妄想小説

□人はそれをストーカーと呼ぶ
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2月14日 晴
 バレンタインデーだというのに、若頭は放課後までチョコを貰わなかったようだ。
 まったく、所詮人間の女は、見る目が無い。
 そういえば、若頭の幼馴染と雪女がチョコレートを渡すのを、周囲の者達が興味深げに眺めていた。
 たかだかチョコを渡すだけのことでも、注目を集めるとは、さすがリクオ様だ。

 追記
 その夜の若頭は少し羽目を外してしまったようだ。
 そういえばもうそんな年頃か。これからはもっと注意しておかないと。


2月×日 晴のち曇
 今夜も若頭は雪女と酒を飲んでいる。
 まだまだ夜は寒い。燗を注ぐことの出来ぬ雪女よりも、ささ美の方がずっと適任だろうに。
 まったく、私からすればささ美の方が美人なのに、なぜ雪女とばかり酒を飲むのだ。


3月○日 晴
 今日は小春日和と呼ぶに相応しい、穏やかな暖かい一日だった。
 ただ、若頭が縁側で、雪女と互いに肩と頭を持たれ合って眠っていたのは、いただけない。
 あれでは、せっかくの暖かさが台無しになると思うのだが。

 そう思って起そうとしたのだが、あまりにも若頭が気持ち良さそうな顔をしていたので、そのまま黙って見過ごすことにした。
 昼のリクオ様なら、粗相をする事もあるまい。


3月14日 晴
 雪女が・・・雪女が若頭に命令していた!何と言う事だ!こんな事があっていいのか!?
 落ち着け。そうだ、将来夫婦になる約束でもしたのではないだろうか?
 それなら親父殿のように、皆の見ていない所では尻に敷かれてる、というのも頷ける。
 うぅむ、だとすれば、私は見てはならない物を見てしまった事になってしまうのだが、見張っていない事には、護衛としての務めが果たせない。
 さて、どうしたものか・・・。

 悩んでいたら、若頭を見失ってしまった。てっきり屋敷に戻ったと思っていたのに。
 こんなことではお目付役失格だ。精進せねば。


4月△日 雨
 今日は雨だったためか、夜になっても若頭は変化されずお休みになられていた。
 若頭が言うには関係無いそうなのだが、雨の日に変化する事が殆ど無い事を考えると、私達と同じで水が苦手なのではないのだろうかと考えてしまう。
 これが弱点であるなら大事なので、皆には黙っている事にした。


5月◇日 曇のち晴
 若頭が、雪女と一緒に浮世絵町商店街へと行った。
 どうやら雪女が人間に化けた時の衣服の買い物らしいが、最終的な決定権は若頭にあるようだ。
 様々な衣服に着替えては、その都度伺いたてるとは、感心だ。
 以前と異なり、雪女も自分の立場をわきまえるようになったということか。

 最後に何故か荷物の奪い合いをしていた。
 雪女の衣服なのだから雪女が持つのが当然のはずなのに、どうしてそうなるのだろうか?
 結局二人で腕を組みながら一緒に持って荷物を運んでいたが、なんとも効率の悪い。


5月□日 雨
 若頭が、雪女と相合傘で登校していった。なんとも(塗りつぶしの為判別不可)困ったものである。
 我々に目立たないよう言いながら、何故あのような事をなさるのだろうか?
 いっその事私が若の傘代わりになったらと思ったが、雨に濡れるのは嫌なので止めることにした。
 さては雪女、私が雨が苦手な事を知っていて、わざとこのような事を?

 思った通り、私が何時ものように監視できない事をいいことに、リクオ様と長い間二人きりで過ごしたらしい。
 しかも風邪を召されてしまうほどに、雪女と寄り添い合っていただと!?
 いくら将来を誓い合ったとはいえ、節度を守れないようでは困るというものだ。
 




『若頭観察日記(黒羽丸署)』より抜粋
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