作品置場

□正しい呼称
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花開院家の書物庫・・・もちろん今ではゆらの部屋から移動した別の部屋・・・に於いて、来たる鵺との戦いに関する資料を探し、そして対策を練る為、今日もまた竜二が文献を読み漁っていた。

自分に近寄ってくる人影に気が付いた竜二は、ゆらか、それとも魔魅流か、自分に構って欲しい困ったお子様がやってきたようだと溜息を吐いたのだが・・・声を掛けてきたのはそのどちらでもない雅次であった。

「竜二、そろそろ食事の時間だ。しっかり食事をとらないと、思考が鈍るぞ。」

「・・・・」

「大した集中力だな。おい、竜二。」

竜二は雅次を一瞥すると、そのままついと目を逸らしそのまま彼を無視して再び書物を読み始めた。

「食事だと言っているだろう。脳の気分転換にもなるし、そのように集中し過ぎるのは効率的では無いぞ。」

「・・・」

それでも無視し続ける竜二に、雅次はヤレヤレと肩を竦めると、「とにかく食べに来いよ。」と退出しようとしたのだが・・・

「おい、雅次。」

その途端呼び止められた雅次は、やれやれと再び竜二の方へと向き直る。

「なんだ、聞こえていたのか。」

「なんだじゃない。お前、俺に対してそんな態度で良いと思っているのか?」

「は?」

何を突然言い出すんだ、と雅次は眉根を寄せる。
竜二はそれはもう楽しそうに口を歪ませると、見下ろすような(でも下駄込みにも関わらず実際には見上げている)姿勢で雅次を睨んだ。

「竜二様と呼べ、竜二様と。」

「なんでそうなるんだ。」

ドン という効果音が聞こえてきそうな態度でふんぞり返る竜二に、雅次がずれたメガネを直しながら深く溜息を吐く。
だが竜二は尊大な態度を崩すことなく、そのまま雅次を見下ろし(見上げ)ながら語りだした。

「いいか、よく思い出してみろ。羽衣狐との戦いの最中、必勝の策があると言いながらあっさり破れたばかりか情けなくも捕らわれの身となった上、その後の相剋寺の戦いで皆が完全にお前の事を忘れて逃げ去る最中、見捨てず助けるよう魔魅流に命令して救いだしたのは、何処の誰だ?

ぐぐぐ・・と雅次の喉が詰まる。
確かにそうだが、確かにそうだが・・・!と拳を力いっぱい握りメガネを光らせながら体を震わせる雅次を、竜二が楽しそうに眺めている。

「さあ、どうなんだ?恩人である俺の事を、何と呼べばいい?」

「・・・竜二様。」

がくりとうな垂れ膝をつきながら絞り出すような声で呟いた雅次を、勝ち誇った顔で竜二が見下ろしていた。



END
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