戯言/人間シリーズ

□わんこ襲来
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「よーっ!!いーたん!!」


今日も俺はいーたんの部屋に遊びに行く。不法侵入とか気にしない。
いつもならいーたんの不機嫌そうな…いや、きっと照れ隠しであろうツンツン顔が俺を迎えていた。
が、今日は違った。

「…………………」

いーたんは寝ていた。
可愛らしい寝顔だった。
萌えた。

そこまではいい。
だがそこからがよくない事だった。
いーたんの腕の中。
そこにそいつはいた。

そいつは俺にどこからとりだしたのか包丁を俺に突き付けていた。
「………」

俺はそいつを無言で睨み付ける。

そいつも俺を睨み付ける。
黒髪のおかっぱに冷たそうな目。よく見るとこれまたそいつは正に美少女という感じの美少女だった。

と、俺が思考に浸っていたとき、
ヒュンッ

何かが飛んできた。
俺は咄嗟にそれを交わす。

それはさっきそいつが持っていた包丁だった。

どうやら敵意と殺意バリバリらしい。

そんな奴がいーたんの腕の中に収まっているということに対してうらやま怒りが沸いてきたのでそいつをいーたんの腕の中から引き摺り出すことにした。
俺はそいつの腕を掴む。
その瞬間、

「…………触らないでください」

ぼそり、と言われた。

触らないでくださいと言われた。

年端もいかぬ少女に軽蔑の眼差しで見られた。

人間として酷く惨めな気分になった。
人間として酷く惨めでも鬼だから悔しくないもん!

そんなぐしゃぐしゃな心を抑え、俺はそいつの腕を引っ張りながら告げた。

「いーたんから離れろ!」

「嫌です。私は今はお兄ちゃんの抱き枕になっているんです」

なにそれうらやましい。

「俺が代わりに抱き枕になるからお前は退くんだ!!」

「お断りします。お兄ちゃんの抱き枕という大仕事をあなたみたいなチャラチャラした男に任せられません。髪を黒に染め直し、その刺青を削りとってから出直して来てください」

「削りとる!?」

「え?もしかしてお兄ちゃんのために頬を削り取る覚悟すらないんですか?」

「……っ!ある!あるに決まってんだろ!」

「そうですか、では私の言った通りにして出直して来てください。あぁ、染髪料は自分で用意してもらいますが削り取る為の包丁ならあちらにありますよ」

そういって先程投げられ壁に刺さっていた包丁を指差す。

「……いいじゃねぇか。
いーたんの為ならなんでもしてやんよ!」

俺はそんな宣戦布告をした後包丁を抜き取りいーたんの部屋から颯爽と去ってい

「まちなよ」

こうとした所で俺の行動は遮られた。
しかしそんなことはこの声の主に比べれば些末な問題だった。
俺は嬉々とした表情でその愛しい声の主の方に顔を向ける。

「い、いーたん!」

振り向くとそこには可愛らしく死んでいる目で俺に呆れているいーたんの姿があった。
その睨むような眼差しにぞくぞくした。
いーたん限定で俺はSにもMにもなるのだ!

「何やってんの…。あんまりにも騒がしいから起きちゃったじゃないか。しかもなんか僕の抱き枕と喧嘩してるし」

いーたんはぐいっと先程の女の子を引き寄せながら言う。

おいおい、俺に抱き締めてくれたことはなかったのによぉ…。羨ましいじゃねぇかよぉ…。そいつもなんか満更でもなさそうな顔をしてるよ。妬ける。

「…別になんでもねぇよ」
と、そっぽを向きながら俺は言う。
我ながら子供っぽい拗ね方だと思う。
けれど妬いちゃうものは妬いちゃうから仕方ないのだ。

「…………?どうしたの、零崎」

「…べっつに?まぁ、俺は邪魔者みたいだし今日は帰るわ」

モウコネェヨ!!と言う度胸は残念ながら俺にはなかった。
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