フリースタイラーの変遷

□世界への挑戦編
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あー、どうしたもんかなぁ。
向けられた好意が嫌なわけではない。
元々、いちキャラクターとして好きだったし、こちらに来てから実際に一緒にいて、染岡は照れ屋だし不器用だけど意外と面倒見が良くて、努力家で……、嫌いになる要素は無かった。
ただ、いつ消えるかも分からない奴に、彼がそんな感情を抱いているのなら、それはあまりにも残酷ではないだろうか、と思う。
気持ちに応えても応えずとも彼は傷を負う。

『なんで私なんだろうなぁ………』

意味もなく、染岡がくれたミサンガに触れる。

「私は休暇を取れと言ったはずだが」

ふと、顔をあげれば怖い顔をした久遠さんが目の前に立っていた。

「なぜ、一昨日より疲れた顔をしている」

『いや、休暇は取りましたよ、ちゃんと』

それにしても、疲れた顔か。
昨日あれからあれこれ悩んだからなぁ。

「なら、何故そのような顔をしている」

『あー、久遠さ…監督は生徒が、言っては来ないけど自分の事を恋愛的な意味で好いてるなって分かった時どうしてました?』

「質問を質問で返すな。それに、なぜ前例がある体で質問した」

『だって久遠さん顔はいいから』

そう言えば、久遠さんは黙って白い目を向けてきた。

「………思わせぶりな態度はしないことだな」

『やっぱり、そうですよねー』

思わず頭を抱える。

「何があったのかは聞かないが、応える気がないのであれば、相手を期待させるような事はするな」

しちゃったんだよなぁ、多分。
映画に誘った事で思わせぶらせたし、ミサンガを受け取って約束をしたことで、期待させてる。
やっぱり、あの気づいた時点でいいよって言ったのは失敗だったか?
でも、あんな真っ赤な顔して必死に言ってくれたのに、ダメとも言えんでしょうよ。
それに、それで染岡のモチベが下がって代表入り出来ないなんてことになっても困ると思ってしまった。

「ともかく、仕事に私事を持ち込むな。今日は初戦だ。選手たちのコンディションチェックを怠るなよ」

そう言って久遠さんは立ち去っていく。

コンディションチェック……。そうね。この2日でみんなが部屋でどんな無茶したかも分からないし。
今考えてもどうしようもないし、お仕事でもして気を紛らわせよう。






第1回フットボールフロンティアインターナショナル、アジア地区予選。
全ての試合は、日本のフットボールフロンティアスタジアムで行われる。

コンディションチェックは全員問題がない。

「スターティングイレブンを発表する」

ベンチに集合させたイナズマジャパンのメンバーに久遠監督がそう伝えれば、何人かが息を飲んだ。

「フォワード、豪炎寺、吹雪、基山。ミッドフィールダー、鬼道、風丸、緑川」

MFの選出を聞いた不動が驚いたような顔をしている。まあ、あれだけ練習中に、いいぞ不動!と褒められていたら自分が選ばれると思うだろう。
この展開を知っていたが、それでも少し笑いそうになったのは秘密だ。

「ディフェンダー、壁山、綱海、土方、木暮。そしてゴールキーパー件ゲームキャプテンは円堂」

はい!と円堂が返事をする後ろで、不動がフンっと鼻を鳴らす。

「分かってねえなぁ」

その言葉に鬼道がムッとしたような顔をして振り返った。ここは本当に相容れないねえ。

『はいはい、監督の選出に文句言わない』

全く、栗松を見習って欲しい。
栗松は、頑張るでやんすよと、壁山を鼓舞している。
同じポジョンなのに妬むでなく応援するなんて、中々出来るもんじゃない。

『ほら、あんたの席はあっち』

さっさと座りなとベンチを指せば、ケッと悪態をついて不動はベンチへ向かった。

『鬼道はいちいち気にしすぎ。敵は不動じゃないよ』

向こう、と今日の試合の相手、オーストラリアのビックウェイブスを指さす。

「…………。そうだな」

小さく頷いて鬼道は、他の皆に続いてフィールドへと入っていった。



キックオフは日本から。
豪炎寺から軽く横に受け渡されたボールを吹雪が鬼道へバックパスした。
これ戦法としては普通なんだけど、ちょっと感慨深いよね。
2つの人格と戦っていた時の吹雪なら、そのままボールを持って敵陣に突っ込んで言っていただろうに……。
イナズマキャラバンで散々言われたチームプレイ。それが言われずとも出来るくらいに彼は変わった。

豪炎寺と吹雪が最前線へ向かい、それに追従するようにドリブルで進む鬼道の元に、ビックウェイブスのキャプテン、ニースと共に2番と6番、7番が一斉に鬼道の周りを取り囲んだ。
彼らは間髪を入れずに鬼道の足元のボールへと足を伸ばす、次々とやってくる足を交わしながら鬼道はパスコースを考えるが、前方のコースも後方へのコースも、4人がボールを狙う者、パスコースを塞ぐ者として入れ替わり立ち代りして動きを封じられた。

「出たー!これがビックウェーブスのボックスロック・ディフェンス!」

FFの本戦と同じくFFIの実況も雷門中の角馬くんの父親、角馬王将さんが担当している。

「これが……攻撃を完全に塞ぐと言われている必殺タクティクス!」

ビックウェーブスの2番が鬼道の足からボールを弾いて飛ばした。
転がったボールを追いかけて、追いかけた綱海と土方が衝突した。

「おっと、イナズマジャパン!連携が上手くいっていない!」

ここ2日練習禁止を言い渡されていたし、それまでの練習は基礎練習や紅白戦のみ。ポジショニングの練習をしていないからこその事故。

『………大丈夫かな』

取り損ねて、ビックウェイブスに奪われたボールより、倒れた2人を見つめる。
ぶつかったのがガタイのいい土方だったから心配したが、運動神経のいい綱海は何とか受身を取ったようだ。
良かったと、一息つく間もなくゴールへ視線を向ければ、ビックウェイブスの11番がシュートを放った所だった。

「メガロドン!」

波が現れ、その中からサメが飛び出す。
飛び上がったサメが、ヘディングのようにボールをゴールに向かって叩きつけた。
それに対し、円堂は左足と右手を上に突き上げ大きく振り下ろした。

「うおおおお、正義の鉄拳!!」

ひねるように突きつけられた拳から金の大きな拳が飛び出して、メガロドンとぶつかりあった。

「くっ、く………」

歯を食いしばり円堂が拳を前に押し出そうとするが、だんだんと置くへと押し返された。

「うわあっ!?」

ぱりん、と正義の鉄拳が割れボールはゴールへと突き刺さった。

「ゴォール!!先制したのはビックウェーブスだ!」

波乱
この波をどう乗りこなすのか、見ものである。
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