フリースタイラーの変遷

□世界への挑戦編
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選考が終わり、選手一同が集められたグラウンドに、響木さんとそして久遠さんが入っていく。その後ろに私と冬花ちゃんもついて行く。

「ふゆっぺのお父さん?」

冬花ちゃんと幼少期に友達だったと自称する円堂がぽつりと呟く。

「選考通過者発表の前に、日本代表チームの監督を紹介する」

ええっ、と皆が響木さんの顔を見あげた。

「私が日本代表監督の久遠道也だ。よろしく頼む」

「どうして、響木監督が代表監督じゃないんですか?」

「久遠なら今まで以上にお前たちの力を引き出してくれる。そう判断したからだ」

質問をした円堂を真っ直ぐ見つめ響木さんがそう伝えれば、円堂はうん、と納得したように頷いた。

「それから、日本代表チームのトレーナーを紹介する」

えっ、今すんの!?この空気感で?

『えっーと、』

控えめに1歩前に出ればみんなの目線が集まった。

『日本代表チームのトレーナー、水津梅雨です。どうぞよろしく』

ぺこりと頭を下げた後、どんな反応かな、と恐る恐る頭を上げる。

「えっ、学生がトレーナーをするんですか!?」

驚きの声を上げたのは目金弟。

「なんか最近忙しそうだと思ったら、そう言うことかよ」

そう呟いたのは染岡。

「まあ、水津さんなら実績あるしな」

そう言ってくれたのは風丸。
エイリア学園との戦いを知っている面々は私がキャラバンのトレーナーをしていたのを知っているし、雷門サッカー部とキャラバンメンバーは大人なのも知っているし、大半の子は納得してくれているようだった。

まあ異論があっても私がトレーナーなのは決定してるから今更どうにもならないんだけどね。

「では、代表メンバーを発表する」

そう言って久遠さんは閉じていたリストを開いた。

「鬼道有人」

「はい!」

「豪炎寺修也」

「はい!」

発表が始まり、名を呼ばれた者は力強く返事を返した。

「基山ヒロト、吹雪士郎」

「「はい!」」

「風丸一郎太、木暮夕弥、綱海条介」

「「はい!」」
「おう!」

「土方雷電、立向居勇気、緑川リュウジ」

「おっす!」
「「はい!」」

返事をした後、緑川は少しホッとしたように息を吐いていた。

「不動明王」

不動は返事をせずに、ニヤリと笑う。

「宇都宮虎丸、飛鷹征矢」

「はい!」
「………、はい!」

飛鷹は一瞬戸惑っていたようだが、それでも力強く返事を返した。

「壁山塀吾郎」

「は、はいッス!」

「おめでとうでヤンス、壁山!」

後ろから飛びついて喜ぶ栗松に、壁山は瞳をうるうると滲ませた。

「オレが代表……!」

「壁山は、雷門中1年生の希望の星でヤンス!」

泣き出した壁山に栗松が本当に嬉しそうにそう伝える。

「栗松鉄平」

「へ、え?オレでヤンスか?」

「最後に、円堂守」

「はい!」

最後に円堂の名が呼ばれて、ホッと息を吐いた。

「以上16名」

誰一人として違わない。
良かった。なんて思う私はとても酷い奴だな、と受かって喜ぶ子供たちの中で落ちて悔しい思いをしている子供を見る。
落ちてしまった染岡は膝の横で強く拳を握り、シャドウは落胆し、松野はいつものような余裕そうな表情ではない。
武方は思いっきり肩を落とし泣いている。
目金は泣き叫び、兄の目金欠流に縋り付いていた。

そんな中で、落ちた佐久間が鬼道に声をかけた。

「佐久間……」

「頑張れよ」

そう言って佐久間は晴れやかな顔で鬼道に手を差し伸べた。

「お前は俺たちの誇りだ」

「ああ」

そう言って2人はがっしりと握手を交わす。

「円堂!」

名を呼ばれた円堂が振り返れば、染岡を筆頭に松野とシャドウがいた。

「俺たちの分まで暴れて来いよ!世界を相手に!」

そう言って染岡がぐっと拳を掲げて見せた。

「染岡……!おう!」

応えるように円堂も同じく拳を掲げて見せたのだった。

「今日からお前たちは日本代表イナズマジャパンだ。選ばれた者は、選ばれなかった者の思いを背負うんだ」

響木さんのその言葉に一同が、はい!と返事をした。
それを聞いて満足したように響木さんは立ち去る。

「いいか。世界への道は険しいぞ。覚悟はいいか?」

今度は久遠さんが皆に問いただした。
これにも一同、はい、と声を揃える。
それを見て久遠さんは満足気に頷いて、こちらをみた。

「水津、最初の仕事を頼むぞ」

『はい』

「では選抜16名には、これより今後の日程を伝える!」

『他の子達は撤収よ。着替えてらっしゃい』

選抜から落とされた6名を輪の中から抜けさせる。
分けられたことによって、本当に自分たちは落ちたんだな、と言うような表情をそれぞれがしていて申し訳なくなる。
だけど、いつまでも彼らを日本代表の中に混ぜて置く訳にも行かない。

