妄想小説

□夜祭り
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「若!二人で夜祭りに行きましょう!」

このつららの一言で、リクオはつららと夜祭りに出かけることとなる。



つららがリクオに声をかける、ほんの少し前。
今夜は地元の夜祭りがあり、つららが自分の着物の準備をしているのを見て、リクオは清継達が来て一緒に行くことになるだろうと思っていた。

だが、つららは二人で行こうと思っていたらしい。

人間の行事=清十字団と一緒に行動

という図式がいつの間にか自分の中で固着していた事に、リクオはショックを受けていた。

(うう・・・すっかり清継くんに毒されてしまったみたいで、なんだか怖いよ。)

先に準備を終えたリクオが玄関先に佇み落ち込んでいる所に、つららの元気な声が聞こえてきた。

「リクオ様、お待たせしました。さあ、行きましょう!」
「あ・・ああ、うん。行こうか。」
「はい!」



いつもよりも賑やかな夜の浮世絵町の通りを、人間の姿のリクオと、同じく人間の姿をしたつららが、二人仲良く着物を着て並んで歩いている。
リクオはありふれた紺の草模様の着物に対し、つららは濃いピンクの牡丹をあしらった華やかな着物。
つららの着物を着こなす様は、牡丹の名に恥じぬ美しさを持っていた。
もちろんリクオも、普段から着物を着て過ごしているだけあって、見事に着こなしている。
そんな二人は、夜祭りに来ていた人々の中で、かなり目立つ存在だった。

「それでですね、リクオ様。青ったら・・・・」
「うん・・・そうだね・・・・うん。」

祭り場へと向かう間、つららはリクオに常に話しかけ続けているが、リクオの方はどうにも上の空といった感じだ。
適当に相槌を打っているだけなのだが、『二人でデート』だと思って浮かれたつららは気付かない。
そんな二人に、そっと近づく影があった。

「おお、奴良くんに及川さんじゃないか。
 なんだ、やっぱり二人で先に来てたんだね!仲がいいのはいい事だ!」
「お、及川さんの着物姿・・・。」

二人が声のした方へと振り返ってみれば、そこにやはり着物を着た清継と、いつもの変わらぬ服装の島がいた。
島は、着物姿のつららを見て喜ぶと同時に、リクオと一緒にいることにショックを受けるという器用な事をしている。

「あ、清継くん、島くん、こんばんは。」
「清継くん達も、いつも一緒で仲がいいですね、ふふ。」
「ああ、ファミリーだからね!もちろん、他のメンバーもそこにいるよ!!」

げげ、とつららは二人に見えない角度で焦った顔をした。
この二人だけならともかく、他のメンバーまでいるとなると、一緒に行動せざるを得なくなるのではなかろうかと、心配になったからだ。
そんなつららの心配を他所に、4人が次々と姿を現した。

「よう、リクオ〜〜〜。」
「やっほー。」
「あ、巻さん、鳥居さんこんばんは〜。」
「こ、こんばんは・・・。」
「げっ、及川さん、すごい恰好じゃないの!」
「ほんと、すっごい綺麗!」

本格的な着物姿のつららを見て、巻と鳥居が目を光らせながら騒ぎ始めた。
カナとゆらは、無関心なのか、騒ぎの輪に入りたくないのか、その騒ぎの輪には加わらずリクオと挨拶を交わしている。

着物の事を褒められるのはつららとしては嬉しい事なのだが、『ここでデートも終わりね』とついついしょんぼりとなってしまう。
それに気付いた巻と鳥居は、ピーンと少しズレた方向へと『乙女の感』を働かせ別の意味で目を輝かせた。

「ん?なんか元気ないねー。」
「え?いや、そんなことは・・・」
「ははーん、さては奴良の奴、その着物のこと何も言ってないでしょ。」
「う・・・」

二人の鋭い指摘に、つららはギクリと体を強張らせ声を詰まらせる。
その様子に鳥居と巻の二人は、互いの目を合わせると楽しそうに目を輝かせた。
そして半ば怒ったような、そして呆れたような顔をしながら、それでいて実に楽しそうに、二人は一斉にリクオに詰め寄った。

「奴良〜〜、お前ってほんと、女心が分かんないんだな。」
「他の事は気が利くのに、どうしてだろうね〜〜。」
「え?え?」
「ちょ、ちょっと二人とも、別にそんなこと・・・」

慌てて止めようとしたつららを、こんどは鳥居と巻の二人がクワっと目を見開きながらつららに迫る。

「何いってんの!大事なことだよ!」
「『そんな事』じゃないでしょ!遠慮してどうすんの!」
「は・・・ハゥワ・・・」

二人の勢いに圧倒され、つららはまともに言葉を発する事も出来ない。
それはもちろんリクオにも言える事で、どうこの場を切り抜けようかと焦っていた。

「さあ、言っちゃいなさいよ。『この着物姿はどう?』って。」
「奴良も、きちんと答えなさいよー。」

つららにとって、それは元々聞きたかった事でもある。
その誘惑に、『二人が言うんだから仕方がない』という言い訳も手伝って、つららは素直に従う事にした。

「あ、あの・・・リクオくん、この着物、どう思いますか?」

照れながら上目遣いにこちらを見るつららの姿に、リクオの顔があっという間に真っ赤に染まっていく。
その様子を鳥居と巻のみならず、既に清十字団全員が固唾を飲んで見守っていた。

だがなかなか答えようとしないリクオに痺れを切らし、巻が発破をかけた。

「ほら、ちゃんと答える!」
「え・・・えーと、その・・・と、とっても似合っていて・・・綺麗だよ、つらら。」
「「きゃーーーーーー!!」」

真っ赤になるリクオとつららを肴に、鳥居と巻が歓声をあげ騒ぎ始めた。

「聞いた、夏実!?『綺麗だよ、つらら』だってさ!」
「うん!聞いた聞いた!こりゃこっちが思っていたより、進展してんじゃないの!?」
「ほう。」
「がーーーーん。」
「・・・・」
「夜店にはいつになったら行くんや・・・」

二人の騒ぎに、祭り見物に来ていた周りの人々も注目し始める。
そうした周囲の視線にリクオは居ても立ってもいられなくなり、つららの手を握ると駆け出してしまった。

「ごめん、皆!もう帰る時間だから!また明日ね!!」
「り、リクオ様?!」
「「「「「え?」」」」」
「なんや、もう帰んのか。」

着物が乱れないギリギリの速度で掛けていく二人を、清十字団一同(ゆら除く)はポカーンと見続けていた。
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