妄想小説2

□それぞれの連絡帳
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「トサカ丸、本当にこれだけか?」

奴良邸の屋根の上で、トサカ丸とささ美が当番交代の為の連絡ノートの交換とチェックを行っていた。
ささ美が呆れたように示した一昨日の日付の書かれたページには、ほんの2行しか文字が書かれていない。




8月●日 

今日もリクオ様は学校で『良い人』として励んでおられた。
さらに夜には雪女の部屋で『畏れ』に耐える特訓をされており、実に頼もしい限りだ。




いつもこの調子であることに、ささ美の堪忍袋がついに切れ問い詰めた、という訳だ。

「簡潔で良いだろう?」

「簡潔すぎだ。」

『何時もと変わりないって事だから、別にいいじゃんか。』とトサカ丸は顔を横に向けボソリと呟く。
それをしっかり聞きつけたささ美が、何をふざけた事をと錫杖を振り上げた。

「具体的な所が全くないではないか。
 体調についても何も書かれていないし、これではわざわざ連絡ノートを作る意味が無い。」

「なんだよ、体調って。そんなもんまで書く日必要ねぇだろ。
 リクオ様は病人でも老人でもねぇンだ、お前のがやり過ぎなんだよ。
 第一なんだこの形式ばった書き方は。」

そう言ってバサリと広げたページには、ささ美の書いた報告が書かれていた。





8月○日 ◎

朝  kt=正常 寝不足気味 熱帯夜が続いている。要注意。

朝食 主10副10 食欲があるうちは大丈夫だろう。

午前 N

昼食 主10副10 屋敷でも雪女のご飯しか食べなくなっている。この暑さでは当然か。

午後 外出 御学友と図書館にて勉強。雪女も同席。
   
夕食 主10副10 青田坊に食欲無し。外での護衛の為?

夜  寝るまで雪女と同室。無事、雪女を部屋まで送り届ける。

メモ 青田坊は、明日の護衛に支障をきたす可能性あり。
   明日は『登校日』で学校へ行かれる。熱中症対策を忘れない事。




「このkt=って何だよ。変な記号使うなって。」

「それは『体温』だ。」

「いつ測ってんだよ。それに測ったんなら温度書けばいいだろ。」

確かに、普通は『正常』と書く事など無く、トサカ丸の言う事はもっともなのだが、ささ美は『フン』と鼻を鳴らすと当然の事のように言い放った。

「雪女が熱がっていなかったからな。」

は?とトサカ丸は一瞬耳を疑った。
冗談・・・をささ美が言うはずもない。
いやしかし、冗談以外の何物にも聞こえないのだが・・・とトサカ丸は茫然とささ美を見る。

「いや、それは40度以上の高熱の時だけだろ?」

「なんだ、解らないのか?40度以下だろうが、熱が出ていれば雪女が騒ぎ立てる。
 それを見て判断すればいい。」

そういうもんか?とトサカ丸はアングリと口を開け呆れかえりつつ、いつもの朝の様子を思い浮かべる。

・・・そういや、昔のように雪女がリクオ様を起こすようになったっけ。
反抗期の時は、起きるのも自力でと、目覚まし時計を使われてたからなぁ・・・。
でも着替えの時は、雪女を追い出していたはず。リクオ様も思春期って事か。

つい感慨にふけっていると、ささ美がノートをトサカ丸に突き出してきた。

「私と同じように書けとは言わないが、もっと色々と書く事があるだろう。
 お前なりの視点で書いてくれれば十分だから、再提出してくれ。」

「はいはい、分かったよ。」

やれやれ、兄貴もささ美も、ほんと堅物で困る。
そう思いながら、トサカ丸は『夕方までに書き足しておくから』と自分の連絡ノートを受け取り懐にしまうと、自室へと戻っていった。



「色々と…ねぇ。」

自室に戻り机に向かったトサカ丸は、ふむ、と顎に手をやり何やら考えると、ニヤリと笑い、筆を取った。
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