フリースタイラーの変遷

□世界への挑戦編
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パレス内のボーイに事情を説明すれば、直ぐに休憩室へと案内してくれた。

宮殿を思わせる内装で、絢爛豪華な調度品が並べられた部屋の真ん中にはテーブルと長ソファーがある。

フィリップの伝達のおかげか紅茶も早く部屋に届いた。彼の気遣いか2人分用意されていたのでソファーに並んで腰掛けて、一服した。

温まったところで、そうだと思い出す。

『染岡、上着ありがとうね』

助かったよ、と私には大きなその上着を肩から外そうとしたら隣の染岡は真っ赤な顔をしてそっぽを向いた。

「ま、まだ着てろよ!」

『なんで?』

もう温まったし素直に受け取ればよくない?と染岡を見れば、耳まで真っ赤なのが見える。

「め、」

『め?』

「……目のやり場に、こ、困るんだよ……」

どもりながら答えられ、ああ、と納得すると同時に悪戯心が芽生える。

『えっち』

そう言って胸元を隠すように自分で上着をかけ直したら、染岡は勢いよく顔をこっちへ向けた。

「ばっ、か!見てねえよ!!大体、お前が寒がりなくせしてそんな露出度高いの着てっから……!!」

ああ、寒がりなの覚えてて、それで上着を……。

『しょうがないじゃない?収まるのがこれしかなかったんだもん』

「収まるって……」

何がとは言わなかったのに、染岡の目線が私の首より下に向けられる。……見てるじゃんか。

『えっち』

もう一度そう言って胸元を手で隠せば、染岡はハッとしたように顔を上げた。

「いや!今のは、その、」

しどろもどろになる染岡が面白くてクスクスと笑っていれば、染岡は自分の足元に頭を向けて、はあ、と大きなため息を吐いた。

「からかってんだろ」

『うん』

正直に答えれば、また大きなため息を吐かれた。

「……こっちは本気で困ってるってのに」

そう呟いた後、染岡はカップを手に取りグイっと紅茶を一気に飲み干した、

「なあ、」

ちょっと上擦った声掛けにこちらも少し身構えた、なに?を返す。

「あー、その……」

切り出しにくそうなその様子に、もしかしてアレか、と思わず背筋が伸びる。
代表入りしたら話したいことがあるって言ってたもんな……。

「……お前、その…………ヒロトと、つ、付き合ってんのか?」

『はい?』

思ってもなかった質問が来て、思ったより大きな声で聞き返してしまう。

『え?なんて?』

「いや、だから……お前とヒロトが付き合ってるのかって……」

『私と、ヒロトが?』

聞き返せば、うんと頷かれた。

もし、ここで、そうだと答えたら染岡はどんな顔をするだろうか……。
怖いもの見たさで見てみたさもあるが、巻き込まれるヒロトも可哀想だ。

『どうしてそう思ったのか知らないけど、付き合ってないよ』

そう言えば、染岡の顔が安堵の表情になった。

ごめんね。


『それに、みんな真剣に世界のてっぺん目指してるのに、そんな浮ついた事はしないよ。相手が誰であろうとね』

染岡が何かを言う前に先手を打とうと、そう言った。

「あ……。そ、そうだよな」

染岡の表情は一変して悲愴的になる。


「……悪ぃ、変なこと聞いて」

『ううん』

首を振って、カップを手に取り紅茶を飲み干す。

『さて、そろそろ戻ろうか』

そう言って立ち上がる。

「もう、か?」

『うん。一大イベントあるし』

イベント?と首を傾げながら染岡も立ち上がる。
ほら行こうと染岡の腕を掴めば、一瞬固まったあと、ああと頷いて、来た時と同じようにぎこちないエスコートをしてくれて、部屋を出た。


「あ、染岡!と、水津……か?」

パレスのロビーでタキシードを来た円堂と出会った。額にはいつものオレンジのバンダナが巻かれたままだ。

『なんで疑問形?』

「え、いや、なんかいつもと雰囲気違うからさ」

『そう?』

「うん。な、染岡」

「な、なんで俺に振るんだよ………まあ、その……綺麗、だよな」

掴んでいない方の手で染岡は照れたように頬をかいた。

『え、あ、ありがとう。その、染岡もよく似合ってるよ』

ストレートな褒め言葉に照れて、誤魔化すようにそう告げる。

「お、おう、そうか?」

『う、うん』

まるでヤのつく人みたい、で似合ってると言うのは止めておこう。
この話題はもういいから行こうと腕を引けば染岡も歩きだし、円堂も着いてくる。

「いいよな、染岡は」

扉を開けて外に出ながら円堂はそう言った。

「タッパがあるから似合うもんな。俺はしっくりこないっていうか……」

庭に出ながら円堂はグルグルと腕を回す。

「やっぱりなんか変なんだよな」

「円堂さーん!」

「こっちだこっち!」

ごちる円堂に、立向居が大きく手を振り風丸が呼んでいる。

「ふ、ふふふ」

含んだような低い笑い声に、みんなの視線が一気に白いタキシードに身を包んだ水色の長髪の少年に向けられる。

「いや、失礼。あまりにも似合ってたもんだから」

その言葉に、は?と誰ともなく反応する。どう聞いても今のは嫌味だろう。

「さあ冬花さん、向こうへ行きましょうか。デザートもありますよ」

エスコートするように手を冬花ちゃんの後ろに回す。
冬花ちゃんは困ったように、え、あの……と呟いている。

その様子に、キランと眼鏡を光らせる者が居た。

「待っていただけますか?」

「ん?」

目金が呼び呼び止めれば、少年、エドガー・バルチナスは振り向いた。

「うちのキャプテンに失礼じゃないですか」

「失礼?」

ははは、とエドガーは笑った。

「困るなぁ、誤解してもらっては。私は褒めたんですよ」

やれやれと肩をすくめるエドガーに、褒めたぁ?と土方が喰らいつく。

「ええ。だから言ったじゃないですか、似合ってるって」

「お前なぁ!!」

怒る綱海に、やめろ!と円堂が手で制した。

「けど、円堂!このままじゃ!」

「キャプテンを馬鹿にされて黙ってられないでヤンス!」

栗松が綱海に乗って抗議する。

「その思いはグラウンドでぶつければいい。俺たちのサッカーを見せてやればいいんだ。俺たちはサッカーをしに来たんだろ?」

円堂のその言葉に、綱海と栗松はハッとさせられたように黙った。
守くん……!と感心したような声を上げる冬花ちゃんを横に、エドガーは面白く無さそうな表情へと変わった。

「って、事だ、楽しみにしてな!コテンパンにやっつけてやるからよ」

染岡が煽るようにそう言えば、エドガーが笑みを浮かべた。

「やってみますか?今ここで」

え?と驚きの声が上がる中、私1人クスクスと笑ってしまった。

「おや、何か面白いことでも?」

『いえ、可愛いなと思って』

「はい?」

だって隣にいる女の子が自分より他の男を見てるのが気に食わなくて皮肉を言ったら通じなくて、それなら力で示そうだなんて可愛いでしょうよ。

『いいんじゃないですか?


セカンダリースクール生らしくて
馬鹿にされたと分かったエドガーは、一瞬苛立ったような顔を見せたが直ぐにニッコリと私に笑顔を向けた後、どうでしょうと、円堂に1対1の戦いを申し出るのだった。
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