記念文

□清継より愛を込めて
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鵺との決戦を勝利で迎え、ようやくひと段落ついた頃、日も暮れ夜の住人の世界へと移り変わった奴良邸に、賑やかな一行が訪れていた。

「奴良くん!今日もお邪魔させてもらうよ!」

百物語組との抗争以来、もう幾度となく訪れている清十字団一行は、清継の言葉と同時に遠慮なく家に上がり込んでいる。
その様はまるでリクオの正体を知る前の時のようであり、本家の妖怪たちはそれを頼もしいと見るべきなのか、なんとずうずうしいと呆れるべきなのか、判断に迷うところだ。



清十字団のメンバーにリクオに正体がバレてからしばらく、カナや清継達のリクオへの接し方が、特に清継の態度が特に変化し、余所余所しくなってしまっていた。
もっとも清十字団以外の者の事を考えれば、これはまだマシな方だ。
全くと言っていいほど変わらなかったのは、巻と鳥居ぐらいなものだろう。

だが、リクオや氷麗の説得と、カナ達の協力のおかげで、今ではすっかり元通りに戻り、こうして以前のように遠慮なく上がり込んで来るまでになっている。
ちょっとやり過ぎたかな、と後悔する事もしばしばあるが、やはりこういう関係が一番良いと、リクオはその事を大変喜んでいた。



その清十字団一行が、ぞろぞろとリクオの部屋へと訪れると、まだ昼の姿をしたままのリクオが清継達を迎えた。

「やあ、今日はどうしたの?」

清継くんとカナちゃんが少しがっかりした顔をしたのはきっと気のせいだ、と冷や汗を掻きながら、リクオは清継達に座布団を勧めた。
いや、この時間をわざわざ選んで来るあたり、気のせいではないのかもしれないが。

「ん?ああ、奴良くん!
 今日は何の日か知っているかい?今日はバレンタインデーだ!」

質問に答える暇も与えず回答を告げる清継くんに、清十字団一行から冷ややかな視線が注がれる。
この状態の清継くんの行動を、一体誰が止める事が出来るというのだろうか、という諦めの意味も込めて。

「今年はまったくチョコを貰えそうにない奴良くんに、ボク達からのささやかなプレゼントをと思ってね!
 さあ、ボクの熱い想いを受取ってくれたまえ!!」

そこはボク達じゃないのかよ、と巻と鳥居の視線が訴えているが、もちろん清継はそんなモノに怯む事などない。
受取ってくれて当然だと言わんばかりに、自分で用意したプレゼントをバーンと掲げた。

だが、それは突然夜の姿に変化したリクオの一言により、その手よりポロリと落ちる事となる。

「断わる。」

何でーーーー!!とムンクの叫びのようなポーズを取る清継を他所に、カナがどうして?とリクオに聞いた。

「まぁ、一言で言うなら、家でのルールって奴だな。」


リクオの話によれば、本人としては、義理とか友情とか色々あるから、女同士だろうが男同士だろうが別に構わないと考えているらしい。
だが、それを奴良組で認めればどうなるか。
男妖怪の方がはるかに多いのだから、手下共からのチョコが凄い事になる可能性があるという事らしい。


「まぁウチじゃ、主従の間でのやり取りは原則禁止にしてんだけどな。
 そういうので強制みたいになったりしたら嫌だろ?」

「ふーん、そういうものなの?」

「何だよ奴良、たっぷり貰えるのにもったいない。」

「あ、それなんとなくわかるなー。義理の強制みたいな感じでさ、そういうのって嫌だよな、鳥居。」

「うん。でも私たちは人間なんだし、別にいいんじゃない?」

鳥居の言う事ももっともだと、いつの間にか復活した清継が、さあ受け取ってくれと言わんばかりにリクオににじり寄ってきた。

「いや、ウチの連中にとっちゃ変わらねぇよ。元々人間の真似してやってんだし。
 やり取り禁止っつっても用意して来る奴もいるぐらいだしなぁ。
 ルールを盾に断わっちゃいるが、これに男共まで加わっちゃこっちがたまんねぇ。」

だから悪ぃが、ウチの中じゃ受け取れねぇ。男同士ってのは無しだ。
そうはっきりと断られると、清継は真っ白に燃え尽きた。
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