フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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理事長たちの調査の結果、大阪にエイリア学園が出入りしている所がある、拠点ではないだろうか?と言うことで、東京からまた10時間以上かけてキャラバンで移動しやってきた。恐らくここだ、と理事長が目星を付けた住所に来たのだが……。

「着いたはいいけど…」

あんぐりと皆、口を大きくあけた。

「ここが、奴らのアジト…!?」

「ジェットコースター!空飛ぶ絨毯!フリードロップも!!すっごいなあ!!」

ワクワクと言った様子の木暮は、こういう所初めてなんだろうなぁ。漫遊寺に拾われたら、まあこういうところには連れて行って貰えなさそうだし。

「こんな所にアジトなんてあるのかしら?」

秋ちゃんの疑問に答えるためかのように、到着するなり電話をしていた瞳子さんが電話を切った。

「間違いないわね。再度確認してもらったけど、奴らのアジトがあるのはこのなにわランドのどこか、よ」

「つってもなあ……」

「何処を見てもただの遊園地にしか見えないでやんす」

栗松の言うように、普通にお客さんも入ってるし、どう見ても楽しそうな遊園地にしか見えない。

「とにかく手分けして探すわよ。ここでじっとしててもしかたないわ」

「おう。ん?」

夏未ちゃんの言葉に頷いた円堂は、ふと首を傾げた。

「あれ?吹雪は……?」

みんなでキョロキョロと辺りを見渡せば、女の子2人に挟まれてる吹雪がいた。

「怪しいアジトかぁ…」

「あっちじゃない?」

そう言う女の子たちに、うん、と頷いて吹雪は彼女らと遊園地の奥に進んでいく。

『相変わらずのタラシだね』

あはは、と他の男の子達が引きっつた笑みを浮かべた。

「とりあえず、捜査は足だと言うからな。行くか」

と奥に進み出した鬼道に倣って、他のみんなも後に続く。

「よっしゃ!遊園地だー!」

「待って木暮くん!」

飛び出す木暮を追って春奈ちゃんが駆け出す。

「円堂ー!一緒に行こうぜ!」

「おう!」

円堂の横に塔子ちゃんが並んで歩きだせば、あっ、と言うように秋ちゃんと夏未ちゃんが顔を見合わせた。
その2人の背中をポンと押す。

『今ならまだ間に合うから、いっておいで』

「けど…」

ちらり、と不安そうな目でこちらを振り向いた夏未ちゃんの手を、秋ちゃんが取った。

「行きましょう、夏未さん!」

円堂くーん!と声を掛けながら秋ちゃんが夏未ちゃんを引っ張って行く。

その様子を、秋……と、なんとも言えない表情で見詰めた一之瀬が、ふるふると頭を振った後、今は調査が優先だよね、と切り替えて、探しに行った。

『んー、複雑だよね』

「だなぁ」

ぽつりと呟いた独り言に、隣から返される。

『あれ?土門は行かないの?』

「いや?行くけど、こんな所1人とか、男2人とかで歩きたくないじゃん?どう?一緒に」

そう言って、ウインクを投げてきた土門を見て、あはは、と声にだして笑う。

『土門らしいね。いいよ』

「おっ、やった。梅雨ちゃんとデートだわ」

おちゃらけたようにいう土門に、ハイハイと返す。

『それなら、エスコートしてもらわないとね。どこから行く?』

入り口でもらったパンフレットを開いて見れば、背の高い土門は腰を丸くして上から覗き込んだ。

「そうだなー。このエリアは?みんな向こうから行ってたし、こっちは手薄じゃないか?」

おちゃらけてはいるが、意外とちゃんとアジトを探す気ではいるんだな。

『じゃあ、そっちから回ろうか』

パンフレットを畳んで歩き出せば、土門が隣に並んだ。

「しっかし、本当にこんな所にアジトなんてあるのかねぇ」

『木を隠すなら森の中っていうし、宇宙人を隠すなら人の中……というか、多少目立つ見た目でも遊園地内なら仮装とかキャストだと思われるから隠しやすいんじゃないかな』

「はー、なるほど。そう言われたら納得できるわ」

『とは言いつつ、園内のアトラクション周りじゃなくて、キャストさんの休憩所とかからそのアジトに繋がってたりしたらもうわかんないよね』

「流石にそこへの立ち入りは、許可が下りないと無理だよな」

『ねー。鬼道財閥か理事長とかが、なにわランドの運営関わってないかな』

「いやぁ、流石にそれは……、ないとも言いきれないんだよなぁ…」

理事長に関しては、奈良公園での警備員を電話1本で動かせたし、鬼道財閥もなんか色々手広くやってそうだし。
まあ、ここは、夏未ちゃんや鬼道に頼んで働きかけてもらうより、瞳子さんに聞く方が早いんだろうけど。恐らく、吉良財閥の出資があるだろうから。

