フリースタイラーの変遷

□世界への挑戦編
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特訓を終えた梅雨と風丸が合宿となっている雷門中へ戻ると、まだ幾人かの選手達がグラウンドで練習を続けていた。

『じゃあ、私は夕飯の準備にいくから』

「はい。ありがとうございました」

そう言って2人は別れて、梅雨は宿舎へ、風丸はグラウンドへ向かった。
その風丸の足は、1人の少年の前で止まった。

「なあ、吹雪」

「どうしたの風丸くん?」

「染岡の奴、ついに告白したのか……?」

風丸のその質問に吹雪は、えっ、と驚いた。

「そんな話は聞いてないけど……。風丸くん、今、水津さんと帰ってきたよね?」

「ああ。いや、違うんならいいんだ。ちょっと気になっただけで……」

「ちょっと待ってて」

そう言って吹雪は、ベンチに置いていた携帯電話を取って操作し耳に当てた。

「………。あ、もしもし、染岡くん?何回もごめんね。あ、うん。必殺技の事じゃなくてね。別の話なんだけど、水津さんに告白した?」

吹雪の電話越しから、はあ!?という大きな声が聞こえてきた。

「……してない?だよねぇ。ううん、なんでもないよ。じゃあ、またね」

おい!と染岡が電話越しに叫んでいたようだが、それを無視して吹雪は通話を切った。

「やっぱり染岡くんは告白してないって」

「あ、ああ……だいたい聞こえてた」

「で?染岡くんが告白したかを気にするって……まさか、風丸くんも!?」

「いやいやいやいや!」

風丸は慌てて違う違うと首を横に振る。

「水津さん、友達だと思っていた相手に告白されたらしくて、どう断ればいいかって相談されたんだよ!告白するような相手で心当たりがあったの染岡だっただけで……!」

「ああ、なるほど………。って、えっ!?誰が!?」

ガシッと吹雪は風丸の肩を掴み、教えてと彼を見る。

「いや、だから分からないから染岡だと思ったんだって!」

「あ、そっか………」

そう呟いて吹雪は冷静に戻って風丸の肩から手を離す。

「というか、断ろうとしてるんだ……。染岡くんじゃなくて良かったかも」

ほっと吹雪は息を吐く。

「でも、友達だと思ってたから、断ろうとしてるって話だよね、それ」

「たぶん」

「たぶんって、相談されたんでしょ?」

「いや、あれは相談っていうか……、俺が誰かに告白されたんですか?って聞いたら、水津さん乾いた笑い声を上げたあと、有無を言わさず、風丸なら友達だと思っていた相手に告白されてどう返す?って同じ質問そのままされて……」

されて?と吹雪は風丸を見つめる。

「お、俺なら素直に友達だと思ってたし、今はサッカーに専念したいからって答える、って………」

「それで?」

「水津さんは、やっぱりそれが丸いかって呟いて、それでその話は終わった」

「ええー!?もっと詰めよれば良かったのに」

「いや、そういう雰囲気じゃなかったんだよ。なんか切羽詰まった感じだったし」

「切羽詰まったか……。確かに最近そんな感じはあるよね水津さん」

もしかしたらコレは、と吹雪は考える。

「……染岡くんが告白しても、同じように断られるかもなぁ」

「え?」

「だって、水津さん、ボクらに事情を話した後も、やっぱり一線引いてるもんね。これは前途多難かなあ」

と、吹雪は友を思いやるのだった。
一方その頃、2人の話題の中心だった、梅雨は食堂へと向かう途中、ヒロトに出くわしていた。

『あ、ちょうど良かった』

「何かあった?」

そう言ってヒロトは歩み寄る。

『うん。ちょっと、緑川の事なんだけど……』

「ああ、俺もちょうど気になってたんだ。前のこともあるしね」

『そうなのよ。私は警戒されててね。チェックシートは嘘書かれるし、たぶん遅くに隠れて特訓やってるし。でも、私が注意するのは逆効果な気がするんだよね』

恐らくだが、前回のカタール戦で、途中で下がらされたのは特訓が足りなかったせいだと、特訓を止めた私のことを多少なりとも恨んでいるだろう。
そんな私が何を言っても無駄だと思う。

「そうだね……。わかった。緑川の事は俺に任せて」

『うん。よろしくね』









『って、よろしくとは言ったけど』

まさか、その日の夜遅くに緑川を引きずって、食堂でいつもの如く作業していた私の元に連れてくるとは思わないじゃん?

