フリースタイラーの変遷

□世界への挑戦編
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(染岡視点)

世界大会の開会式も無事に終わり、本戦のグループ分けも発表された。

Aグループは俺たちイナズマジャパンにイタリア代表オルフェウス、イギリス代表ナイツオブクィーン、アルゼンチン代表ジ・エンパイア、アメリカ代表ユニコーンの5チーム。

Bグループはブラジル代表ザ・キングダム、フランス代表ローズグリフォン、スペイン代表レッドマタドール、ドイツ代表ブロッケンボーグ、コトアール代表リトルギガントの5チーム。

それぞれのグループで総当たり戦を行い、勝ち3点、引き分け1点、負け0点で点数を付け、上位2チームが決勝トーナメントに進出することになる。

イナズマジャパンの初戦の相手はイギリス代表ナイツオブクィーンに決まり、皆の練習にも熱が入る中、監督の元に1枚の招待状が届いた。
内容は試合の前に親睦を深めるためのパーティーを行うので夕方、ロンドンパレスに正装で来て欲しいというものだった。

着慣れないタキシードに身を包み宿舎の廊下に次々集まる。

「閉まらないでやんす……」

「壁山くん!もっとお腹を引っ込めて!!」

「こ、こうッスか?」

「今です栗松くん!」

ぐぬぬ!と栗松と目金の2人が左右の布を真ん中へと引っ張ってどうにかボタンを止めた。

「ふぅ……」

「やっと閉まったでやんす」

息つく2人と共に壁山も大きく息を吐けば、ポンッとボタンがはじけ飛んで目金のデコにぶつかった。

その横では、ふんふふんと鼻歌交じりに蝶ネクタイを結ぶ木暮に、まるで七五三だなと、その頭をグリグリ撫でる土方の姿があった。


「みんな、用意はできた?」

そんな木野の声が上から聞こえて、みんな階段の方へと視線を上げた。
そこにはドレスで着飾ったマネージャー3人が居た。

「うわぁ、可愛いです!」

「綺麗でやんす!」

立向居と栗松が階段を降りてきた3人にそう声を掛ける。

「ちょっと、そんなにジロジロ見ないでくださいよ!」

音無が照れたように答える。

「へぇ、思ったより似合ってんじゃねえか」

と、綱海が悪気なく言い、その隣にいたヒロトがアッ、と止めるよりも先に女子3人の、え?と言ういつになく低い声が重なり合った。

「「「思ったより?」」」

「わりぃわりぃ、ついつい思ったこと言っちまってよ」

「フォローになってないぞ」

鬼道のツッコミに綱海は青い顔になって行く中、上からくつくつと笑い声が聞こえた。

『綱海は立向居と栗松を見習った方がいいよ』

「水津……!?」

うわぁ、とか、おお、とか周りから感嘆の声が上がる。
階段の一番上で手すりに掴まった水津はオフショルダーの黒のロングドレスを着ていて、スカートにはスリットが入っていて白い脚が見える。
髪型もいつもちょこんと結んでいるのとは違ってアレンジしているようだ。


「わぁ、水津さん、大人っぽくてかっこいいです!」

立向居がまたも一番に褒める。

『ありがとう。立向居はいい男だねぇ』

高い所から見下ろして水津は笑っている。

「あれ?円堂くんは?」

木野がふと、そう呟けば、そういえば居ないねとヒロトが答える。
皆、どこいったんだという顔をして顔を見合わせる。

「あ、もしかして」

心当たりがある、と言う木野はみんなで先に会場に向かってて、とドレスのまま外へ飛び出して行く。

「水津もそろそろ降りてきたらどうだ?」

豪炎寺がそう声をかければ、先程まで微笑ましそうに木野が出ていくのを見ていた水津の顔が焦ったようになった。

『ああ、うん、そうね………、降りなきゃかぁ……』

はあ、と大きなため息を吐いている。
様子のおかしい水津を皆どうした?と見上げる。

『いや、見られると余計降りにくいんですけど………』

はあ、ともう一回ため息を吐いた水津は、震えた様子でゆっくりと1歩階段を降りた。
それを見て、ああ、と察したように呟く声が聞こえたかと思うと、ヒロトが階段を駆け上がった。

「お手をどうぞ」

スマートに差し伸べられた手を水津が少し恥ずかしそうにありがとうと笑って取り、2人はゆっくりと階段を降りてくる。

「わあ、王子様とお姫様みたいです!」

音無の無邪気な言葉に、確かにと思う。
絵になるっつーのはこういうのを言うんだろうな………。
素直にそう思う反面、黒い感情も沸き立つ。

「水津さん、ハイヒール履き慣れてないでやんすか?」

2人が一番下まで降りて来たら栗松が質問した。

『うん、履く機会なくてね』

「へー、大人の女の人ってみんな履いてるもんだと思ってたッス」

『あはは、履かない大人もいるよ!私は特に足の麻痺あったからヒールとか怖くて履けなかったし』

笑って答える水津に、ああそれでと皆は納得する。

『今回は用意されてたから履いてみたけど、ぶっちゃけ怖い!』

靴の踵の方を見てみれば、5cm位は高さあるし先は細くなってるしで確かに怖いだろうなと思う。

「ああ、じゃあこのまま会場までエスコートするよ」

水津と手を重ねたままのヒロトがそう言う。

『ほんと?そうして貰えると助かる』

「じゃあ、みんな行こうか」

エスコートして水津を連れていくヒロトを、

見つめるしかできなかった
エスコートはともかく、似合ってるを伝える暇さえなかった。
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