作品置場

□春のイメチェン再び
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「ど、どうしよう。」

氷麗は焦っていた。
朝早く目を覚まし、一日の始まりとばかりに大きな欠伸をしたところまでは何時もと同じ。
だがその後がまるで違っていた。

着物やマフラーが無くなっていたのをリクオのイタズラと決めつけた・・・幼い頃ならともかく、今ではやるはずも無いのだが・・・までは余裕があったのだが、何時もとは違う着物とマフラーを身に纏い、どんなものかと姿身に自分の姿を映した途端、氷麗は素っ頓狂な叫び声を挙げてしまっていた。

つららの長く真っ直ぐな髪が、毛倡妓のようにウェーブのかかった髪へと変貌していたのだ。

「これならきっと大丈夫。ちょっと違うだけ・・・よね。」

模様の違う着物とはいえ、雪女の白装束である事に変わりはない。
それにやはり模様が違うとはいえ、トレードマークであるマフラーも身につけているのだ。
これで間違えられるはずはない、と氷麗は思うのだが、それでもまた気付かれないのではと不安でならなかった。

なにせ以前のイメチェン騒ぎの時、学校でリクオに自分だと気付かれなかったのだ。

これでまた気付かれなければ、二度と立ち直れないかもしれない。
そう思うと、怖くてリクオを起こしに行く事が氷麗には出来なかった。





それでもリクオを起こしに行こうとして、でもやはり躊躇してしまい廊下をウロウロしていると、朝の支度に走り回っていた首無とばったり目が合った。
首無は氷麗の姿を見た途端に驚いた顔をした事に氷麗は不安を感じたのだが、首無は何時ものようににこやかな顔をしながら近付いてきた事に、氷麗は自分だと解ったのだとホッとする。
だがリクオ様の事を聞かれたらどう答えよう、と思わず身構えた氷麗に、首無は何故かぺこりと頭を下げると、嬉しそうな声で話しかけてきた。

雪麗姐さんじゃないですか、お久しぶりです。いつこちらへいらしたんですか?」

ピシッ

雪麗(?)の頭の上で何かが砕けたような音がしたことに不思議そうに無い首を傾げる首無を、氷麗はよくも気付かなかったなと鋭く睨みつける。
それを、雪麗さんは相変わらキリッとした綺麗な目をしてるなー、と呑気なことを思いながら首無は返事を待っていた。

これが普段であれば、きっと気にしなかっであっただろう。
むしろ氷麗にとって敬愛する母に間違えられるというのは、嬉しい部類に入るかもしれない。

だが、前回のトラウマが氷麗からそのような思考回路を奪い去っていた。

「あの、雪麗姐さん?ど、どうしました?」

何やら不穏な気配がすると感じた首無は、恐る恐る氷麗の顔を覗き込むように尋ねたのだが、それが火に油を注ぐことになるとは露とも思わなかっただろう。

「首無のバカ〜〜〜!!」

ゴウッと猛吹雪が巻き起こるとともに、首無は一体何が起こったのか、何故このような目に遭うのか、その理由に気付くはずもなくその場で氷の彫像と化してしまった。




「どうした敵襲か!?」

強い畏れを感じた黒田坊が駆けつけてきて見れば、そこには氷の彫像と化した同僚の姿と・・・なぜか怒っている気配を漂わせている雪麗(?)の姿が。
その姿を見て黒田坊は敵襲では無かったのだなとホッと一息付くと、首無の時と同じ懐かしむような笑顔を氷麗に向けた。

「おお、先代の雪女ではないですか。いやぁ、お久しぶりです。
 ・・・ところで何かこいつ、粗相でもしましたか?」

「あんたもよ、黒!」

ゴウッと再び吹雪が舞うと同時に、新たな彫像がその場に立つ事となった。
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