「ほら、緑川。約束しただろ?」

ヒロトは優しく笑ってぽんぽんと緑川の背を叩く。

「あ、ああ。その、水津トレーナー」

『うん』

緑川は少しバツが悪そうに顔を逸らした。

「すみませんでした」

そう言って緑川は頭を下げる。

「ヒロトからすべてバレていると聞きました。隠れて特訓していたことも、チェックシートに嘘の記入をしたことも」

『うん。そうだね』

「……怒らないんですか?」

恐る恐る、緑川は私を見つめた。

『怒ってるよ。特にチェックシートの件は本当の事を書いてくれないと、これがある意味がない。ただ、これは選手とトレーナーとの信頼があってこそのものだし、その信頼をキミと築けなかった私の落ち度だからね』

だから、直接問い詰めはしなかった。
緑川は、あっ、と言うような顔をしたあと、口を噤んだ。

『隠れて特訓してる事に関しても、本当は私が言えた義理じゃないんだ』

「え?」

『なんせ私自身、練習し過ぎた結果、オーバーワークで身体壊して大会出場出来なかったんだからね。緑川が現状に焦る気持ちは分かるんだ』

「……それで、この間の注意……」

カタール戦前の事を思い出したのか、緑川は小さく呟いた。

「過ぎたるは及ばざるが如し、ということか」

『そう。失敗者から言えるのは、練習はすればいいってもんじゃないんだよ。例えば……緑川、私から隠れて特訓する為に深夜にやってたでしょう?』

それもバレてたんだ、と言うように緑川はまたバツが悪そうな顔をした。

『それは1番良くないよ。睡眠が取れてないから疲労が残ってパフォーマンスが下がる』

そんで全体練習中にボール取られて、また練習が足りてないって焦り、睡眠時間を削って練習しての繰り返しでどんどんどん底にハマっていっている。

『だからね。特訓したいなら、今日みたいに夕飯の後から1時間までと決めてやりなさい』

今日は夕飯の後、ヒロトが誘って2人で特訓してその後、こうやって私の所に連れてきたのだ。

「え、いいんですか?特訓やっても」

『なんで緑川だけダメなのよ。他のみんなもやってるからいいに決まってるでしょう。私がこの間怒ったのは試合前にオーバーワークをしていたから。試合の前日は、身体を休めコンディションを整えるのが大事なんだからね』

「あぁ、オレ凄い勘違いしてたかも……」

ぽつり、とそう言った緑川を見て、もしかしてと考える。

『意地悪で言ってると思ってた?』

「……はい」

『あー』

なるほど、なるほどね。そりゃあ隠れて特訓しますわ。

「だけど今日、ヒロトが話す機会をくれたおかげでどういうことかよく分かったよ。縁なき衆生は度し難し、か」

『……そのことわざの意味は知らないけど、とりあえずこれからは、オーバーワークにならない用気をつけて特訓するって事でいいかな』

「はい!」

「よかったよかった」

元気よく返事をした緑川の後ろで、今まで黙って見守っていたヒロトが小さく微笑んだ。

「緑川、これからはチェックシートもちゃんと本当の事を書くんだぞ」

「わかってるって!」

『ふふ、』

2人のやり取りに小さく笑えば、何?とヒロトが首をかしげた。

『いや、兄弟みたいだなって』

「ああ。まあ、確かにお日さま園で育ったみんなは兄弟みたいなものかな」

「そう言われればそうだけど……。今の流れだと、オレが弟みたいじゃないか?」

「そうだろ?」

「いやいや!オレとお前、同級だからな!」

『えっ、そうなの!?』

「ええっ!?トレーナー?オレ中2ですよ!?」

待って、あのEDのせいで中1だと思ってた。
中学2年だったんだ……。
なるほどそれで、レーゼのあの厨二感か。

腑に落ちる
とりあえずこれで1つ問題が解決した。
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