妄想小説

□若は思春期
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ホギャア・・ホギャア・・・

春を告げる奴良邸に、元気な赤子の泣き声が聞こえる。

「生まれたぞ!」
「おお!待望の4代目か?!」
「気が早いんじゃない?」
「3代目、おめでとうございます。我々はここで控えておりますから、中へどうぞお入りください。」

リクオの周りで側近達が騒ぎたてる。
この襖の向こうでは、たった今自分の子どもが生まれたという事に、リクオはまだ実感を感じなかった。
そうこう戸惑っているうちに、襖が開けられ毛倡妓が姿を現す。

「3代目、どうされました?二人ともお待ちですよ。」
「あ、ああ・・・」

部屋の中に入ると、そこには元気そうに泣く赤子と、疲れきってはいるものの誇らしげで満足げな顔をしたつららが、布団に横たわっていた。

「リクオ様、申し訳ありません。」
「え?・・・ま、まさかつらら、何か体に障ったの?」

リクオの顔を見た途端、顔を曇らせ謝るつららを見て、リクオは慌てて枕元に跪きつららの手を取る。

「いいえ、違います。今回生まれたのは女の子でして・・・」
「なんだ、そんな事か。そんな事気にしてどうするんだい。」

そんな事かとホッと安堵の息を吐くリクオだったが、つららは顔を曇らせたままだ。

「いえ、そういう問題じゃないんです。この子は雪女なんです。」
「え?」

つららの説明によると、雪女が子どもを産んだ場合、女の子なら必ず雪女らしい。
つまり、ぬらりひょんの血を受け継げるのは、男の子の場合だけということだ。
ハーフとか、そういうのは無いのか・・・と思ったリクオだったが、別にリクオとしては気にする事ではない。
自分の子である事に変わりはないからだ。

「僕達の大切な子どもである事に変わりはないよ。」
「リクオ様・・・」
「どうしても気になるんなら、また子どもを作ればいいだろ。」
「はい、今度は頑張ります!」

頑張った所で男の子が出来るわけではないのだが・・・と思ったリクオだったが、それは口に出さずに、今は新しく加わった家族を大事にすることだけを考える事にした。




・・・その2年後・・・

ホギャア・・ホギャア・・・

再びリクオとつららの間に子どもができた。

「つらら、やったな!」
「リクオ様・・・また女の子です、すみません。」
「いや、だから気にしなくていいって。賑やかになりそうで良いじゃないか。」

この時もリクオは本心から喜んでいたのだが、何か違和感を感じていた。



・・・また2年後・・・

ホギャア・・ホギャア・・・

「また女の子です・・・」
「え?あれ?何かこう、展開がおかしくない?」
「何がです?」

今度ははっきりと分かる違和感に、ついにリクオは言葉に出してつららに質問する。

「だって、子どもを育てた記憶とか、名前とか、その・・・ほら過程とか色々ね。
 覚えていないというか、前から時間が経っていないように感じるというかさ。」
「・・・やっぱり、女の子ばかり産む私に腹を立てているのですね。」

突然泣き出すつららに、リクオは慌てて取り繕う。

「ち、違うんだよ。そうじゃないんだ。子どもができるのはとても嬉しいよ。」
「では何故そのような事を・・・」

つららの質問に、リクオは顔を真っ赤にしながら叫ぶように答えた。

「だってつららと結婚して子作りしたっていう覚えはあるのに、どうしてつららとしている最中の事を思い出せないのさ!
 おかしいじゃないか!そこが一番楽しみなのに!!」



ガバッ

チュンチュンチュン・・・・

布団から跳ね起きたリクオの耳に、雀の鳴き声が聞こえる。

「・・・あれ?」

リクオはボーッとしながら、周りを見る。
いつもの自分の部屋、掛けられた中学生の制服、本と参考書が並べられた勉強机と本棚、そして顔を真っ赤にしているつらら。

「・・・・つらら?」
「あ、わ、若、おはようございます。」

どういう訳か、いつもと違ってリクオから目を逸らしてつららが挨拶する。
だが、まだ半分寝ぼけたままのリクオは、特に疑問を感じる事も無かった。

「うん、おはようつらら。」
「もうすぐ食事の支度ができますでしょうから、お早めにお召し換えなさって来ていただけないでございましょうか。」
「?・・・うん、直ぐ行くよ。」

なんだかつららが緊張した感じで、妙な言葉遣いでしゃべっている。
そう思ったリクオだったが、言わんとする事は判ったので相槌を打ち、ノロノロと着替え始めた。
リクオの言葉を聞いた途端につらら飛び跳ねるように立ち上がると、慌ててパタパタと立ち去っていった。

