フリースタイラーの変遷

□世界への挑戦編
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向こうじゃ足の麻痺があったから長年平たくて脱げにくい安全な靴しか履いてこなかった。
だからこういうヒールの高い靴は履きなれていないので、キャラバンの乗り降りもヒロトがエスコートという名の介護をしてくれて助かった。

円堂と彼を呼びに行った秋ちゃん以外は無事、イギリスエリアのロンドンパレスへと到着した。
パーティー会場は噴水のあるイングリッシュガーデンで、立食パーティー式になっていた。

『ありがとうヒロト。せっかくの親善パーティーなんだ。お食事でも交流でも楽しんでおいで』

そう言って支えになってくれていたヒロトの手を離す。

「ひとりで大丈夫ですか?」

『うん。段差がなければ問題ないよ』

傍から見ればちょっと歩くのぎこちないかもしれないけれど。

「もし、助けが必要ならいつでも呼んでね」

ヒロトはそう気さくに言って料理が並んでるテーブルの方へ歩いていく。

他の子達も交流よりも先に食事のようで料理を取りに行っている。
それに、海外の人との交流ってどうしたらいいかわかんないしねぇ。
……そう言えば、授業なんかでは英語があるし、ライオコット島のロビーのアナウンスも英語だったんだけど、なんで会話したときは日本語に聞こえるんだろう。超次元だからと言ってしまえばそれだけなのだが、サッカープレイヤーには自動翻訳スキルでも付与されているんだろうか……。

まあそんな事考えてもしょうがないか。
とりあえずせっかくのパーティーだし何かアルコールでも………っと、そうだわ。今は一応身体は未成年だし、なによりこのパーティー子供達のためのものだからそもそも用意がなさそうだ。
見るからに先に来ている招待客やナイツオブクィーンのメンバーが持っているのはジュースのグラスが多い。

庭は綺麗なんだけど、外だから日も暮れると気温が下がり夜風も吹くので少し肌寒く感じる。
出来れば温かい飲み物が欲しいけど、無理かなぁ……と周囲を見ていれば、イギリスの近衛兵の帽子を目が隠れるほど深く被った少年がティーカップを持っていた。

「失礼。何かお困りかな」

その声に振り返れば灰色の髪を逆立てた少年が立っていた。

『あ、ナイツオブクィーンのFWの……』

「フィリップ・オーウェンだ」

よろしくと手を差し出されたのでその手を取った。

『イナズマジャパンのトレーナーをしています。水津梅雨です』

あ、ファーストネームを先に言うべきだったか!?

「へえ、その若さでトレーナーを」

まあ驚くよね。外国の方から見たら日本人って実年齢より幼く見えるらしいし。……実際、私は実年齢より見た目はだいぶ若いけど。

「ところで、何か探しているようだったけれど」

『あぁ、向こうに紅茶を飲んでる人がいるでしょう?私も同じものが欲しくて』

先程見かけた近衛兵の帽子の少年の方を見ればフィリップは、ああと頷いてドリンクを盆に乗せたウェイターを呼んだ。

「こちらのレディに紅茶を」

フィリップがそう言えば、ウェイターはかしこまりましたと返事をして、少々お待ちくださいと下がっていく。

ここ噴水近くて肌寒いし、紅茶早くくるといいなと腕をさする。

「紅茶が好きなのか?」

『ええ。それに、イギリスと言えば紅茶だし、ここなら本場さながらのが頂けるんじゃないかと思って』

そう答えれば、フィリップの表情がぱあっと明るくなった。

「へぇ、うれしいね。イギリスの料理にも興味はないかい?」

『イギリス料理と言えば……』

まずい、の印象が某国擬人化漫画を読んだ影響で強いのだけれど……。

「あはは、やっぱりまずいのイメージか」

『え、ああ、いや、本場のは食べたことないし、フィッシュアンドチップスとローストビーフとスコーンぐらいしか知らなくて』

「なるほど。実は俺は将来、料理人になりたくてね。絶対にまずいって言わせないようにしたいんだ!」

選手情報みたら世界大会に出てて将来の夢、サッカー選手じゃないんだって子結構いるよねイナイレ。

『へぇ、素敵な夢だ……くしゅん!』

褒めようとした途中でくしゃみが出れば、フィリップからbless youと声をかけられたのでカタコトのサンキューを返した。

「もしかして寒いのか?」

『ええ、ちょっとね』

そう答えればフィリップは上着のボタンを外し始めた。流石英国紳士と思っていれば、彼は右腕の袖を脱いだところで、おや、というように動きを止めた。

「寒いんならこれ着てろ」

『え?』

驚く間も無く肩に黒いタキシードの上着が掛けられた。
振り向けば後ろには上着を脱いだ染岡が立っていた。その目はギッとフィリップを睨んでいる。

いや、もうタイミング良すぎる。
もしかして前から様子伺ってた?何それあまりにも可愛すぎる。こーれ、キュンです。
いやいやいや、中学生相手にときめいちゃダメだろ。お巡りさん私です。

『染岡これ、』

「なんでだよ。着てろよ」

肩から外して返そうとしたら押し返えされた。

『いや、しかしだねぇ、選手を風邪ひかせるわけには』

「俺は別に寒くねぇし、風邪ひかねぇよ。お前はさっきから腕さすってただろ」

『いや、でもね、』

「ククク、」

押し殺すような笑い声に、そういえばフィリップのこと忘れてたと振り返る。

「なんだよ」

ぎろりと染岡はまたもフィリップのことを睨んでいる。

「互いに心配しあってるのが面白くてね。パレスの中に休憩室を用意してあるからそこで休めばいいと思う」

そう言ってフィリップは庭に続く大きな建物を指した。

『あー、そうね。でも、紅茶が……』

「それならオレがパレスに持っていくよう伝えておくよ」

いいの?と聞けばフィリップはああと力強く頷いた。

「ほら、エスコートしてあげて」

「はあ!?エスコートって……」

どうしろってんだと慌てる染岡に、フィリップが小声で腕!腕!と指示を出す。
腕を伸ばしてきた染岡に後ろからフィリップが膝曲げて!とまた指示を出している。
染岡が肘を曲げればフィリップが満足そうにうんうんと頷いている。

「つ、掴まれよ」

『……うん』

よろしくとその腕に手をかけるのだった。

ぎこちないエスコート
緊張しているのか顔真っ赤な染岡は、何も言わずパレスへと私を引っ張るのであった。
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