戯言/人間シリーズ

□クリスマスの3
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逃げなくては、逃げなくては。
あの恐ろしい兄貴から。

今日は12/25。
世間ではサンタだのプレゼントだの騒がしくなる日、クリスマスである。

そんな日に、俺はただひたすらある存在から逃げていた。
零崎双識、俺の兄貴から。
兄貴も殺人鬼の癖して世間の様にサンタだクリスマスだなんだと騒ぐ質でありフライドチキンやらクラッカーやらツリーやらを用意しどんちゃん騒ぎをする気満々のようだった。
それは別に構わない。
構わなくないのはそれに対して俺を巻き込もうとする点である。
あろうことか伊織ちゃんに着せるつもりだろうミニスカサンタの衣装、俺にぴったりなトナカイの着ぐるみを持って俺達を追いかけ回してきた。
しかも現在進行形でである。
やっと兄貴の視界から逃れ陰に身を潜めた後、お願いだからこのまま何もありませんようにと祈る。
今日はここにいれば一先ず誰からも見つからないんじゃないだろうか。少し期待する。


「よっ、ぜろっちー」


そんな期待などした俺がバカだった。
あっさりと俺の祈りは打ち砕かれた。


「ぎゃはははははは!!何しけた面してんだよ!僕がいなくて寂しかったのかよ?ん?ん?」

「ちげぇよ、ってかお前なんでいるんだよ」

「僕のだぁいすきなぜろっちの所に僕が来るのは当然だろ!」

「よーし、今すぐ帰れ」

「やんっ!!そんなこと言っちゃらめぇーなんつってな!!ぎゃはははははは」

「うるせぇ、今俺は兄貴に追い回されてて忙しいんだ」

「えー、なんでなんで?なんかやらかしちまったの?ハッ!まさか僕とのあの一夜がバレて…?」

「そうじゃねぇよ!それに一夜って何だよ!お前とは何もなかったし俺は何もやらかしてねぇよ!」

出夢は相変わらずのようだった。
まったくもって鬱陶しい。
「じゃあなんで追いかけられてんだ?」

「そりゃあ、クリスマスだから兄貴がはしゃいでいるからに決まってんだろ」

「クリスマス………ねぇ、あぁ…そういえば理澄がそんなこといってたな」

そう言いながら出夢は目を細める。
なぜだか、そんな出夢が儚げに見えて、
寂しげに見えて、
思わず

「……まぁ、今日だけはお前に付き合ってもいいか」
と言ってしまった。

「さっすがぜろっち!!ナニしてもらおうかなーぎゃははははは!!」

笑う出夢を見た瞬間しまったと思った時にはもう遅かった。

「今日は僕に付き合ってくれるんだよなーっ?ぎゃはっ!!」

不味い。これはいけない。
そう思いながらも動けずにいると出夢は俺を押し倒し跨がってきた。

「おい、なんだこれは。なんで俺押し倒されてんだよ」

「いーから黙ってろって!でないとちゅーっすっぞ」

「……………」

出夢にセカンドまで奪われるのは御免だ。
でも出夢になら、いや待てよ俺何考えてんだ。

うごうごと俺に背中を向ける。

「ぎゃははっ!ちゃんと言うこと聞いてくれてんだ、やっさしー」

脅迫されたから仕方なくだ。

出夢は俺に背を向けた状態で俺の腹のあたりまでやってきた後突然、

「んっ」

といいながら身をこっちに傾ける。

「………?」

「ほら、拘束具外して」

「は?」

「だーかーら、この後ろの金具があるだろ、それを外せって!聞こえてマスカー?」

「うわ、うっざ。えー…嫌だよ、お前を開放してたまるか」

「…外してくれないんならー…」

「なら?」

いいつつ出夢は俺の股元に顔を近付ける。

「ぜろっちのナニを噛み千切っちゃうかもよ?」

「………わかったよ、仕方ねぇな…」

カチャカチャと拘束具を外してやる。

「お前なら拘束具くらい自分で外せそうだけどな。かはは」

「ぎゃははは、今はぜろっちに外してもらいたい気分なんだよ」

「ふぅん」

そんな会話をしているうちに出夢の拘束具が外れる。

「さて、準備が整ったところでぜろっちへのプレゼントをあげっか」

「…は?………なにいって」
気付くと俺の口が出夢の口によって塞がれていた。

「〜っ!!〜〜っ!!」

なぜ俺のセカンドキスまで出夢に奪われてるのか。

出夢の長い舌が以前のように俺の舌に絡み付いてくる。が、不思議と嫌な気分じゃな…いやいや。不快でたまらなかった。

「…っぷは!」

「ほら、ごちそうさまはー?なんつって!ぎゃはははははは!」

してやったりという顔で俺を見る出夢。
なんだかそんな出夢に仕返しがしたくなってくる。

「…………出夢」

「なんだよ、ぜろっち」

「ん」

不意打ちで出夢にキスをしてやる。
ディープだと出夢が優勢になりそうだったので、早々に口を離してやった。

「ごちそうさま、はねぇのかよ?かはは」

「…っ!て、てめ…」

真っ赤になって俺を睨み付ける出夢。

何もありませんようにという祈りは打ち砕かれたけど、
まぁ色んな出夢の表情が見えたことだし。

サンタってやつに一応感謝しといてやんよ。

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