フリースタイラーの変遷

□世界への挑戦編
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抽選の結果、初戦の相手はオーストラリアに決定した。

そして久遠さんはみんなに練習禁止を言い渡した。
オーストラリア戦までの2日間、合宿所から出るもの禁止となった。
命令だ、と言われて皆渋々与えられた個室へ戻っていく。

「水津」

『あ、はい。監視ですか?』

久遠さんに名を呼ばれ、みんなを見ておけって事だろうと思ってそう聞けば、いや、と首を横に振られた。

「お前にはこの2日の間、休暇を与える」

休み!と喜んだのもつかの間、

「休暇の間、合宿所への出入りを禁止する」

その言葉に、間抜けにも、へ?と腑抜けた声を上げる。

「休みに仕事をされては敵わんからな。外で羽を休めてこい」

そう言ってピシャリと合宿から追い出された。

『えぇー………。もしかして呪われた監督って私が最初に言ったのバレた……?』

それに怒ってるとかではないよね……?
ただちゃんと休暇は休めって優しさだよね?うん、そうだと思いたい。

仕方がない、と合宿所のある雷門中を出て木枯らし荘の方へ歩いて帰る。
通り道なのもあるが、もしかしたら練習してるかな、と河川敷のサッカーコートへ寄ってみた。

「ワイバーンクラッシュ!!」

おっ、やってるやってる。
上からコートを見下ろせば、必殺技の特訓をしている染岡が居た。
集中してるみたいだし、邪魔するのもな、と思い堤防の芝の上に腰を下ろした。

代表入りを諦めず毎日ひたすら練習してるんだろうなぁ。
染岡のそういう努力家な所が好きだなぁと、無人のゴールへシュートを打ち続ける彼の背を眺める。
こういう姿を見ていると私ももっと頑張ろうと思う。

しばらくその姿を見眺めて入れば、視線に気がついたのか、振り返った染岡が、うお!?と驚きの声を上げた。

「お前っ、何時から!?」

『結構前から居たよ』

立ち上がって、お尻に着いた土を払う。

「いや、声かけろよ!」

『集中してたから邪魔しちゃ悪いなと思って』

そう言いながらコートの方へ降りていく。

「振り返って急に居た方が心臓に悪ぃわ」

『いや、オバケじゃないんだから』

そう笑えば染岡も笑っていた。

「つーか、お前、この時間合宿練習中じゃねぇのかよ?」

『あー、今日明日休暇』

「初戦2日後じゃなかったか?」

『そうなんだけどねぇ』

かくかくしかじかと、久遠さんからの命令の内容を話す。

「はあ?なんだよそれ」

『みんなそんな反応だったよ。私を追い出したのは、黙認すると思ったんだろうね』

私はちゃんと、きっちり部屋に閉じ込める気で居たのに。
普段からみんなのことを甘やかしている自覚はあるから、久遠さんから見たらコイツならやりかねんと思われたのかもしれない。

『それで急に暇になったし、染岡ならここで練習してるだろうから様子でも見ようかなって思ってきたの』

「じゃあ、この後他の奴らの様子も見に行くのか?」

他?と首を傾げると佐久間とか武方とかだよと言われ更に首を傾げる。

『なんで?』

「なんでって……だって、選考メンバーの様子見じゃねえのか?」

『いや、なんで休暇に仕事しなきゃなんないのさ』

「はあ?じゃあお前なんで来て………」

『だから、染岡頑張ってるかなーって気になって来ただけだって』

そう言えば染岡は小さく、なっ、と呟いて口元を腕で隠すようにしてそっぽを向いた。

「……そうかよ」

『そうだよ。まあ、ちゃんと頑張ってて良かったよ』

「たりめーだ!ぜってえ代表入りしてやる!」

グッと染岡は拳を握る。

『うんうん。その意気だけど、休憩もちゃんと取るんだよ……って、電話だ』

ちょっとごめん、と携帯を取り出して電話にでる。

『もしもし綱海?どうしたの』

電話の内容が気になるのか、先程までそらされていた染岡の視線が私に向いた。

『ああ、海、海ね?雷門中からなら電車かバスを使って………え?ボードだけ?お金持って出なかったの?はい?川?いや、川はあるけど………泳げはいけるって、ちょっと待てい!』

綱海からの電話は、合宿所から抜け出してサーフィンしに行くから波のある海を教えろって事だったのだが、稲妻町から海に出るまでには、何かしらの乗り物がなければ遠い。
だが、綱海はボードだけ持って合宿所から飛び出してきたらしく、お金が無いときた。
そこで彼は近隣の川から川下へ泳いで海に出ると言う暴挙を電話口であげた。

『えっ?ん?』

綱海を止めた矢先で、電話口の向こうから、おーい!とさけぶ女の子の声が聞こえた。

『えっ、あっ、はい………』

塔子!リカ!と綱海が叫ぶ声が聞こえて、1回切るわと、一方的に電話を切られた。

「綱海か?」

怪訝そうな顔をした染岡に、うん、と頷く。

『多分前にサーフィンのできる海探しとくって話になったから私に電話してきたんだろうけど………。合宿所抜け出してサーフィンしに行くのに全ての川は海に繋がってるとかなんとか言ってたら塔子ちゃんとリカちゃんと出会ったっぽくて切られた』

「なんだそれ。つーか、アイツらこっち来てんだな」

『ね。リカちゃん好きそうだし、サプライズで来たんだろうなぁ』

まあ、追い出されたから私は会えなかったわけなんですが。ちくしょう久遠め。

「連絡取りゃあ会えんじゃねえの?」

『うーん、でも予定組んでるだろうし、それに割り込むのはちょっとね』

というか、多分彼女たちは今から綱海を海まで送っていく事になるんだろうし。

「あー、そうか。じゃあお前の事だからこの後はゲーム三昧か」

『うん、それもいいけど、合宿入ったらゲーム出来ないからって、合宿前までに積みゲー全部消化しちゃってね。今新しいのやっても2日無いし……ちょっと気になってるやつあるし映画でも観に行くか………』

「気になってるやつ?」

『ほら、怪盗と黄色い変な生き物の映画。今CMしてるじゃん?』

「ああ、あれな!面白そうだよな」

『おっ、染岡も興味ある?なんなら一緒に観に行く?』

と、気軽に誘えば、おお、と頷きかけた後、染岡は停止した。

「あー、いや………」

『あっ、そっか、今は練習に専念したい時期だもんね』

だからこそ今日も今日とて練習に明け暮れていたわけだし。
誘っちゃダメだったわ、と反省仕掛けたところで、染岡はもう一度いや、と呟いた。

「行く」

染岡は意を決したような顔をしてそう言った。

……そんなに観たかったのか、あの映画。

明日の予定が埋まりました
それじゃあ、明日駅前集合で。
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