フリースタイラーの変遷

□世界への挑戦編
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ルール上、一度交代した選手を戻す事は出来ないので、鬼道を後から戻したい監督は、緑川と不動の選手交代だけを審判に伝え、フィールドには10人だけの状態で後半戦がスタートした。

今大会初めての出場となる不動は、後半戦開始早々、執拗に南雲にチャージを仕掛け、しつこさに相手がムキになってもう一度ぶつかり返そうとした所であえて身を引き、相手がよろけたところでボールを奪うという頭脳戦を見せ、やるじゃないか、と皆が彼を見直したのもつかの間……。

ボールを奪いに来たキム・ウンヨンを引き離す為に、あえて後ろに戻り、壁山にボールをぶつけて跳ね返るのを利用し、向かってきたファン・ウミャンを突破するのにも風丸にボールをぶつけてやり過ごし、跳ね返ったボールを拾って走っていく。

「風丸さん!」

「大丈夫。……俺もお前と同じように利用されたみたいだぞ」

せっかく株を上げかけたのに、直ぐさま不信感の方が増してしまった。

「こっちだ!」

そんな不動にヒロトがパス要求するが無視して、ゴール前まで走り、シュートを打った。
必殺技でもない普通のシュートは簡単に、キーパーのチョ・ジョンスが止めてしまった。

「不動!なんでヒロトに回さなかった?何故パスしない」

風丸が詰めよれば、不動は耳をほじってうるせえなぁと呟く。

「どうしようと俺の勝手だ」

「なんだと!?」

「熱くなるなよ、風丸クン」

ッ、と風丸が言葉にならない怒りを表した。


「風丸……、不動……」

ベンチに並ぶ円堂が心配そうに行く末を見守る。

「やめるんだ!今は仲間同士いがみ合ってる場合じゃない」

キャプテン経験のあるヒロトが諌めようと仲裁に入れば、フンと鼻を鳴らして不動は彼らから離れて行く。

「あの人……、誰も信じてないのかも……。だからみんなも彼を信じようとしない」

冬花ちゃんがそう呟く。
まあ、逆も然りだと思うけれどね。みんなが彼を信じないから、彼もみんなを信じない。

「不動……」

「どうしてアイツは……」

「強い思いを持ったものは強くなれる」

鬼道が疑問を口にした後ろから、そんな台詞が聞こえた。

「たとえ、それが正しい方向でなかろうとな」

「響木監督……」

ベンチの横までやってきた響木さんは、フィールドを見つめながら、鬼道、と声をかける。

「お前は俺に聞いた。何故不動をスカウトしたのか」

「はい」

「アイツが異常なまでに力を得ようとするのには理由がある」

不動が力を求める理由は、彼の父親が上司の失敗の責任を負わされ、不当な解雇にあった。それ以来、借金取りに追われ家庭が暗く沈んでしまう。
借金取り達に頭を下げることしか出来ない父親と、そんな父親に愛想を尽かした母親から、あなたは偉くなって人を見返しなさい、と懇願されたことが影響して今の彼になった。

「力を手に入れなければ何も出来ない。力を手に入れて上に上がることが、自分を守る唯一の手段だと思い込んでいる」

だからこそ彼は見えない努力を惜しまない。

「その後、真・帝国学園を組織した影山に取り入ろうとしたが失敗に終わった。だが、俺はアイツにサッカープレイヤーとしての才能を感じた」

『天性の才能ではない、のし上がる為に研鑽され積み重ねられた才能、ですよね』

ああ、と響木さんは頷いた。
黙って響木さんの話を聞いていた鬼道が立ち上がって頭を下げる。

「ありがとうございます。少しアイツが分かって来ました」

そんな不動の事情が知れた所で、フィールドでは、独断で動く不動に風丸がパスを回せと叫んでいた。

「不動!」

「そんなにボールが欲しいんなら俺から奪い取ってみるんだな!」

不動の煽りに、風丸がグッと歯を食いしばったのを見て、鬼道は響木さんを見上げる。

「ですが、それとこれとは別です。あんなプレーをする不動を受け入れることはできません」

「もちろんそれはお前たち次第だ」

響木さんの答えに鬼道は、えっ、と呟いた。
不動を正すのではなく、自分たちが?と思った事だろう。

『ま、不動以外のみんなが今はあの時の半田って感じかな』

「え、半田?」

なんで急に半田の話?と円堂が首を傾げる。

「あの時……?」

どの時だ、と鬼道は考え込む。
半田、今頃くしゃみしてたらごめんな。

フィールドでは不動が1人でボールを運んでシュートを打つがキム・ウンヨンに止められていま。

「また1人でシュートまで……」

秋ちゃんが不安そうに呟く。

「このままでは日本は間違いなく負ける。どうする、円堂」

久遠さんの問いに円堂は考える。

「……わかりません。オレにはこの試合をどう戦ったらいいのか……」

そう答える円堂の手は震えていた。

「試合を見ていても答えは出ない。今はチームをみるんだ」

「チームを……?」

円堂は再びフィールドへ視線を向けた。

『鬼道も座って考えなさい』

そう声をかければ、ああ、と頷いてベンチに座る。

「あの時の半田、というのは俺が雷門に合流した千羽山中との試合の事だろう?」

『そう。あの時の半田は鬼道に反発してたでしょ』

「まあ、それは俺が元々お前たちの敵だったのもあって、」

そこまで言って鬼道は、ああ、と呟いた。

「確かに、今の俺たち、だな」

そう。元々真・帝国学園という最悪の敵だった事もあって、みんなの不信感が強い。
全国の学校を破壊してた元宇宙人の緑川とヒロトは受け入れられているのに。まあ、そこは不動と緑川、ヒロトとの性格や態度の差もあるが……。

『なら、あの時の鬼道は今は不動だよね』

「なにを……。少なくとも俺は、雷門の実力を信じていた」

鬼道はムッとしたようにそう言い返してきた。

『どうして不動がイナズマジャパンの実力を信じてないって思ってうの?』

鬼道が言ってるはのは裏を返せばそういう事。

『パスをしないから?じゃあ、そこに元ワンマンプレイヤーがいるから聞いてみようか?吹雪』

そう名を呼べば、吹雪は、困ったような表情で、はは、と乾いた笑い声をあげた。

『吹雪も白恋中で紅白戦やった時、パスしないで怒られたじゃん?あれって、やっぱりみんなの実力信用してなかった?』

「えぇ……、えーっと、そうだなぁ。知り合って間もなかったし、実際試合して実力は分かったけど、信用とかそういうのじゃなくて……、ただ、あの時はボク1人でも出来るって思ってたから」

『だ、そうですよ、鬼道クン』

と、顔を見れば、鬼道は黙ったまま、また考え込んでいた。

「でも、不動くんが昔のボクと同じなら、教えてあげたいな」

その言葉に吹雪の方を振り返る。

「サッカーは11人でやるものだよって」

それを聞いて小さく笑う。

『分かってるでしょ。だって……』

ずっとベンチ温めてたんだから
誰よりもイナズマジャパンを見てるはずだよ。
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