妄想小説
□幼き日の出会い
1ページ/3ページ
「お〜〜い、総大将。『かふぇ』でもせんか。」
ある晴れた春の日、ぬら組に大幹部狒々様が訪れ、総大将に『かふぇ』をしようと言ってきた。
「なんじゃい、藪から棒に。・・・ん?その子は?」
狒々様のお伴には、狒々組幹部が一人と、そして少年が一人。
整った顔立ちをした少年は、ぺこりと総大将に頭を下げた。
「おお、お主のとこの息子か。ずいぶんと元気そうじゃな。」
「総大将の孫ほどじゃあないよ。」
「年は確か、リクオとあまり変わらんと聞いていたが・・・。」
「ああ、今日は挨拶がてら、こいつとリクオ様を顔合わせしておこうと思ったのじゃ。」
そう言う事ならと、総大将はお共にリクオが慣れている首無と雪女を連れていくことにし、繁華街の喫茶店へと向かった。
「ヒヒじいちゃんの子ども?ふーん、なんてなまえ?」
「猩影。あんたがリクオ?」
「うん。ぼくのこと知っているんだ。」
「ああ、親父から聞いたからな。年も近いんだってさ。」
「ふーん、でもせがたかいね。」
「いいだろ、ウチのとこはみんなそうなんだぜ。」
「いいなー。」
「なーに、あんたも背が高くなるって、きっと。」
「そうなるといいな!」
道中、猩影とリクオは年が近いという事もあってか直ぐに仲良くなり、時々一緒に悪戯をしてはお伴達、中でも雪女を困らせていた。
「あははー、こっちこっちー。」
「そっちは車が多いから危ないと・・・ほら、捕まえた!・・・うひゃあ!?」
リクオがわざと捕まった途端、後ろから忍び寄った猩影が雪女に『膝カックン』を炸裂させる。(注1)
「わ、わわわわ・・・・」
完全にバランスを崩した雪女は自分を支えきれず、そのまま猩影にもたれかかってしまったのだが・・・
「うわっ、冷た!」
「きゃあ!」
猩影はとっさに体を支えたものの、その冷たさに思わず雪女を突き落してしまった。
ゴンッ!と鈍い音が歩道に倒れた雪女から響いて来た事に、猩影だけでなくリクオも冷や汗を掻き雪女の様子をじっと見守った。
「い、痛〜〜〜い・・・」
「あ、ゴ、ゴメン。」
さすがに悪い事をしたと思った猩影が、慌てて膝をつき雪女を起こそうとする。
が、雪女がギロリと猩影を睨みつけると、猩影はゾクリと悪寒を感じて後ずさった。
「いい加減にしなさい!ゴメンで済むわけ無いでしょう!」
雪女が起き上がると同時にゴウッと吹雪が舞いそうになったところで、首無が雪女の頭を軽く叩く。
「こらっ、雪女。子供相手にそこまで怒らなくていいだろ。」
「だって首無、この二人ときたら悪戯が過ぎるんですよ!」
「らしくていいじゃないか。」
首無の言い分も分かるのだが、雪女としては主に自分が標的にされている為もあって納得できない。
「もう!だったら首無がちゃんと捕まえておいてよ!」
「はいはい。」
とは言うものの、猩影は雪女に怪我をさせたのかもしれない事が気になって仕方がないし、リクオもまた同じような理由で悪戯する気が失せてしまっていたため、首無が何をするでもなく大人しくなっていた。
「あの・・・雪女。さっきはゴメンなさい。」
喫茶店へと再び向かい始めてすぐに、猩影は雪女に近付くと、ぺこりと頭を下げた。
「別にもういいわよ。私も大人気なかったし。」
つららはそう言ってにっこりと笑うと、猩影の手を握った。
「はい、捕まえた。猩影くんだっけ?リクオ様とは気が合うようで良かったわ。」
「あ、いえ・・・。」
「これからもリクオ様の事よろしくね?」
「は、はい・・・。」
少しばかり頬を染めながら、猩影は雪女から目を逸らして頷く。
そんな猩影に雪女がクスリと笑ったところで、反対側の手を誰かが握ってきた。
「ゆきおんな、ぼくも手をつなぐ〜。」
「はいはい、リクオ様。」
雪女はリクオにもにっこりと微笑むと、3人並んで歩いて総大将たちの後に続いて行った。
注1:相手の膝の後ろを、自分の膝で突くことによって、相手の膝を「カクン」と崩させる、昔からある子供のイタズラ。相手が物を持っている時にやると、怪我の元になるので注意。良い子は真似しないでね(^^)