フリースタイラーの変遷

□世界への挑戦編
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涼しい顔をしている瞳子さんに、いやいやいやいや!と慌てて詰め寄る。

『そもそも、日本代表の座を奪うため試合に来たんでしょ!?』

「ええそうよ」

瞳子さんが頷けば、イナズマジャパンのメンバーは、なんだってー!?と驚きの声を上げている。

「日本代表を掛けた試合にネオジャパンが勝つ為に、貴女が必要なのよ」

まっすぐな瞳に見つめられて、思わず視線を逸らす。

『必要って……そもそも私が入るなんてチームの子達が納得しないでしょ!?』

特に霧隠なんかは戦国伊賀島戦の時突っかかって来てたし……!
そっと視線をふわふわのピンク髪の方へ移せば、彼はしかめっ面になった。

「ここに来る前にみんなに伝えて、納得した者だけがここに来てるわ」

瞳子さんの言葉を聞いて今一度霧隠の顔を見る。

『うっそだぁ』

ぐぬぬ、って苦虫を噛み潰したような顔してるって。

『……大体、私がシナリオ通りに進める為に本気でサッカーしないの、瞳子さんもデザームも知ってるでしょう』

「砂木沼だ」

ええ、と頷く瞳子と別にしっかり名前の訂正をしたデザームこと砂木沼治は、私の方へ歩み寄ってきた。

「確かにお前がシュートの手を抜いたことはわかっていた」

うんうんと、わざと外したあの時、イプシロンのキーパーだったゼルこと瀬方隆一郎も頷いている。

「だが、皆が地に伏した時立ち上がり俺を止めようとした貴様は本気だった」

『それは……』

致し方なくというか、物語を正常に戻すために頑張ってただけで……。

「本気の貴様は強い!そして、決められたシナリオなどつまらんだろう!だから本気になれ水津梅雨!」

うーん、めちゃくちゃ言ってくれるな。

正直、ダークエンペラーズの時は円堂が何とかしてくてると信じていたから、エイリア石を手に取った。
きっと、今回私がネオジャパンに入っても円堂達は勝ってくれると思う。
だからと言って私がその行動を起こせば……。




「……貴女は、消えたくないのね」

そう言って瞳子さんは、テーブルの上に置かれたカップを手に取りコーヒーを啜った。

結局、私は、『イナズマジャパンを応援すると決めてるんで』なんて都合のいい言い訳をして、瞳子さんからのお誘いを蹴った。
その後は、シナリオ通り、イナズマジャパンとネオジャパンが試合をして、緑川がライトニングアクセルを習得したり、風丸が風神の舞を完成させたりして、イナズマジャパンの勝利で試合を収めた。

そして試合終わりに瞳子さんに誘われて、2人でカフェに来ていた。

『そりゃあ、消えたくはないですよ』

手を温めるように、私は紅茶の入ったカップを手のひらで包む。
瞳子さんによるネオジャパンへのスカウトは結局、私の意思確認だったわけだ。

「それならよかったわ。ヒロトからは、貴女が全てを諦めてるように見えると聞いていたから、私たちがやろうとしていることが貴女にとって余計なお世話じゃないかと思っていたの」

どこかホッとしたように、瞳子さんは息を吐いた。

『諦めてるのは、まあ……確かですけど、2人が私の事どうにかしようとしてくれてるのは、嬉しいですよ?』

正直、未だに吉良の研究施設をもってもどうにかなるものだとは思っていない。

『でも、そのために瞳子さんたちの時間を無駄にするのは、心苦しいですけどね』

「友人の為に使う時間は無駄では無いわ」

瞳子さんがすました顔でそういうのだから、驚いた。

……そうか、友人、か。

『ありがとう、瞳子さん』

そう言えば、小さく微笑んだ瞳子さんを見ながら、私は紅茶のカップに口を付ける。

「そういえば、それ」

なに?と首を傾げれば、瞳子さんは私の手首を指さした。

「浦部さんとも話していたけれど」

『え、聞いてたんですか』

「ええ。貴女の反応を見るに、そのミサンガ貰い物なのでしょう?」

『そんなに分かりやすいですか、私……』

「浦部さんに男かって聞かれた時、こっわって反応していたのだから、そうですって言ってるようなものよ」

それは……確かに。自白したも同然だわ。

「で、どの子からもらったの?」

『ええー、なんで興味津々なの……』

瞳子さんもそういうの興味あるんだ。意外。

「別に子どもたちからの贈り物なんて、よくある話でしょう?」

瞳子さんはキョトンとした顔をしている。
ああ、これリカちゃんみたいな恋愛云々じゃないのか。
そうだよね。お日さま園出入りしてたら子供が描いた絵くれたりとか、折り紙で作ったメダルくれたりとか普通にあるか。

『………染岡』

瞳子さんから目を逸らして、ぼそりと呟く。

「意外ね」

『だよねぇ……』

はあ、とため息を吐き頭を抱える。

「まあ、彼、貴女のこと随分気にかけていたものね」

『う、』

傍から見ても、やっぱりそうなのか。
自然と頬に熱が集まる。

「あら、照れなくてもいいじゃない」

『いや、だって………』

「満更でもなさそうね?好きなの、彼の事?」

は……?

『いや、ダメでしょそれは!』

彼の照れたような笑った顔を思い出して、ブンブンと、首を振る。

「ダメ?」

『瞳子さんなら分かるでしょ?私は二十歳超えてるし、向こうは中学生だし……!』

「ああ、なるほど」

そう呟いて瞳子さんは顎に手を置いた。

「倫理的にダメだというわけで、そうじゃなければ、好き、ということね」

『なっ………!』

反論出来なくて、口を噤む。
だって、私は染岡のこと、嫌いじゃない。
不器用でガサツだけど、サッカーに真剣で、仲間思いで、私の事も心配して怒ってくれる優しい子。
好きにならないわけがない。

「今は、中学生として過ごしているのだから気にしなくてもいいんじゃないかしら」

『……それだけが、問題ならね』

事情を知ってる鬼瓦さんが犯罪だって言わなけりゃ、他から見たら中学生同士なわけだし、問題はないだろうけど。

「貴女が、消えかかってるってことね………」

『そう。だから………』


消えたくない
それさえなければ、彼を傷つける事もないのだから。
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