フリースタイラーの変遷

□世界への挑戦編
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自意識過剰かもしれない。私の思い違いかもしれない。
それでも、万が一、彼が私の事を好いていたら?
久遠さんのアドバイス通り、期待させるような事はしない方がいいとも思うし、そもそもそんな相手とどう話したらいいか分からなくて逃げ出した。

けど……。

右手首に付けたミサンガに左手で触れる。

約束通り、染岡はアジア予選後、日本代表入りするだろう。
そうなった時、どう、対応すればいいのだろうか。
彼は、私に話したい事があると言っていた。それは…………。

『……私の勘違いだったらいいんだけど』

それなら、私が自意識過剰の恥ずかしいやつってだけで済む。
そうじゃなかった時、どうすれば彼を傷つけなくて済むのだろうか。

『ずっと逃げるわけにもいかないもんなぁ……』

「随分と険しい顔してますけど、大丈夫ですか?」

その声に顔を上げれば、先程、吹雪から逃げる際にダシに使った当の本人が心配そうな顔をしてこちらを見ていた。

『風丸。……そんな険しい顔してた?』

「ええ。1年の奴らが見たら逃げ出すレベルでしたよ」

私の事情を皆に話して以降、風丸は私に対してすっかり敬語になってしまった。
年上だからと敬ってくれている部分もあるが、DE時のやらかしもあってか、萎縮している感じでもある。

『そんな、酷い顔してたかぁ。気をつけるよ』

「悩み事ですか?」

『あはは……ちょっとね』

そう答えれば、風丸はうーん、と少し考えるような素振りをみせた後、あ、と小さく呟いた。

「俺、今から鉄塔広場に行くんですけど、一緒に行きませんか?」

『鉄塔広場?』

「ええ。いい気晴らしになると思いますよ」

風丸のその案に、悪くないかもと思い、頷いて、一緒に鉄塔広場に向かった。




『わー、久々に来たかも』

最後に来たのは、世宇子戦前にめちゃくちゃな練習をする円堂を怒った時だったかな。

「ここ、凄くいい風が吹くんですよ」

そう言って風丸は、崖の縁に落下防止に立てられた柵に片手を着いた。

『ああ、それでここに』

確かにいい風が吹いている。

『この風なら必殺技のヒントになるかもって?』

「ええ。それに子供の頃から円堂がよくここで特訓してたんで、サッカーの特訓ならここってイメージがあるのかも」

『なるほどね』

幼なじみによる刷り込みか。

『そういえば、春奈ちゃんに選抜戦の録画見せてもらった?』

「はい。けど、あれからどういう風に必殺技にすればいいのか分からなくて……。なんで、先ずはあの突風を起こす練習をしようかと思うんですが、良かった付き合ってもらえませんか?」

もちろんいいよ、と頷く。

『あの時はどうだったっけ……確か風丸がボール持ってて……』

「そうですね。俺がドリブルで向かってきた綱海を追い抜こうとした時に起こってるんで、とりあえず水津さんは俺からボールを奪いにきてください」

そう言って風丸は足元にサッカーボールを置いた。

『了解!』

と、返事はしたものの………。

『ぜー、はー、と、とれない……!』

全力で奪いに向かうが、風丸が早過ぎて一回もボールが取れなかった。

『こ、これ……練習になってる……?』

「なってますよ!段々と風を起こす感覚も掴めて来ましたし」

『それならいいんだけど……』

いいけど、一回も取れないのは少し悔しい。

『それにしても、また速くなったんじゃない?』

「そうですね。アレ(ダ-クエンペラ-ズ)で思いの丈をぶつけて以来、まるで憑き物が取れたように身体が軽く感じるんです。あの頃は、速くもっと速くと思うたび、身体ががんじがらめになったように重たく感じていたのに」

そう言って風丸は少し自嘲気味に笑った。

「水津さんも事情を話して以来、少し気が楽になったんじゃないですか?」

『そうね』

「案外、今悩んでることも吐いてみたら……って、すみません。未来に関わる事は話せないんでしたよね」

『そう。未来に関わるちゃ関わるかもしれないのよね……』

はあ、と深くため息を吐く。
もし万が一、予想通りの展開になったとして、私の返答次第で染岡のやる気が損なわれたり、浮かれられたりした時が困るのだ。

『まあ、でも……』

ひとりで悩んでどうにもならないのなら、風丸の言うように話して相談にのってもらうのもありか?

『風丸はモテるだろうしな……』

「え?な、なんですか急に………」

いつ見ても美人だもんな。あんなに走った後でさえも。これは告白された回数も多いだろうて。

『相談なんだけどさ』

「は、はい」

真剣な話だ、と風丸はぴしゃっと背筋を伸ばし伸ばした。

『友達だと思ってた相手に告白された時の相手を傷つけない返し方教えて』

「え……?ええ!?」

まさかの恋愛相談
誰かに告白されたんですか、と聞かれて、流石にされるかもしれないと勝手に思ってるとは言えず、笑って誤魔化しておいた。
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