フリースタイラーの変遷

□アレスの天秤編
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ライセンスを持ってる者は会場に自由出入りができるが、流石にその日試合に出ないチームは警備の関係でロッカールームのある奥までは入れない。

『白恋中、出てこないね』

元チームメイトに激励を贈りたいんだけど。
そう言えば、意外と簡単に、いいですよ、と野坂が言ってくれたので、西蔭も含め3人で会場の入口で白恋中のメンバーが出てくるのを待っている。

「最後ですから、念入りに忘れ物がないかチェックしてるのでは?」

西蔭はなんとはなしに、最後と言ったが…、負けた彼らはもう今年はこのフィールドには立てない。
我々3年生は、最後のフットボールフロンティアだ。恐らく涙している者もいるのだろう。

『もう、しばらくかかるかな…』

気長に待つか、と思った矢先。
銀色の髪と桃色の髪をした顔のよく似た兄弟が出てきた。

「出てきましたね」

「あれ?もしかして、ボクらにお客さんかな?」

にっこりと士郎が笑う横で、ああん?と睨みつけるようにアツヤが目を細めた。

「コイツら確か、王帝月ノ宮とかいう……」

「キャプテンの野坂くん。キーパーの西蔭くん。それに元雷門の水津さん。なんの用かな?」

「元雷門…!」

ちらり、とアツヤがこちらを見て、お前が、と呟いた。
なんだよ、白恋中にも居るだろ元雷門。


「用があるのは梅雨さんだけ。僕らはただの付き添いだよ」

『君ら、というか染岡に会いにきたんだけど……』

「ああ。なるほど。染岡くんならもうすぐ出てくると思うよ」

『そう。ありがとう』

礼を言って、彼が立ち去るのに邪魔だろうと道を開けたが、2人とも動かない。

首を傾げていれば、士郎はまた、にっこりと笑った。なるほど、これが雪原のプリンス。顔がいい。ファンが多いのも頷ける。

「ねぇ、水津さん。今スマホ持ってる?」

『…うん?持ってるけど』

なに?と不思議に思っている私の目の前で士郎はジャージポケットから自分のスマホを取り出してこちらに向けた。

「連絡先交換しようよ」

『はい?????』

え、なんだ突然。乙女ゲーはじまった???イナズマイレブンってサッカーゲームじゃなかったか?

「染岡くんの事で聞きたいことがあるんだ」

コソコソ、と小声で士郎がそう言う。
染岡の事?……あの性格だし扱いに困ってんのかな?
でも試合見た限りじゃ、仲良くやってそうだったけど……。

まあ、別に何か不利益を被るわけではないだろうし連絡先交換くらいはいいか。………、いや、ファンに後から刺されたりしないかな。

『ファンに刺されたら恨むからね』

そう言ってスマホを取り出せば、士郎は何言ってるの?と首を傾げていた。

互いにメッセージアプリでフレンド登録を済ませた所で、会場の方から女の子の声が聞こえてきた。

「あれー?アンタら先に戻るって言いよったのに、なんでまだこんなところにおるんね?」

吹雪兄弟を見て、会場から現れたなえちゃんがそう叫ぶ。

「おい!白兎屋!自分の荷物くらい自分で持て!!!」

そう怒鳴り声を上げながら、2人分の荷物を抱えた染岡が現れた。彼はこちらを見て、ぱちくりとその三白眼を見開いた。

「え、お前……」

『よっ』

軽く手を上げて見せれば、どうしたんだよ、と言いながら近づいてきた。

「染岡くんに会いに来たんだって」

「良かったな、染岡さん」

そう言ってアツヤは染岡の肩を叩き、肩にかけていた荷物のひとつを取った。
それをブンブンと振り回しながらアツヤは会場の外に向かって歩いていく。

「ちょっと!それウチの荷物ー!!乱暴にせんとってー!!」

そう言いながらなえちゃんがそれを追いかけて行く。それを見て、ふふっと笑った吹雪が、お先にと手を振って彼らの後を追っていく。

『賑やかだね』

「あー、うるせぇだろ」

『いいじゃない、楽しそうで』

そう言えば、染岡は私の後ろにいる野坂と西蔭をちらりと見た。

「お前んとこの、だよな」

『そう。可愛い後輩くんたちだよ』

そう言えば、2人は軽く会釈をした。
王帝月ノ宮の子だもん、礼節はきちんとするよう躾られている。

「そうか。つか、なんだよ、わざわざ。負けたの笑いに来たのか?」

『ははは、キミの中で私はそんなに性格悪いのかな?』

腕をめいっぱい伸ばして染岡の頬を抓る。

「いてぇ、って!そういうとこだろ、そう思われんの!」

そう言って私の手から逃げるように、染岡は1歩後ろに下がった。

『ばーか。最後だし、落ち込んでんじゃないかと思って心配して来たのに…』

「…あー。アイツらのお守りでそんな暇ねぇよ」

『そう…?』

おう、と染岡は小さく頷く。

「まあ、お前んとこと当たってみたかったってのはあるけどな」

うちと当たるなら決勝だけだ。
……そりゃ決勝行きたかったよなぁ。

『まあ、ウチと戦う前にそっちのブロックだと円堂と当たってただろうからどの道な〜』

「どの道ってお前っ、言うなぁ……。そこまで言うなら、お前が勝ち上がれよ。そんで円堂にボコされろ!」

『ははっ、決勝まで行けって?任せときなさいな』

とん、と胸を叩く。

『優勝もかっさらっちゃうもんね〜』

「おう。頑張れよ」

そう言って染岡は少し低い位置に手のひらを掲げる。
同じように手を伸ばして、思いっきり叩きつけた。

ハイタッチ
思いっきりやりすぎて、いってぇ!と染岡はバカでかい声を上げていた。
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