作品置場
□台所は戦場
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さあ、いつもの着物を襷掛けして
長い艶やかな髪をポニーテールに結って
普段は身に付けないヒラヒラなメイド風エプロンを身につけて
今日は台所という名の戦場に立とう
「・・・・牛鬼様、なになさっているんですか?」
真っ青な顔をして固まった牛頭丸が、震える手で台所で巨大カボチャと対峙している牛鬼を指差していた。
それもそうだろう。誰よりも敬愛する牛鬼組組長の牛鬼様が御乱心!?な格好で台所に立ち、しかもカボチャ相手に事もあろうか刀を構えて振りおろそうとしているのだ。
「うむ・・・組の女衆が皆流行り病にかかっているのは知っておろう。」
「はい。ですから俺達が順番に代わってメシを作っていたじゃないですか。」
「ああ、だがそれには大きな問題がある。」
いつものように至極真面目に、そして重い口調で語りかけてくる牛鬼に、牛頭丸はもしかして出入りか何かがあるという事なのか、それとも警備に何か問題でも起きたのかと、緊張した面持ちで牛鬼様の言葉を待った。
「お前たちの作る食事は不味い。」
「へ?」
「フ・・・確かにこのような頑健な獲物を相手にしていたのであれば、致し方の無い事かもしれんな。」
「いえ、それ何か違います、牛鬼様。
それに何でそんな格好をしておられるのですか?」
あまりにもズレた牛鬼の発言に、さすがに牛頭丸もついツッコミを入れてしまう。そしてそのままの勢いというか、流れでずっと気になっていた事を尋ねた。髪型はともかく、なぜそんな派手な洋風エプロンなのかと。
「うむ、最近はこういうのが人気だと本家の女衆に聞いてな。
この手の格好は、私が活躍している『どうじんし』とやらで『もえ』なのだそうだ。」
「本家が〜〜!!」
「どこかおかしいのか、牛頭丸。」
「い、いえそんな滅相もない。流石は牛鬼様です。どのような衣装も完璧に着こなしていますとも。」
「そうか、それは良かった。おお、そうだ、もうすぐ本家の雪女が見舞がてら手伝いに来てくれるから、出迎えてくれ。」
「雪ん子が!?」
「くれぐれも粗相のないようにするのだぞ。
あれはリクオのお気に入りだからな。将来お前は様付で呼ぶ事になるかもしれん。」
「あんなガキんちょをですか!?」
「年齢の問題ではないぞ、牛頭丸。盃事にせよ、大事なのはどちらが格として上かという事であり、年齢は関係無い。」
牛頭丸がそれはそうですがと言いかけたところで、玄関に誰かが来たとの知らせの声が響いてきた。
きっと雪女が来たのだろうと牛鬼に目で合図され、牛頭丸はそのまま黙って客人を迎えに行った。