妄想小説

□電話の訳
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日も暮れて、食事を終えた奴良家のひと隅で、つららが何やらそわそわとしている。

「つらら、何してるの?」
「あ、リクオ様。明日の準備をしようと思っていたんです。」
「準・・・備?」

リクオが不思議がるのも無理はない。
なんせつららの部屋の中には、複数のマフラー、かき氷セット、氷嚢、様々なサイズのクーラーボックス、etc.が所狭しと散らかっているのだ。

「こんなに持っていくつもり?」
「いえ、それが何を持っていけばいいか分からなくて。」
「で、とりあえず持って行けそうなものを全部用意してみたんだ。」
「はい!」

ぺカーっとにこやかな顔をしながら、つららが答える。

「いつもは綺麗に整っているのに、つららの部屋じゃないみたいだ・・・」

そんなリクオの呟きなどつららには全く聞こえておらず、今度は風呂敷を取りだしている。

「いや、つらら・・・普通今時の女の子は風呂敷では旅行に行かないよ。」
「えっ?そうなんですか?」
「うん。」

どうやら本気で驚いているつららに、リクオは少々あきれ返る。
携帯やパソコンなど、ハイテクを駆使し学校にまで来ているはずなのに、どうしてこんな初歩的な事を知らないのだろうか、と。

「そうだ、リクオ様。
 それなら今時の女の子が旅行の時に何を持っていくか、教えて頂けませんか?」
「え?」

つららの突然の申し出に、リクオは虚を突かれポカンとした顔をしてしまった。

「リクオ様は色々とご存じのようですし・・・ぜひ教えてください!」

つららの金色の眼差しに見つめられて、リクオは何故か自分に落ち着きが無くなるのを感じた。

「あ・・・えっと、まずはリュックサックだよね。」
「はい、リュックサックですね!」
「つららは持っていなかったはずだから、僕のを貸したげるよ。」
「ありがとうございます!」

相変わらずキラキラとした目でリクオを見続けるつららに、リクオは思わず顔を逸らす。
毎日顔を、それも四六時中合わせているというのに、何故今更照れるのだろうかと、リクオは不思議に思う。

「えーと、とりあえずリュックを取りに、僕の部屋に行こうか。」
「はい!」



自分の部屋までの僅かな道のりの間に、リクオははたとある事に気が付いた。

(ちょ、ちょっと待てよ。そういえば女の子は荷物が多いよな。
 いったい何を持って行っているんだ?)

まさか今さら知らないとは言えない。
かといって、男である自分と同じようでは、皆に怪しまれるかもしれない。

(そうだ、カナちゃんに聞いてみよう)

部屋に付くと、リクオはとりあえずリュックサックを渡して、必ず持っていきたいものを入れるよう、つららに指示する。
つららは、『解りました』とぱたぱたと自分の部屋に荷物を取りに行った。

トゥルルルル・・・・トゥルルル・・・・カチャ
《はい、家永です。》
「あ、カナちゃん?」
《あ、リクオくん、こんばんは。》
「うん、こんばんは。
 あのさ、ちょっと聞きたい事があるんだけど。」
《何?》

『変な風に思われるかもしれない。』
とリクオは少しばかり躊躇ったが、つららの為だと意を決して質問を口にした。

「えーとね、普通は女の子は、旅行の時に何を持って行くの?」
《え?フツー女の子って・・・旅行に何持っていくかって?》
「う、うん。」
《なんでリクオくんがそんな事聞くの?》
「いや、その・・・」

どう返答しようか困ったリクオが、ふと既に部屋から帰ってきていたつららの方にちらりと目をやる。
そこには、嬉しそうに鼻歌を歌いながら、リュックに氷袋を入れているつららの姿があった。

「つらら!それ、違・・・はっ」

あわてて電話を切ったが、自分の声が聞こえていた可能性は高い。

「うわぁ・・・明日どう言い訳しよう・・・。」

もし今の言葉を聞かれていたら、確実に何らかの答えが出るまでしつこく聞いてくるに違いない。
もはやリクオには、どのような荷物を持っていけばいいのか、などという事よりも、どうやって今の事を誤魔化すか、という事しか考えられなかった。

結局、その後のつららとのやり取りも適当に相槌を打つだけで、リクオは自分でも何と答えたのか、次の日には全く覚えていなかった。

こうして、つららのリュックには氷ばかりが大量に入れられる事となる・・・



end
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