フリースタイラーの変遷

□世界への挑戦編
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硬直状態の試合の中、鬼道がドリブルで上がっていく。
そこにビックウェイブスの7番と8番の2人がスライディングを仕掛けてきた。
7番マット・アングルのスライディングをジャンプして避け着地したばかりの鬼道の足の甲に、続け様にスライディングをしてきた8番サーフ・ウィンダスの足が当たり、鬼道は前に大きく転け、ボールを奪われた。

「お兄ちゃん!?」

ホイッスルが鳴り、レフェリーがサーフへイエローカードを出した。
急いで立ち上がって、応急処置の準備をする。

「大丈夫か!」

「大したことはない」

試合が停止し、風丸が駆け寄って差し出した手を鬼道は取って立ち上がった。ゴーグルで目が隠れているとはいえ、眉間に寄ったしわや歯を食いしばる様な口で多少無理をしているのが見て取れる。
早々に試合再開のホイッスルが鳴り、雷門側からとなったボールを風丸が軽く蹴って鬼道へパスをした。

「ぐあっ、」

ゆっくりと転がってきたボールに合わせて1歩踏み出した鬼道はそのまま悲鳴を上げて、芝に膝を着いた。
それと共に、タイミング良くピッピッピッーと前半終了のホイッスルが鳴り響いた。
相手にボールを取られず前半が終わったのはラッキーだったが、0-1で終了した上で鬼道の負傷は痛い。

円堂が肩を貸し、鬼道が戻って来る。

『みんな席開けて』

みんなと言えど、虎丸、栗松、立向居は先程アップしておけ、と言われ立ち上がっていたので、実際は不動と目金に言ったのだが。
素直に言うこと聴いてくれるか不安だった不動も、流石にこれには大人しくベンチを開けてくれた。

『秋ちゃん手伝って。円堂はそのままベンチに鬼道を座らせて。ゆっくりね』

補助を秋ちゃんに頼み、円堂には鬼道をベンチに降ろしてもらった。

『秋ちゃん、まず靴脱がせて置いて』

「はい」

返事をした秋ちゃんが鬼道の前にしゃがんで、履いているスパイクを脱がせようとした。その瞬間。

「ぐっ、」

鬼道が呻き、秋ちゃんはハッとしたように顔を上げてすぐさま久遠監督へ視線を移した。

「この試合は無理です!」

「これくらい大丈夫だ!」

『何言ってんの。靴脱ぐだけで痛いって相当よ』

だからこそ秋ちゃんも直ぐにこれで試合に出るのはダメだと思ったわけだ。
アイシングようの氷嚢と包帯を持って私も鬼道の前にしゃがみこむ。

「しかし!」

「鬼道、気持ちは分かる」

ぽん、と円堂が鬼道の肩に手を置いた。

「だけど無理をするな」

「円堂……」

「鬼道。交代だ」

久遠監督の言葉に、仕方がないと分かっていても皆、えっ、と声を漏らした。
渋々と鬼道が、はい、と返事をすれば、不動がすました顔をした。
当然、鬼道の代わりに入るなら自分だと思っていたのだろう。

「虎丸」

監督が虎丸の名を呼べば、不動の表情は驚きに崩れた。

「は、はい!皆さんに迷惑がかからないプレーを心がけます!」

そのまま監督が選手たちに後半の指示を始めたので、私は鬼道の応急手当を始める。
秋ちゃんに脚部を固定してもらい、まずはソックスを脱がす。それだけでも鬼道はまた小さな呻き声を上げた。
ソックスを脱がした鬼道の足の甲は赤く腫れ上がっていた。これは確かにソックスが擦れただけでも痛いだろう。

『先にテーピングするわね』

試合は今日だけじゃないし、先のことを考えてもきちんとしておいたほうがいいとRICE処置を始める。

ぐるぐると鬼道の足にテーピングを終えて、そこに氷嚢を乗せた。
安静にさせ、アイシングで冷却
し、テーピングで圧迫もした。後は、挙上。
横に長いベンチをフル活用して、鬼道を座席に対し横向きに座らせ、座面に足を挙げさせた。
だが、このまま鬼道にベンチを独占させたんじゃ後半戦、ベンチ組が立ちっぱなしで可哀想だ。

『パイプ椅子かなにか借りられないか聞いてくるよ』

そう、秋ちゃんに声をかけて、禁止していた練習を勝手に抜け出してしていた綱海を叱責する久遠監督の後ろを抜けて会場スタッフを探しに行くのであった。


無事パイプ椅子を借りてベンチに戻るとちょうど後半戦の開始のホイッスルが鳴り響いた。
広げたパイプ椅子をベンチの前に起き、鬼道の脚をそちら側に載せ替えて、空いたベンチに立っていた子達を座らせる。
自分も鬼道の隣に腰を下ろしてフィールド見れば、開始早々、敵のワンツーパスをヒールで軽々とカットする虎丸の姿が。
器用な事をすると、感心してしまう。

虎丸はドリブルで駆け上がり、ビックウェイブスの2人がマークについた所で高くジャンプし、空中から豪炎寺へとパスを繋げた。
そのまま豪炎寺が爆熱ストームを打つ。

「グレートバリアリーフ」

炎を纏ったボールを螺旋を描いて飛んでいくが、大きな波に飲み込まれて、鎮火したボールはGKの掌に収まった。

その後も互いに攻めきれず、刻一刻と時間だけが過ぎ去って行く。

何度目かのシュートが再びグレートバリアリーフに阻まれた後、それまで何度もその必殺技をまじまじと見つめていた綱海が、よっしゃあ!と大きな声を張り上げた。

相手のキーパースローのボールを空中でカットした虎丸に、綱海は俺に回せ!とパスを要求した。

「はい!」

「でえええええい!」

虎丸が高く上げたボールに、綱海は雄叫びを上げながら追いつき、立ち幅跳びのように大きく前に飛んだあと、その踏ん張りをバネに上に飛んだ。
飛んだ足元にはちょうど虎丸が蹴ったボールが届いて、彼はそれをサーフボードに見立てて現れた荒々しい波に乗った。

「喰らえ!」

全ての波を乗りこなした綱海はボールをゴールに向かってシュートした。

「グレートバリアリーフ!」

またも波が現れてボールを飲み込まれてしまうのだった。

『それにしても、瞬時にアレに合わせれるのか……』

「虎丸か?」

隣の鬼道の問に、うんと頷く。

『綱海の脅威的な身体能力を理解した上でじゃないとあんな的確なパスは出せないでしょ』

「ああ。アレでフットボールフロンティアの出場経験がないとは一体……」

鬼道もまじまじと虎丸を見つめている。

能ある鷹は爪を隠す
と言うけれど、さてはて虎は何を隠しているのやら。
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