作品置場

□雪化粧
1ページ/2ページ

氷麗とこうしてデートをするのはもう何回目か。
思い出せないほど沢山したけれど、果たしてそのうち何回、氷麗がデートだとカウントしているのかどうか甚だ疑問なのが、最近の悩みだ。

ちらりと横を見下ろした先には昔と変わらず可愛らしい姿のままの彼女がいるが、実はそれはデートの時だけ。
まるで自分が成長していくのに合わせるかのように、彼女の風貌もまた成長し、氷麗は更なる美しさを身に付けていた。
なのにどういう訳か、デートの時は半々ぐらいの確率で、可愛らしい姿に見えるよう『化粧』しているようだ。
これだと、デート中に知りあいにはち合わせてしまっても、すぐには氷麗だと気付かなのではないだろうか。

そういえば、歳をとると若造りしたがるようになるって聞いた事があるけれど、もしかしてこれもそういう類なのかな?
まぁ、そんな事を確認しようと氷麗に聞こうものなら、間違いなく一晩、いや、下手すると一週間は氷漬けにされてしまうに違いない。

だから若造りの理由は永遠の謎だと、ボクはそう思っていた・・・






「ねぇ首無。いつまでリクオ様を待たせる気よ。」

「いやその、申し訳ありませんリクオ様。思っていたよりも朝の務めに時間がかかってしまいまして・・・」

「いいよ、首無。仕事をこなしてこそ、気兼ねなく遊びに行けるってもんだからね。
 でも毛倡妓の化粧って、けっこう時間かかるんだなぁ。」

今日は珍しく、首無と毛倡妓も一緒のダブルデートの約束をしていた。
たまには変わったデートを楽しみたいし、首無や毛倡妓のチョイスするデートコースは良い参考になる。
それに、もしかしたら新しい発見があって、新たな刺激を得られるチャンスがあるかもしれない。

「もうっ。リクオ様と一緒に過ごせる貴重な時間なのに。」

「何言っているんだ雪女。リクオ様と一緒に居ない時間など、お前にあるのか?」

「そ、それはその・・・デートは別よ!いいじゃない!」

うーん、確かに最近の僕は氷麗と何時も一緒に居る。
中学生の時からじゃないかと言われそうだったけど、学校や出入りだけじゃなくて、氷麗と婚約してからは寝る部屋も一緒だからだ(でもなかなか『同じ布団』は許してくれない。なんで?)
氷麗が台所に立っている時でさえ、ボクが明鏡止水を使ってこっそり(皆にはどういう訳かバレてるみたいだけど)忍び込んで氷麗が温かい料理に悪戦苦闘している姿を眺めていたりするぐらいで、確かに一緒に居ない時間なんて無いような気がする。

氷麗が好きなんだって自覚してからは、氷麗の日常の姿を見ているだけで幸せな気分になっちゃうんだよねぇ。
見ていて飽きないほど面白い、ってのもあるんだけど。

「そういえば首無、毛倡妓ってもともと化粧が出来ているようなもんじゃなかった?」

「いえ、リクオ様。毛倡妓の場合、そのままだと目立ち過ぎるので、人間の印象にあまり残らないように工夫する必要があるのです。
 化粧で己の『畏』を隠す、という感じでしょうか。」

なるほど、そういうものか。魅力があり過ぎるというのも困ったものなんだな。
となると、やはり毛倡妓と同じく『男を虜にする妖』である氷麗も、やはり化粧で『魅了する畏』を隠しているのだろうか。
それで若く見せかけているとか?

いや、デート中に見知らぬ男共が氷麗に振りむいたり、ムカつく視線を投げかけるのを見た事は1度や2度じゃない。それもデートする度に毎回毎回。
どれほど嫉妬心を掻き立てられているか、氷麗は分かっていないようでホントに困る。
まぁ、その度に氷麗には気付かれないよう、昼でも使えるようになったボクの『畏』で牽制していたわけだけど、隠せるなら隠した方が良いのに。

「ふーん。結構大変なんだね。」

「普段はそれほど気にする事は無いのですが、デートとなるとやはり若い者達の目に良く付きますし、携帯などで写真に取られる事もありますから。」

それで念入りに化粧が必要って事か。

ん?あれ?そういえば氷麗に化粧で待たされた記憶はないな。
自分を待たせないように、早くから準備をしているのだろうか。
いや、ギリギリの時間まで厨房で後片付けをしていた事もあったはずだ。

「ねぇ、氷麗。氷麗も化粧をしているよね。」

「はい、もちろんですリクオ様。今日も気合いを入れて化粧してありますよ。」

「でも、時間はほとんど掛けていないような気がするんだけどな。」

「はは、リクオ様、それはそうでしょう。雪女は『呪いの吹雪 雪化粧』を使っているのですから。」

「それって攻撃技じゃなかったっけ!?」

「化粧にも使えるんですよ〜。とっても便利な技なんです!」

ペカーッと輝く氷麗の笑顔が眩しい・・・というか物凄く不思議だ。
あれって・・・『呪い』だよね?

「氷麗は何でも出来て凄いな。流石ボク自慢の未来の奥さんだね。
 でも『呪いの吹雪』って名前が付くのは、なんだか変な感じがするんだけど。」

「何を言っているのですかリクオ様!この技は本当に『呪い』を掛けているから凄いのですよ!」

「呪ってるの!?」

まさかボクまで呪ってないよね!?

「はい!私達雪女は男を誘惑する妖ですからね。
 ほら、見た目の好みって人それぞれじゃないですか。
 だからこの『呪い』によって、自分の姿を、相手の好みの姿にある程度変化して見せかける事が出来るのです!」

えーと、それって呪いの類に入れていいのかなぁ。何か違うような。

「そういうわけでリクオ様。雪女は『雪化粧』のおかげで、殆どの者からは大なり小なりいつもの姿とは異なって見えているので、それが良いカモフラージュになるのです。」

「ふーん、便利だなあ、それ。」

なるほど、それなら素早く化粧できる理由も、氷麗がデートの時に周囲をあまり気にせずにいる理由にも納得がいく。
やたらと男共の気を引いてしまうのが気に入らないが、きっと氷麗は『自分の正体がバレずに済む』という事しか頭に無いんだろうなぁ。
もう少し自分が他人からどう見えるか、自覚を持ってもらわないと困るんだけど。

でも何かが引っ掛かる・・・ハッ!

「どうかしました?リクオ様。」

「つ、氷麗・・・念のため確認するけど、デートする時は時々『雪化粧』してる?」

「はい!もちろん!いつもしっかり『雪化粧』していますとも!」

「そ、そう・・・・」

「「リクオ様?」」

相手の好みの・・・見る者の望む姿に見えるのが『呪いの雪化粧』の畏。
それでボクから見て氷麗が中学1年生の時と同じ姿に見えるって事は・・・

いや、違う!そんな訳ないじゃないか!

ああ、こんなことなら、化粧の謎のことなんて、一生知らなければ良かった・・・


END
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