フリースタイラーの変遷

□アレスの天秤編
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スタジアムの外まで稲森を送って、それから寮に戻れば、部屋の扉の前で険しい顔をした西蔭が立っていた。

『西蔭?どうしたの?』

「アンタ、1人で何処に行ってたんですか」

あっ、やっべぇ。護衛なんも付けないで出ると西蔭うるさいんだよね。

『いやー、1人じゃなかったよ。さっきまでは』

だって、稲森といたし。

「稲森明日人と居たことはひとりじゃないに入りませんよ」

バレてるし。
まあ私が寮の部屋から稲森が侵入してくるのが見えたってことは、西蔭も私が稲森を送るところ見たって事だろうな。

『えへ』

とりあえず笑って誤魔化そう。

「えへ、じゃありません。何度言えば分かるんですか?」

『ごめんって。でもあれ以来なんも起こらないんだからちょっとくらい大丈夫だって』

「そのちょっとが命取りになりかねません」

相変わらずお堅いなぁ。
いや、私が逆の立場だったら同じこと言うか。

『うん。ごめんね。心配かけたね』

「......。ところで、何故、稲森明日人と?」

おや?前は、貴女の心配なんかしてませんって言ってたのに、否定しなかったな。

『ああ、前に私が雷門に偵察に行ったから向こうも偵察に来たって...』

「なるほど」

『...のは嘘なんだけど』

一瞬信じた西蔭が、信じられないと言う顔でこちらを見た。

『人探ししてたみたいで』

「人探し、ですか?」

『うん。雷門中マネージャーの神門杏奈ちゃん。知ってる?』

「誰ですか、それ?」

それって。マネージャー達もライセンスカード登録されてるのに。
まあ西蔭が女の子に興味あるわけないか。野坂厨だしな。

「星章との試合の後に声をかけて来た子だよ」

そう言って私の後ろの廊下を野坂が歩いてきた。
星章との試合の後に声かけて来たっけ?私は気分悪くて、丘野たちと早々にロッカールームに戻ったから、その時かな。野坂と西蔭は戻ってくるの遅かったし。

「ああ、あの時の女ですか」

「そうだよ。で、なんで彼女の話をしてたんだい?」

「稲森明日人がそいつを探していたらしいです」

「稲森くんが?」

どういう事?と野坂が首をかしげる。

『どうにも監督に唆されたらしいよ。杏奈ちゃんがイケナイお友達に唆されてるって。それでウチに来た稲森を保護して送り返したんだけど』

「へぇ。そうだったんだ。確かに杏奈さんは来てたよ」

「あの女も来ていたんですか!?」

西蔭は心底嫌そうな顔をした。

「ああ。僕に会いに来たみたいでね。それにしてもイケナイお友達か。雷門の監督は随分とユニークだね」

「野坂さんがあんな女と友人なわけないでしょう。雷門の監督は頭がおかしいのでは?」

雷門の監督がおかしいのは確かだけど、西蔭の論点も変だよ。
とりあえず、野坂はあの場に私と稲森がいた事は気づいてないみたいだし良かった。話の内容が内容なだけに、勝手に聞かれるのは快く思わないだろうし。

『ところで、野坂はなんか用があったんじゃないの?』

部屋に居ない西蔭を探しに来たのか、私に用があったのか知らないが、わざわざ3年生達の部屋の前に来たのはそういう事だろう。

「ああ、そうだった。次の対戦校が決まったよ。戦国伊賀島中。梅雨さんは去年雷門で対戦してますよね」

『ああ、それで』

私が、というか雷門中の皆がだけど。

『そういう事ならとりあえず、中で話そうか』

いつまでも廊下じゃなんだしね。

部屋の中に入り、入口横のスイッチを押して部屋の灯りをつけてから2人を招きいれる。

私か野坂の部屋で会議するのがすっかり当たり前になってしまっていて、いつものように野坂は私の部屋のデスクの椅子に勝手に座り、西蔭は部屋の隅に立つ。自分はベッドに腰掛け、それじゃあと会議を始める。

「戦国伊賀島中。近畿ブロックの代表だね」

「監督が現役の忍者で、秘伝の術で選手を鍛えているとか」

流石は西蔭、事前情報はバッチリだね。

「去年雷門は2-1で勝利してますね。どうでしたか」

『去年は、スピード勝負みたいになってたかな。キャプテンの霧隠才次が圧倒的スピードを誇っていて、ウチの風丸と五分五分、いや、ドリブル勝負だと向こうの方が速いかな』

そもそも、風丸はサッカー始めたの2年生になってからだしね。

「蒼き疾風、風丸一郎太より速い、ですか」

風丸の2つ名もカッコ良いな。私なんかフリースタイラーってまんまの2つ名だもん、羨ましい。

『チームプレーで何とか勝利したけど、結構戦術を慮るチームだから苦労したね』

1期では唯一タクティクスを使ってたチームじゃないだろうか。

「たしか伊賀島流蹴球戦術でしたね」

『うん。陣形を素早い動きで変えてくるから、こちらもいくつか対応パターンを作った方がいいかも』

「なるほど。西蔭、戦国伊賀島の蹴球戦術を纏めて後で僕に送って」

了解です、と西蔭が言えば野坂は椅子から立ち上がった。

「梅雨さんは、要注意選手のピックアップを」

はーい、と返事をすれば、それじゃあと野坂は西蔭を連れてドアへと向かった。

「そういえば、」

ふと、立ち止まって野坂がそう言う。

「次の雷門の試合も見に行かれますか?」

『うん。雷門は次何処だっけ?』

「白恋中です」

そう答えた西蔭に対し、あー、と言葉にならない声を放った。


さて、
どっちを応援するべきか。
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