妄想小説

□人間的営み
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中学に進学してからも、今日もまた皆のために『良い人』として働くリクオ。
これはいつもの事ではあるが、最近は少し様子が変わってきた。

「リクオ様、ファイト!」

そう、奇妙な旗を振る一人の美少女が、リクオについて回るようになったのだ。
今までは何故か全く目立たなかった彼の行動が、この一人の美少女のために目立つようになってきていた。

「ねぇ、つらら。応援してくれるのは嬉しいんだけど、これぐらいの事で大げさなんじゃない?」

彼にとってはごく普通の事。
今日も使い終わった地図等の教材の片づけをしている。
その後ろで『畏』の文字の付いた旗を振りながら、つららが付いてきていた。

「何を言っているんです。
 そうやって積極的に人の役に立とうとするなんて、そうそう出来る事ではありませんよ。
 素晴らしい事じゃないですか。」
「いや〜、そこまで言われると照れるな〜。」

つららはリクオを応援するだけで、手伝いはしない。
以前手伝おうとしたら

『これは僕の仕事なんだ。つららは手伝わないで。』

と言われた為だ。

リクオにとっては『人間としての営み』であるのだし、何よりつららと一緒では目立つだろうという考えもあったのだが・・・
まさか応援するだけの為に、付いて来るとは思ってもみなかった。

「結局目立っているような気もするな〜。」
「どうかなされましたか、リクオ様?」
「ん、つららがあまり人目に付いちゃまずいんじゃないかなー、と思って。」

妖怪が人前に姿を見せる事に、リクオは神経質になっている。
その事から、リクオはついこんな言い方ををしてしまった。
だが、つららは不思議そうに首を傾げ、リクオに聞き返す。

「どうしてです?私、ちゃんと人間に化けていますよね?」
「あ、そっか・・・別に問題ないか。」
「ふふ、上手に変化しているでしょう?」

くるりと回転するつららを見て、リクオは『確かにそうだ』と思う。
今のつららは、普段とは違って、自分と同い年の学生にしか見えない。
まあ、雪女の姿でもけっこう若く見えるのだが、それでもせいぜい高校生が精一杯だろう。
さすがに中学生で通用するとは思えない。
青田坊が違和感ありまくりの変化しか出来ないのに、つららは好きな年齢に変化できるのだろうか、とリクオは思う。
そういえば、首無も子どもの姿に変化できる、と聞いた事がある。

そんな事を考えながらも、リクオは次々と仕事をこなしていった。

「あ、そうだ、つらら。」
「はい、なんでしょうか?」
「校舎内とか、人目のある所では、その旗は振らないでね。」
「え?駄目ですか?」
「うん、駄目。」

シューンとするつららだったが、ふと何か思いついたのか、少し嬉しそうな顔をしながらリクオの側まで近付くと、腰をかがめておねだりする様に上目遣いにリクオを見上げた。

「リクオ様、それだと手持無沙汰になるので・・・」
「え?何?」
「少しくらいは、手伝っても良いですか?」
「え・・・いや、それは・・・」

以前手伝わないように言ったのは、まだ護衛に反発していた時期の頃だ。
今ではむしろ、一緒に何かをした方が楽しいと思うのだが、自分から『手伝うな』といった手前、『手伝ってくれ』とは言えない。
つまらないプライドかもしれないとは自分でも思うのだが、何故かどうしても言えないでいた。

「ご迷惑でしたら・・・」
「いや、いいよ。そうだね、そうしてくれると助かるよ。」
「ホントですか?!ありがとうございます!」

手伝ってもらうのに感謝されるというのも変な話だなと、思わずクスリと笑みがこぼれる。
そんなやり取りをしているうちに、ゴミ袋出しという力仕事をやり終えた。
もう初夏の陽気と言う事もあって、さすがに汗が出てきている。

「リクオ様、お疲れ様です。汗が出ていますよ。」

つららは昔リクオにやっていたように、ハンカチを取り出してリクオの汗を拭き始めた。
リクオはそんなつららを見て、昔は何も考えることなく、汗を拭いてもらっていたんだなと、ふと昔の自分とつららの姿を思い出した。
途端に何故か、リクオは急に恥ずかしくなってきた。

「ちょ、つ、つらら。いくらなんでもそれは恥ずかしいよ。」

もう小さな子供ではないのに、とリクオは思う。
そんな事おかまいなしに、つららは慣れた手つきでリクオの汗を拭い続けた。

「ふふふ、照れちゃって。大丈夫ですよ、裏庭には誰もいませんから。」
「いや、そういう事じゃなくて・・・」

結局、この傍から見ればいちゃついているようにしか見えない二人のやり取りは、つららが食事の支度のために帰るまで続いた。



リクオは知らない。
カナがこのシーンを目撃していた事を。

リクオはまだ気付いていない。
つららが居ることでリクオが皆の目に留まるようになり、あっという間に学校名物になるほどの有名人になってしまう事を。



end
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