記念文
□つららの着物教室
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「つらら、着物の下には下着を身に付けないって本当?」
「ななな、何を聞いているんですか!?リクオ様!?」
学校から帰り、普段着へと着替えて落ち着いたところで、いきなりリクオはお茶を淹れていたつららに尋ねてきた。
辛うじてお茶を零す事は避けられたものの、突然なんですか、と口を尖らせながら、つららはスッとお茶をリクオの方へと差し出す。
そんなつららにリクオは苦笑いしながらゴメンと謝ると、一口お茶を啜ってから話を続けた。
「いや、この前、授業参観があっただろ?
その時に母さんが着物を着てきたんで、その事で話題になっちゃってさ。
それで話しているうちに、なんでかそういう話になったんだ。」
「どーしてそうなるんですか!?」
「いや、ボクに聞かれても・・・」
所謂思春期に入った男の子というものは、勝手にあれこそ想像を膨らまして、その手の話題へと突入してしまう事が多いものである。
経緯はともかく、リクオの話からつららは若菜様の事を心配しての事なのだと思い、気を取り直し説明し始めた。
「そうですね、一般的には『肌襦袢』に『蹴出し』、それと『半襦袢』や『長襦袢』が下着に相当します。
肌襦袢と蹴出しはリクオ様の感覚で言うと下着のシャツ・・・キャミソールの方が近いですかね?」
「いや、そのキャミソールっての分かんないし。今度つららの見せてよ。」
「見せません。シャツと、スカートのようなものだと思って下さい。
半襦袢は大きめの半袖シャツ、長襦袢は長袖のマキシワンピース・・・えーと、スカート丈の長いワンピースのようなものだと考えれば宜しいかと。」
「それでその・・・蹴出しの下は?」
少し照れながら、恐る恐る聞いて来るリクオに、つららもまた顔を赤くしてしまうのだが、これはあくまで若菜様の事を心配してのことだと自分に言い聞かせ、なんとか落ち着いて・・・傍から見れば動揺しているのは明らかだが・・・話を続ける。
「もちろん履いておりますよ。着物用の下履きもありますし。
人間の間では、『下着のラインが見えるから』という理由でショーツを履かないという話があるそうですが、実際にはほとんど判りませんので、皆履いているはずです。
そういうのは都市伝説の類ではないでしょうか。」
「な、なるほど・・・。」
何故か残念そうに呟くリクオの姿に、つららは頭の上に?マークを載せながらも、今度はマフラーを取った。
「それと下着とは言っても、長襦袢はこのように見えますので、リクオ様の言う下着とは意味が異なると思います。」
そう言いながら襟元から見える長襦袢を指さすつららを見ると、リクオは途端に慌ててマフラーを取り、サッとつららの襟に掛けた。
「リクオ様?」
「ちょっと待ったつらら、それ下着だったの!?」
「へ?いえ、まぁ確かに下着ですが、先ほど言ったように
「だったらちゃんと隠しておかないと。誰にも見せちゃダメだよ!」
「いえ、ですから下着とは言っても、これは見せる事でセンスを
「見せ下着なの!?ダメだってつらら、そんなことしちゃ!」
「あの、リクオ様話を聞いて下さい。あくまで着物の分類上の話であって、洋服とは
「いい、つらら。人前でマフラー取っちゃ駄目だよ。」
「はあ、それはもちろん、取りませんけど。」
「うん、それならいいんだ。」
一体何がどうなっているのやら、と頭の上に沢山の?マークを浮かべるつららと、『つららの下着を晒してなるものか』と完全に勘違いして息巻いているリクオの姿を、庭の木の上からトサカ丸が溜息をついて見ていた。
「まぁ、害は無さそうだから放っておいていいよな?」
3代目の独占欲や嫉妬心がどんどん強くなっているなぁ、とばっちりが来なければいいんだが、と思いながら、懐から三羽鴉連絡ノートを取り出した。
「『今日も3代目は側近頭を大切に困らせていた。さっさと補佐にしてしまえばいいのに。』
ま、こんなところかな。」
きっと、またささ美が一体何の事だと文句を言ってくるだろうが、あまり具体的に書くのは野暮というものだ。
さて、これ以上見てたら出歯亀になりそうだから、とっとと退散するかと、トサカ丸は翼をはためかせてその場を後にした。
end