フリースタイラーの変遷

□世界への挑戦編
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土方の代わりに栗松が入ったが、前半戦終了間際にアフロディの新必殺、ゴッドブレイクに1点を取られ逆転してしまった。

「後半戦は更にメンバーを変える」

ハーフタイムにベンチへ戻ってきた選手達に久遠さんはそう告げる。

「緑川、鬼道、お前たちは下がれ」

「なっ、」

約束通りの久遠さんの言葉に少しホッとして、私は先に診ていた土方のテーピングに取り掛かる。

「そんな!」

「緑川。無理をしすぎたようだ。脚に来ているぞ」

監督のその言葉に自覚はあるのか、緑川はバツが悪そうに顔を逸らす。

「自分が1番分かっているはずだ」

「……はい」

「鬼道はその膝だ。土方とぶつかった時、痛めただろう。トレーナーストップだ」

「ホントかよ、鬼道!?」

ぶつかった土方はえっ、と驚いた顔をしている。
まあ、鬼道はあまり痛がる様子は見せて無かったからねぇ。

「そうか」

ゴーグルをしているからハッキリとは分からないが、すました様子だった鬼道が眉を顰めるように表情を崩した。
色々と知っている私に隠し事は出来ないと、諦めたのだろう。

「下手に庇うように動いては悪化させるだけだ。すぐ、水津に診てもらうように」

「分かりました」

素直に鬼道がそう返事をする。
それを見て久遠さんはベンチへと視線を動かした。

「不動。お前が出ろ」

「え、不動!?」

鬼道が驚き、他のみんなも驚き、何より呼ばれた本人が1番驚いた顔をしていた。
だが、みんなの視線が集まると、不動は直ぐにフッと笑みを浮かべた。

「へぇ?やっとですか」

少し嬉しそうな声色でそう言って、不動はベンチから立ち上がる。

「待ってください!不動はまだチームに溶け込んでいません!」

鬼道の言葉に、不動の表情がムッとしたものに変わった。

「世界進出のかかった大事な試合で何故不動を……」

「敵は不動を知らない」

鬼道が言い終わる前に久遠さんがそう言い退ける。

「え、」

「不動はジョーカーだ」

「フッ。ジョーカーですか」

そうか、と風丸が納得したように声を上げた。

「今まで試合に出ていない不動はきっと、韓国にはデータがない」

「上手く行けば流れをこっちに戻せるかもしれない」

「円堂……」

確かに、一理あるなとヒロトも頷く。

「いい事言うねぇキャプテン」

揚々と不動は円堂の肩に手を置いた後、鬼道に少し顔を近づけてフッと鼻で笑った後、彼を押しのけた。

「強いものは弱いものを喰らって生きる。其れが自然界の掟だ」

そう言い捨ててフィールドへ向かって歩いていく。
試合再開にはまだ早い。恐らくアップでもしてくるのだろう。

「監督。あと一人は」

風丸がそう聞けば、久遠さんは、いや、と答えた。

「このまま10人でいく」

えっ!?とみんなが驚く中で、久遠さんは一瞬だけ私の方を見た。
はいはい、分かってますよ。
そのために、さっき、直ぐに診てもらえ、と言ったんでしょ。
クルクルと巻いていた包帯の最後をしっかりと粘着テープで止めて固定をする。

そんな……とみんなが不安そうにする中、円堂はみんなに声を掛けて士気を高め始めた。

『よし、鬼道おいで』

土方の手当を終えて、鬼道をベンチへと手招く。

『不服かもしれないけど、まずはしっかりケアをして』

そう言って、氷嚢を鬼道に手渡す。

「……ああ」

頷いた鬼道は右膝に氷嚢をのせるが、視線はアップをする不動に向けたままだ。

『やっぱり子供だねぇ』

14歳らしくて良い良いと頭を撫でる。

「おい、やめろ」

はいはい、と適当に返事をして、彼の前にしゃがんで膝を診る。

『動き見てた限りじゃ、折れてたりはして無さそうだったけど……』

折れてたり捻挫だったりだったら流石の鬼道でももっと痛みを訴えてただろうし……。

『アザにはなってるから、打撲かな。軽傷なら冷やすことで多少炎症や痛みを抑えれるとおもうけど……最低でも15分は冷やしとかないとね。世界を目指すなら尚更』

ここで身体を壊して世界に出場出来ないのなら元も子もない。
悔しいだろうな、と緑川と吹雪に視線を向ける。
特に緑川は、皆に置いてかれまいと必死にやった結果のオーバーワーク。

「こうやって冷やしていればいいのだろう?俺は大丈夫だ。緑川も診てやってくれ」

私の向けていた視線に気付いたのか鬼道がそう言う。
まあ、鬼道なら綱海と違って大人しく座ってられるか。…………いや、前科があるからな。

『春奈ちゃん』

ちょいちょいと手招きすれば、はい!と春奈ちゃんは駆けてきた。

『私、緑川の様子診るから、鬼道の事見ててね。氷溶けたら新しいのに替えてあげてね』

「了解しました!」

任せてください!と意気込んだ春奈ちゃんに鬼道の事は任せて、ベンチでしょぼんと座っている緑川の所へ向かう。

『脚、結構痛い?』

そう超えをかけると、緑川は驚いたように顔を上げた。

「え、あっ、えっーと……」

うーん、と緑川は困ったような表情に変わった。

『ふーむ?痛いってわけじゃないのか。ちょっと触るね』

そう言って彼の前にしゃがんでふくらはぎに触れてみる。

『腫れてるし硬いね』

やっぱり、初期の過度な練習から貯金が積もり積もった結果の疲労だろうな。

『これ、脚相当だるいでしょ』

はは、と緑川は苦笑いを零す。
血行不良……。今は浮腫んでるだけかもしれないが、これが更に蓄積されるとなると…………。

アニメ見てた頃は緑川の離脱に、何故って思ってたけど、こちらの……大人の目線に経つと分かる。
彼の将来を考えれば、ここでチームから外す選択しかない。
このままチームに存続させては、緑川の性格上、必ず無理をする。そのせいで身体を壊したら、今回の大会どころかこの先の選手生命すら絶たれてしまうかもしれない。

告げるには酷だが
第二の私を生まないためにも告げねばなるまい。
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