戯言/人間シリーズ
□クリスマスの
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「よーっす!!曲識!!メリークリスマス!」
トキが経営している店、クラッシュクラシックバーに目がちかちかする程眩しい赤色のサンタコスチュームを身に付けた人類最強は突然現れた。
「………メリークリスマス」
そんな人類最強に対してもトキはいつもの表情で片手をあげ、挨拶をする。
とはいえ冷静を装っているが心境は待ってましたなはずだろう。人類最強が現れるまでちょこちょこ店の周りを確認してはそわそわとしていたトキを思い出す。
しばらく何か楽しそうに(片方の表情の変化は乏しいが)2人は会話をしていた。
その2人を陰から見ている怪しい男が2人。
俺達だった。
「なぁ、レン。何故俺はこんなことをさせられているっちゃ?」
コソコソと先程から考えていたことを我が家族に伝える。
「うふふ、アス、君は変わった事を言うね。家族が家族の為に何かをする、当然のことじゃないか」
「どうみても家族の為にというより興味本位にしか見えないっちゃよ。それに俺まで巻き込まれているのはなぜかと聞いてるっちゃ」
「アス、人聞きの悪いこと言わないでおくれ。私はあくまでも………おや、何か進展があったみたいだよ」
「……はぁ、ったくなんだっちゃ?」
レンに言われてトキ逹の方を見ると赤色がトキに何か頼み事をしているようだった。いや、頼み事をしている態度には見えないが。
「なあなあ、せっかくだからよぉ、クリスマスソングでも弾いてくれよ」
「あ、あぁ。いいだろう」
柄にもなくトキは偉く緊張しているようだったが、まずまずの受け答えをする。
「それでは作品No…」
「うんうん」
「444444.サンタがブランコから落ちる」
「こわっ!!曲識お前サンタに恨みでもあんのか!?」
緊張でもしているからなのだろうかトキは変わったことを口走る。
…変わったことを口走るのは元からか。
「あ、あぁ…これはついイライラしてて作ってしまったものだ。先日彼がブランコから落ちる所を見ていたこともあってだが」
「イライラしてたの!?しかも落ちたの!?ていうかサンタを見たのか!?」
「まぁとりあえず演奏してから話そうじゃないか」
「あぁ!久しぶりだな、お前の演奏を聴くのは」
切り替えの速い2人だった。
お互いマイペースだからか気が合うのだろうか。
そうこうしてるうちにトキの演奏が始まる。
題名の割には可愛らしい曲でそれがまたなんだか怖かった。
イライラに任せて作ったからか、それとも特に理由はないのか、その曲は早々に終わった。
「いやーさすがだな!!曲識!!」
「……………」
誉められて心なしか嬉しそうな表情をするトキ。
やはり家族の嬉しそうな表情を見ると言うのは悪い気はしない。レンに無理矢理連れてこさせられたが、こうやって家族を見守るのもトキ風に言うなら悪くない。
レンはいつもこんな気分で家族を見守っていたのかと思うとなんだか暖かい気持ちになって、ふとレンの方を見た。
「……………!」
レンは泣いていた。
そんなに感動したのか…。
久しぶりにレンが変態以外に見えた。
そんな俺の感心も束の間、すぐに消え去るのだった。レンは
「くっ…、人識も伊織ちゃんもトキまでクリスマスだからと家族から離れるなんて…。普通は家族重んじるものだろう…グスッ!!」
と泣いていた。
悔し涙かい。
なんか一緒にいるのも下らなくなったので俺は帰ることにした。
「…あ、アス。どこに行くのかい?トイレかい?」
「ちがうちゃ。俺も好きな人のところにいくっちゃ」
「え!?アスまで!?」
じゃあまたなっちゃ、と言い残し俺はクラッシュクラシックから出ていった。
トキ達がレンの邪魔を食らわないことを願いながら。
翌日、一賊皆がレンのカレーを食べさせられたのは言うまでもない。