作品置場

□ブレない心
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「子供のお前も生きていればいずれ、半妖の血を・・・呪ったろう!!」

螺旋城の離宮に於いて、激しい戦いが繰り広げられていた。
妖狐の姿へと妖怪変化した安倍吉平の圧倒的な力の前に、リクオは苦戦を強いられいた。

「そりゃ・・・呪ったさ・・・。
 オレだって・・・たくさんブレてきた。」

一つの強い決意を抱いたリクオは、それでも吉平に立ち向かい戦い続けている。

「それがオレたちの・・・役目だから。」

そう、昼も夜も同じく、強い意志を持って。

「人も妖も陰陽師も・・・すべてのヒロインをイベントでこなすと、自分自身で決めたんだ!!」

「は?」

思わずピタリと動きを止めてしまった吉平に、リクオが鋭く切り込む。

「ちょっと待て、それは結局ブレたままなのでは・・・」

気後れした吉平と言いきった顔をしたリクオが再び激しい戦いを繰り広げられる中、戦いの場より少し離れた柱に身を預けながらリクオを見守る氷麗の姿があった。



リクオ様は・・・昼も夜も・・・ずっと・・・同じだったのですね。
いつも誰がメインなのだと悩んで
悩んで、でも・・・やっと・・・

本当のJヒーローとしてのヒロインへの接し方を受け入れてくれたのですね・・・



「まてい」

吉平の鋭いシッポツッコミが、リクオの一瞬の隙を突いて氷麗の頭部に炸裂する。

「い、痛!」

「あ、お前何すんだ!お前なら氷麗に何もしない奴だって信じたのに!」

「ええい、これがツッコミを入れずに居られるか。」

一瞬にして氷麗を守るように抱え込み、尻尾に叩かれた頭を撫でつけながら自分を睨みつけてくるリクオに、吉平は鋭い視線を投げかける。

「だいたいなんだ、お前はまだ中学生のはずだ。誰が良いのかブレるのは判るが、私の生まれた時代ならばともかく、今時全員と言うのはどういう事だ。」

「もちろんそういうのは高校生編になってからに決まってんだろ。それならジャンプなら当たり前だし。」

「だが複数相手であるなら、結局のところブレたままなのではないのか。」

「それは違う。本命は氷麗だって決めてるからな。」

「ほう、決意は既に定めてあるという事か。だが高校生編まで続くとでも思っているのか?」

「まぁ、俺の決意と言うか、夢だな。語られる事は無くとも、こうありたいっつう奴だな。
 そう、敢えて言うなら・・・俺はエロりひょんの道を行く!

ババーン!と大見得を切りドヤ顔でそうのたまうリクオを、何ソレ?と言いたげなどよーんという顔をしたままフリーズした氷麗と吉平が取り囲んでいた。

「ちょっと待って下さいリクオ様。それ、どういう事ですか?」

リクオの突飛もない発言に不本意ながら免疫が出来てしまっている氷麗がいち早く正気に戻ると、それは聞いていませんよ、と言いたげに氷麗は口を尖らせてリクオを睨んだ。
だがその意図をまるで解せず、リクオはその問いに答えるかのように熱く語り始めた。

「高校生にもなれば色々解禁されるようになるだろうし、今の色気の足りなさも、高校生になる頃にはカナだって両手かもしれねぇ。
 それでも足りなけりゃ将来有望株な凛子や、淡島が遠野からやって来るって手もある。」

何の事を言い始めたのだろうかと、どうしてそこに私と陰陽師娘の名が挙がらなかったのだろうかと、氷麗は首を傾げる。
そのことに気が付いてか、リクオは分かっているよと優しい視線を氷麗に注ぐと、その髪に口づけるように抱き寄せ氷麗に言い聞かせるように話を続けた。

「確かに一番露出シーンの多そうなゆらがアレなままなのは残念だが、そう言う需要だってあんだから別にいいだろ。
 氷麗は今のままで十分過ぎるほど俺の好みなんだから変わる必要がねぇ。」

だから何の事が?とますます『?』マークを幾つも頭上に浮かべる氷麗を見て、リクオは爽やかな笑顔で言った。

「そりゃ、もちろんソレの片手サイズと両手サイズの事だ。エロりひょんの道を行くには、お色気が欠かせねぇだろ?」

リクオの目線から何の事を指しているのかようやく気が付いた氷麗の額にピキーンとスジが入り冷気が周囲に溢れ出し始めたのだが、その程度はもう慣れて何も感じなくなってしまったのか、リクオはどこ吹く風の様子だ。

「判りました。でも何で両手サイズ希望枠が3人も?」

「そりゃ需要があるのはもちろんだが、やっぱその手のイベント楽しむだけなら大きい方が良いに決まってんじゃねぇか。色々なシチュエーションできんだからよ。」

「へー、それはそうですねー。」

氷麗の声が平坦に、かつ雪女の名に恥じぬ冷気が込められ始めていることに、自分の夢を熱く語り始めたリクオは気が付かない。

「一番の問題は、メインの氷麗にその手のイベントが起きそうにねぇってことだな。
 生殺しにもほどがあるってもんだ。」

「ええ、起きませんとも。起きそうになっても全力で凍らせます。」

「つーわけでだな、氷麗とはお色気がない分、あれこれイチャコラするシーンを入れればつり合いが取れるって思わねぇか?」

「思いません。それよりさっさと決着付けて下さい。」

あまりの展開に思考がついていけず、茫然自失状態の吉平を氷麗は指差したのだが、やはりリクオは周りが見えていないようで、拳を握りしめると噛みしめるように語り続ける。

「手を繋いで登校したり、一緒に弁当食べたり、下校はデートを兼ねたりとだな、もちろんキスシーンもしょっちゅうだ。」

「リクオ様、人の話を聞いて下さい。っていうか、キスシーン以外はもうやってるじゃないですか。」

「おう、そういや今更か。ふふ、氷麗もそれだけじゃ我慢できねぇって事だな。」

「人の話を聞きなさい!寝ぼけた事言う前にケリをつけなさいって言ってるの!」

「もちろん今までと違って、その前に『皆の前で』が付くんだぜ?
 人目を憚らない!それこそエロりひょんの血!」

こいつら、今まで人目を憚っていたか?と呆然としていた吉平も流石に心の中で呟く。

「そんな血要りません!ほら、話をさっさと進めたらどうです!」

「進めていいのか?これ以上となると夜の話になっちまうぜ?」

そっちじゃないわよこのエロりひょん!!さっきから目が点になってる吉平をちゃっちゃとやっつけなさいって言っているの!!」

ついにキレた氷麗の冷気が爆発し、避ける間もなくあっという間にリクオだけでなく吉平までをも凍りつかせた。

「ふ・・・さすがは氷麗、オレと同時に吉平まで凍らせるたなぁ。参ったぜ。」

「カッコつけたって駄目ですよ!あなたもボーっと聞き入っているからこんな事になるんじゃない!
 二人とも正座して反省しなさい〜〜〜!」


こうして皆が必死に戦っている最中にも関わらず、リクオと共に並んで説教を受ける事になってしまった吉平は、何故か大人しく反省するとあっさりリクオと氷麗を通してしまったそうな。
彼が氷麗に母の面影を被せたからなのかどうか、それは永遠に謎である。


END
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