『着替えは朝イチ着替えた所のまま置いてあるから、白ユニの2人はサッカー部の部室で、青ユニの4人は体育館で着替えてね』

「うん」
「……ああ」

返事をくれたのは松野と佐久間。他の4人はとぼとぼと歩いて着いてきてはいる。
返事をくれたけど佐久間は先程鬼道と握手した時の表情とは打って変わっていた。
逆に松野は先程は少し沈んでいたが今はもう次に切り替えたような顔をしている。
性格が出るなぁ。

『体育館組は着替え終わったら、部室の方に来てね。解散の前にお話があります』

「話?」

『うん。大事な話だからどれだけ着替えに時間がかかってもいいから、必ず来てね』

人知れず泣く時間もいるだろうし、敢えて時間は決めないでおく。

『また後でね』

ぽん、と染岡、松野、佐久間、武方の背中を順に叩いてから、部室組のシャドウと目金の背を押してサッカー部の部室へ向かったのだった。


着替えてもなおグズグズと泣く目金をよしよしとあやしながら、何も言わず部室の隅でじっとしているシャドウと4人が来るのを待った。

十数分後、4人は部室へやって来た。
目が腫れている者や鼻の頭が赤い者が見えるが、彼らの名誉のため黙っておこう。

「話ってなんだ」

『うん、まずはみんなお疲れ様』

そう言えば、型式的な労いの言葉か……と明らかにみんな沈んだ。

『今回落選してしまったわけだけど』

「水津、言い方」

松野に咎められるが事実は事実だ。

『これで終わりじゃない。みんなにはまだチャンスがある』

「来年って事っしょ?俺ら全員2年生だし?」

『そうだね。武方の言うように来年を目指してもいい』

「なんですか、その言い方じゃ……まるで来年以外にもチャンスがあるような……」

ズビズビと鼻を鳴らしながら言う目金に、そうだよ、と笑う。

『フットボールフロンティアインターナショナル。サッカー少年たちの為の大会。サッカーをプレイするもの、それをサポートするものの成長の場としてと考えられているため、特別ルールが多くもうけられている。私がトレーナーであるのもその特別ルールのおかげね』

「じゃあ、俺たちにもまだチャンスがあるってのは、その特別ルールがあるからなんだな?」

佐久間の質問に、うんと頷く。

『試合事に選手の入れ替えが認められてるんだ。つまり、1試合事にまるっと11人入れ替わる事だって可能』

「なんだよそれ……!」

『無茶苦茶だけど、今の君たちには有難いルールでしょ?』

下ろされる方はたまったもんじゃないだろうけどね。

「今からでもまだ、日本代表になれる……!」

ぐっと染岡が拳を握る。
嬉しそうにしちゃってまあ。

『そういうわけだから、キミらに落ちてクヨクヨする時間はないよ?入れ替えチャンスを狙って練習あるのみよ』

「いい事を聞いたみたいな?そのルールなら武方三兄弟で日本代表になれるってことっしょ?こりゃ帰って練習するしかないっしょ!」

そう言って武方は部室を飛び出して行った。木戸川清修へ帰って兄弟たちに教えてあげるのだろう。

「世界はまだ、僕を見放していないようですね!当然、入れ替えで選ばれるのはこの僕です!」

涙と鼻水でぐずぐずだった顔を袖口で拭き取り、目金は堂々と部室を出ていく。

「ふっ、俺もこうしてはいられないな」

またな、とそう言って佐久間も帝国学園へ帰っていく。

「水津さん。トレーナーで忙しいかもしれませんが、合間でいいので俺の練習メニューの見直し頼めますか」

そう聞いてきたのはシャドウだ。さっきまでの顔と違い、やる気に溢れている。

『いいよ。日本代表のトレーナーだけど、私雷門中サッカー部のマネージャーだもの』

ありがとうございます、と丁寧に頭を下げた後、シャドウも部室から出ていく。

「そうだよね〜。ってコトで水津ボクのメニューの見直しもよろしく」

今日のところは帰る、と松野も部室を出ていく。

『待ったく、松野は相変わらずちゃっかりしてるわ』

しょうがないな、と小さく笑って、染岡を見る。

『染岡は?メニューの見直しいる?』

「いいのか?お前忙しいだろ」

『いいに決まってんじゃん』

そう返せば、染岡は照れたように、サンキューな、と返してきた。

「うっし、なら早速河川敷で練習だ!」

『うん。いい事だけど、やり過ぎは注意ね』

「オーバーワークだろ。わかってるって。誰かさんがうるせぇからな」

そう言って染岡は笑った。

「なあ」

『ん?』

「ぜってぇ、追いついてやっから待ってろよ」

ぐっと拳を前に突き出して見せて、それから染岡も部室を飛び出して行ったのだった。

世界で待ってる
一足先にね。
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