「んーー。なんだかつららの奴、変だったなぁ・・・。
 それにしても変な夢を見たような・・・どんな夢だったっけ?」

着替えが終わった後部屋を出ると、何故かそこには牛頭丸が不機嫌な顔をして立っている。
なんだか珍しいな、用でもあるんだろうと思いながら、リクオは手を上げて挨拶した。

「あれ?牛頭丸、おはよう。もしかして遅いから迎えに来てくれたの?」
「んな訳あるかよ。朝っぱらから発情した叫び声聞いたんでな。
 一言文句言いたかっただけだ。」
「発情した?何が?」
「何だ、やっぱり寝ぼけていただけか。しかも覚えていないのかよ。」
「だ、たがら何さ。」

牛頭丸の『発情した叫び』という言葉に、リクオは自分が何を言ったのかがものすごく気になってきた。
そういえばつららは真っ赤になっていたし、あの妙な言動もそのせいかもしれない。
何かとんでもない事を言ってしまったのではないかと、それだけで恥ずかしくなってきた。

動揺するリクオを見て牛頭丸はニヤリと笑うと、くるりと踵を返して居間の方へと歩き始める。

「ちょ、待ってよ牛頭丸!何言ったのか教えてよ!」
「さあ、何の事だ?遠くに居たんで、はっきり聞き取れていなかったんだよ。」

手をヒラヒラさせながら、牛頭丸はどんどん先へと進んでいく。
それをリクオは追いかけながら、他の者には聞こえないように声を抑えて、牛頭丸に再び尋ねた。

「何言ってんのさ、さっき・・・叫び声聞いたって言ったじゃないか。」
「ん〜〜?だったら雪ん子にでも聞いたらどうだ?
 すぐ側にいたんだから、はっきり覚えているはずだぜ。」
「そ、そんなの聞けるわけ無いじゃないか〜〜〜〜。」

牛頭丸が自分の慌てる様を楽しんでいるのは明らかだったが、リクオにはそんなことを気にする余裕もない。
何を言ったのか気になるのはもちろん、なにより間違いなくつららはそれを聞いている訳で、いったいどんな顔をしてつららと顔を合わせればいいというのだ。

「くくく・・・じゃあお前も忘れたままでいいだろ。
 ま、雪ん子の方はそう簡単には忘れないと思うぜ。あんな事言われたんじゃなぁ・・・」
「な・・・」

牛頭丸の最後の一言に、リクオは思わず歩を止めてしまう。

「い、いったい何を言ったんだ僕は〜〜〜〜〜〜〜!」



その日一日、学校でのリクオとつららの何時もとは違う言動は、あっという間に学校での噂の的となった。

例えば昼なら『リクオ様〜〜〜!お昼の時間ですよ〜〜〜!』と元気に駆け寄ってくるはずの氷麗が、いつの間にか教室に入ってきて、リクオの側にそっと佇んだかと思うと

「リクオ様、その、お昼はどうしますか?」

と顔を俯かせながら控え目に声を掛けてくる。
しかもリクオは氷麗の声に過剰なまでに反応して驚き、そして氷麗から目を逸らしながら照れ笑いを浮かべ、屋上へ行こうと応えると、二人揃って頬を染めながら互いに視線をそらして教室を去っていった。

そして放課後も、ずっと教室の入り口で何も言わずに待っている氷麗に、クラスメイトが冷やかしも込めてリクオに彼女の到来を告げると、ハッとして顔を上げたリクオと氷麗の目が合った途端、湯気が出ているのではないかというほど顔を真っ赤に染めた氷麗と、それを見てやはり顔を赤く染め上げたリクオが慌てて教室を出ると、つららの手を取ってそのまま部活動へと走り去っていった。

清十字団の部活動の最中も、二人は何時もとは違って微妙に距離を取っているのに、明らかに互いに相手を意識して時々様子を見ては、たまに目が合うと頬を染めながら慌てて顔を逸らすのであった。

「あの二人、なんだか怪しいね。」
「うん、ぜったい何かあったって。あとで問い詰めちゃおうか。」
「よ、よした方がいいんじゃない?」

鳥居・巻・カナの3人が、あからさまに怪しいリクオと氷麗に、一体何があったのだろうと声を顰めて顔を突き合わせている。
その脇に居たゆらが、誰にも聞こえないような小さな声で、ぼそりと呟いた。

「あの二人、またなんかしたんやな。
 まったく京都の時といい、いいかげんにしてほしいわ、ほんま。」



翌日、牛頭丸に寝言で言っていた事を耳元でささやかれて起きたリクオは、つららの顔を見るだけで耳まで真っ赤に染めてしまうような、そんな一日を過ごす羽目となる。
ますます周囲に怪しい目で見られるようになったリクオの姿を、一人百面相をしているリクオの姿を、学生服を着て学校に潜入してきた牛頭丸が、実に楽しそうに記念写真を撮っていたという。


end
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