フリースタイラーの変遷

□世界への挑戦編
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試合後私は鬼道を稲妻総合病院へ連れていった。
整形外科で診てもらった結果、骨に異常はなく、捻挫や筋挫傷もない打撲という診断で少しホッとした。
応急処置が良かったからすぐ治るよと言って貰えたので余計に安堵した。
それでも48時間はRICE処置をしなきゃいけない鬼道に肩を貸したまま、診察室を出て、エレベーターで1階に降りる。
アナウンスと共にドアが開くと、エレベーター前に白衣を来たグレー混じりの青髪の髭を蓄えた目つきの鋭い男性が待っていた。

『あ、』

この病院の医師である彼はどうぞ、と私達が降りるのを待ってくれた後、会釈をしてエレベーターへ乗り込んで行った。
こちらもペコリと会釈して、扉の閉まるエレベーターを眺めた。

「どうした?」

『ああ、いや、今の豪炎寺のお父さんだと思う』

目つきがよく似ている。

「豪炎寺の……。確か医師だとは聞いていたが……言われてみれば似ていたかもしれないな」

『ねー』

彼は鬼道が着ているユニフォームに気づいただろうか。
息子と同じチームの選手なんだけどなあ。先ほども一般患者に対する態度だったし、気づいてないかなぁ。
それにしても、豪炎寺の遺伝子とはエレベーターで遭遇する運命なのかもしれない。





それから数日経ち、鬼道の足も良くなったタイミングで、次の対戦相手が決まった。
2回戦の相手は、カタール代表デザートライオン。

「どんなチームなんっスか?」

一同が集められた食堂で、壁山が声を上げた。

「このチームの特徴は、疲れ知らずの大量と当たり負けしない足腰の強さを備えていることだろうです」

イナズマジャパンのデータ班である春奈ちゃんがすぐさま説明をくれた。

「彼らと戦うためには、体力と身体能力の強化が必要だ。カタール戦までにこの2点を徹底的に鍛えること」

いいな、と久遠監督が聞けばみんなは、はい!と力強く返事をした。

「では、水津。後は任せる」

そう言って久遠監督は食堂から出ていく。

『はいはーい。じゃあ今回の個人別のトレーニング表を配ります』

秋ちゃんたち他のマネージャー3人にも手伝ってもらってそれぞれに紙を配っていく。

「うげー、相変わらずびっちりある……」

げぇ、と舌を出して木暮が嫌そうな顔をする。

『ちなみに個人メニューは身体能力強化に重きを置いてます』

「個人メニューは、ということは……」

『流石鬼道くん、その通り。と、いうわけで今から全員で体力作りの走り込みでーす!』

「ま、体力作りと言えばそうなるよな!徹底的に走って走って強い足腰も身につけりゃいいんだ!」

やるぞ、と意気込んで綱海が立ち上がる。
それにつられてみんなも、外へ出ようと立ち上がり始めた。そんな中、

「あの……すみません」

控えめにそう声をかけてきたのは、肩にスポーツバッグを掛けた虎丸だった。

「申し訳ないんですが、オレこれで失礼します」

頭を下げた虎丸を見て、食堂内の時計の時間を確認する。

『ああ、いいよ。気をつけて帰りなさい』

「はい。失礼します」

ペコ、ともう一度頭を下げてから虎丸は食堂から走って出ていった。

「アイツ、またでヤンスか?」

「なあ、水津、なんでアイツだけいつも途中で帰っちまうんだ?」

監督も私もあっさりと虎丸には帰る許可を出すからか、みんなは不満そうだし、なぜなのか気になっているみたいで、綱海が質問してきた。

『そんな事、海の広さと比べたらちっぽけな事じゃない?虎丸の個人別メニューに関しては全体練習抜けることを考慮して作ってるから、みんなに遅れをとることはないよ』

「ふーん、まあ、それならいいか!んじゃあ、俺らは俺らで走り込みだ!」

こういう時、綱海は単純で助かる。彼は早々にこの話題を終わりにして、走って食堂を出ていった。

「えっ、ちょ、綱海さーん!?」

「流され過ぎだろ」

不動がそうポツリと呟いた。

『まあ、綱海は波乗り得意だからね』

「しかし、水津さん。虎丸くんの問題、このままではチームの士気に関わりますよ」

目金がぐいっとメガネの縁を持ち上げた。

『そうね。そこまで気になるのなら、走り込みが終わったあと、ヒントをあげよう』

「え、教えてくれるんじゃないのか?」

『私から勝手に他所様の家庭事情は話せないよ』

家庭事情?と皆が首を傾げた。

『おっと、口が過ぎた。さー、とにかくまずは走り込み!』

パンパンと手を叩いてみんなを急かして食堂から追い出すのだった。






グラウンドの走り込みを始めてから30分、ピピッーと終了のホイッスルを鳴らす。

「よし、今日の特訓はここまでー!」

円堂の言葉と共に、皆足を止め、地面に座り込む者や寝転がる者が現れた。

「あ、暑い……」

「走り込みって……」

「結構大変ッス……」

『みんな、ちゃんとクールダウンしなさい!』

倒れている子達に、コラ、と怒る。

「そうだな、クールダウンを……って、ん?」

同じように倒れたみんなを見下ろしていた、体力のある円堂はなにかに気づいて後ろを振り返った。

「緑川!特訓は終わりだぞ!」

そうだった。

走り込みは終わりだと言うのに、緑川は円堂の言葉が聞こえてないのか、未だグラウンドを走っている。

『あの馬鹿……。私が止めてくるからみんなはクールダウンして上がりなさい』

はーい、とくたびれたからか皆は大人しく返事をした。

『円堂』

「なんだ?」

『ヒントは、商店街の虎ノ屋』

それだけ言って、緑川を捕まえに私は駆け出した。

さて、問題児
過去の自分のような君に、どう接したものか未だに決め兼ねているよ。
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