フリースタイラーの変遷

□アレスの天秤編
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此処で会ったが百年目、そう言って1年前のいざこざ(というか向こうが一方的に勝手に突っかかってくる)を抱えた霧隠のいる、戦国伊賀島中をボコボコに叩きのめした。
野坂的には戦術合戦楽しかったみたいだが、私は試合前のウォーミングアップの時点から霧隠が絡んできて、めっちゃくちゃ疲れた。


「昨年の決勝で激闘を演じた世宇子を1回戦で破った雷門!次に迎える相手は北の強豪、白恋!強いチームワークを図るこの両校、果たしてどのような戦いを見せてくれるのでしょうか!」

開幕の実況の後、スポンサーによるCMがモニターに流れている。

前回の世宇子と雷門との試合は、うちと星章との試合の日で被っていて会場で観られなかったが、後のニュースやウェブで取り上げられた映像を見た。
神のアクアを使う事をやめた世宇子中の子らは、画面越しだけど生き生きしてるように見えた。

「梅雨さんも食べる?」

そう言って野坂が、絶賛CM中の白恋中スポンサーのしろうさぎ本舗と書かれた箱を開け、中身が取りやすいようにこちらに傾けた。

『ありがとう』

ピンクのうさぎの形をしたまんじゅうをひとつ手に取る。
その後野坂も、ひとつ白色のうさぎを手に取って、その頭を齧った。

「ん、これはまさに、弾む美味しさぴょんぴょんぴょん、だね」

「はい。……、?えっ!?」

野坂全肯定bot西蔭も、流石にこれにはドン引きしている。

「今…、なんと……?」

野坂ってクソ真面目そうに見えて、時々おかしな事言い出すよね。
感情の抑制を促すアレスの天秤が、ウイットやユーモアが育つようには教育しないだろうし、元々の資質だろうなぁ。

そう思い、私もピンクのうさぎにかぶりついた。

『……うーん』

「あれ?好みではないですか?」

『いや、最近何食べても味しないんだよねー』

本来なら餡子の甘みがあるはずであろうが、全然感じない。まんじゅうにしては餅に近い弾力のあるそれを、もちゃもちゃと噛み進める。

「…それは」

「また風邪ですか」

ふむ、と悩むような素振りの野坂の隣から、呆れたような視線をこちらに向ける西蔭に、いやいやと首を振る。

『それが、体調は悪くないし全然元気なんだよね。一応明日、例の検査だしその時に調べてもらうよ』

まあ十中八九、アレスの天秤による副作用ってやつだとは思ってるけど。
ちらりと野坂を見れば怪訝そうな顔をしているが、茜ちゃんの感情の起伏が死んだり、野坂の脳腫瘍と比べたら可愛いもんだと思うけど。

『さて、試合始まりそうだね』

フィールドを見れば、両校の選手がそれぞれのポジションに着いている。


「雷門中対白恋中。雷門ボールでキックオフです!」

ピーッとホイッスルが鳴り、剛陣から小僧丸へボールが蹴られ一斉に走り出す。

「白恋中は、吹雪兄弟、それから強化委員の染岡竜吾の3TOPチーム」

「攻撃型の布陣だね」

そうなんだよね。吹雪アツヤがFWはそうだろうなって感じだけど、吹雪士郎の方もまさかのFW。アツヤが攻めて士郎が守る完璧なサッカーではない。
アツヤが生きているって事が、士郎をFWにしたのか、それとも士郎がFWだからアツヤが生きているのか。私の知るイナズマイレブンとは既に違ってしまっているから分からないが……。


『ああ……』

フィールドを見て思わず頭を抱える。

『そんなとこまで"雷門"しなくていいって…』

GKであるはずの、のりかちゃんがゴールを放り出して前衛に上がっている。


「おや、これは…。確か円堂さんも型破りなキーパーでしたよね」

「俺はキーパーなのにシュートを打ちに混ざるのは、リスクが高いので感心しませんが……」

ボールを持った稲森と小僧丸の傍にのりかちゃんが追いつき、彼らは3人でシュート体勢に入った。

「「「ホッキョクグマ2号」」」

3人の背中から大きなホッキョクグマが現れ、氷のシュートを放つ。
雪原のプリンスと熊殺しに対して、ホッキョクグマをぶつけてくるって、あの雷門の新監督何考えてんだか。

思った通り、ホッキョクグマ2号は、アツヤによる必殺クマゴロシ・縛という技に止められてしまう。

しっかし、FW位置からDFにまで回るスピードの速さ。やっぱり彼は吹雪、なんだなぁ。

ボールを止めたアツヤは、ドリブルしながら強引なタックルで小僧丸と稲森を弾き飛ばし、センターに向かう。そこからもう1人の吹雪へとパスをする。

ボールをトラップした士郎の前に、道成と奥入が立ち塞がるが、こちらの吹雪も流石のスピードとテクニックで、奥入の方へ行くと見せかけたフェイントで、2人の間をするりと抜けた。

「へぇ…」

感心したような、野坂の声が隣から聞こえる。

士郎が抜ける間に颯爽とゴール前に上がったアツヤを岩戸が抑えればその前に染岡が周り、マークに着いたはずの岩戸が逆に動きを封じられた。

『おお』

雷門での染岡だったら、俺にパスしろって反対のラインを上がってる所だっただろう。
今までのライバルへの闘争心での攻撃的な動きではなく、冷静に考えて動いている様子だ。

『みんな、成長してんだね』

動けない岩戸の代わりに、日和と服部がアツヤと染岡にパスさせまいと士郎の前に立ち塞がる。

「…FW3人を意識し過ぎだね」

野坂の言った直後、士郎は、ちょんとつま先で小さくボールを蹴った。
その小さなパスを吹雪の真横から空野が、素早く蹴り飛ばし、中央に駆け上がった紺子ちゃんへとパスを出して2人は散る。そして紺子ちゃんから、後ろの居屋に1度戻された後そこからまた士郎へと素早いパス連携でボールが戻った。

「さあ、仕上げと行こうか」

岩戸の前の染岡が動けば、そのマークに道成が動き、岩戸も釣られ、アツヤへの警戒が逸れた。
そのタイミングで、士郎からダイレクトにアツヤへパスが飛ぶ。

「くらえ!必殺クマゴロシ・斬!!」

紅いシュートがゴールへと向かって飛んでいく。
シュート技、エターナルブリザードじゃないんだ…。

「ウズマキ・ザ・ハンド!」

のりかちゃんも必殺技で対抗するが、クマゴロシの威力に押されゴールが割られた。

「ゴール!!!先制点を決めたのは、白恋のエースストライカー吹雪アツヤだ!!」

『……必殺クマゴロシ・斬か…』

吹雪の人格が生み出したアツヤとは別物の、13年生きているアツヤって事だもんね。そりゃあ、使う技も違うか。

『でも、凄い違和感』

頭で分かってても、やっぱり変な感じするなぁ。

「水津さん?」

『なんでもないよ』

不思議そうに見てきた西蔭にそう返せば、首を傾げられた。

IFの世界
もしもが叶った世界が、ココなのだとしたら。
私がこの世界に来たのは、もう一度ボールを蹴りたかったから、なのかな。
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