。」

そ、そうだったのか・・・ベースが人間だから化ける必要なんてそもそも無いと思っていたけど、間違いだったのか・・・とショックを受けた首無は、ピタリと動きを止める。

「おい、リクオ様が行っちまうぞ。」

「あ、いけない!それじゃあ首無、ちゃんと首をくっつけてから追っかけてきてよ。」

結局そのまま、河童から連絡を受けた毛倡妓が首無を見つけるまで、彼はその場に固まっていたという。


首無:リタイア
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