「おっ、お城だ」

ピエロをモチーフにしたようなデザインのお城の前で土門が足を止める。

「ここ見ていこうぜ。女の子はお城とか好きだろ?」

『えっ、』

いや、お姫様に憧れる子は少なくはないだろうけど……。
てかココは、もろに目的の場所なんだけど……。

『いや、ここは…』

ん?と土門は首を傾げた後パンフレットを開き、お城の箇所の説明文を読む。

「ああ!そういうこと。梅雨ちゃん、ビックリする系ダメなんだっけ?」

『え?あ、ああ、うん?』

ちらり、と私もパンフレットを見る。そこにはビックリハウスと表記してある。
目的地のアジトの隠し場所だから、イマイチな反応をしたが、ビックリさせて来るところなら普通に嫌なんだけど。

「お化け屋敷とはちょっと違うみたいだぜ?どっちかって言うとトリックアートを使った建物みたいだけど」

『あーじゃあ、大丈夫かも。てか別に、お化けが無理なんじゃないからね!?』

「ハイハイ、分かってますって」

じゃあ、行こうぜ、と先行する土門に続いて中に足を踏み入れた。

中は、錯覚を使った至って普通のトリックハウス。


「梅雨ちゃんさぁ、大丈夫?」

『うん?こういうタイプなら心臓に悪くないし大丈夫』

「ああ、そうじゃなくて」

そう言って土門は首の後ろに手を置いた。

「また、怖い顔してるぜ?梅雨ちゃんの事だから、佐久間たちや染岡が怪我したの自分せいだって思ってんじゃねぇなかって」

『そりゃあ、』

そうでしょ。ああなるなら何もしなければよかったし、もしかしたらもっと上手い手があったかもしれないし。

「やっぱりなぁ……。どう考えてもあれは梅雨ちゃんのせいじゃないだろ?悪いのは影山の野郎だし」

『それは……』

「そうって言いきれない理由が、梅雨ちゃんがずっと隠してる事?」

核心を突かれて、思わず立ち止まった。

「おっ、正解?」

振り向いて土門はニコッと笑った。
なるほど。この子がスパイとして選ばれた理由が分かったわ。洞察力があんのね。そんで、簡単に人の内側に踏み込める。

はあ、とひとつため息を吐く。

『大正解』

「あれ?また、いつもみたいに誤魔化されるかと思ってたんだけど」

『いや、もう、いろいろめんどくさいし』

「めんどくさいって…。でも、それが何かは教えてくんないんでしょ?」

『うん、ごめんね。それで、また余計なことして他の子が傷つくの嫌だし』

「…余計なこと?……他の子って……?」

『うん。もう、何もしないから、私の事は気にしないでいいよ』

そう言って再び歩き出すが、土門は困惑した様子のまま、え?と首を傾げて立ち止まっている。

「なあ、まさか、佐久間たちを助けようとした事を、余計なこと、だって言ってるんじゃないよ、な?」

『………』

「沈黙は肯定だろ」

ずんずん、と詰め寄ってきて土門に腕を取られる。

「染岡は梅雨ちゃんにそんな事言って欲しくて、怪我したわけじゃねぇよ!!」

『分かってるよ。けど…、私が彼らの使う技のことを言わなければ、皇帝ペンギン1号を蹴り返してまで止めようとはしなかったんじゃないかって……』

原作通りの捻挫か骨折程度で済んだんじゃないかって。

「言わなきゃ、佐久間も源田も二度とサッカー出来ない体になってただろ……!だから助けようとしたんだろ!?」

『そうだよ。でも結局、佐久間の方は、後遺症が残るかもって。後にサッカーは出来ても、プロは目指せないかもしれない』

若い子の可能性をひとつ潰したかもしれない。

「…っ、それは……。でも、梅雨ちゃんのせいじゃねぇだろ」

『私のせいだよ』

「そこまで断言できる理由を言えよ」

…言えるわけがない。
最初、話を進めるためだけに半田たちが怪我するのを黙ってて。
今回、自分が見たくないというエゴだけで佐久間たちの事を話した結果、本来よりも酷い結果になっていて。
そんな事、どの面下げて話せってんだ。

「ほら、断言は出来ねぇだろ。……俺には梅雨ちゃんが何をどう思ってそう言う考えに至ったのかわかんねぇけどさ、全部が全部梅雨ちゃんのせいじゃないだろ?気にするなとは言わないから、1人で思い詰めるなよ」

な?と土門が、優しく伺いを立ててきて、思わず泣きそうになる。

『……、うん』

「ああー、本当は元気付けようと思って誘ったのに、泣かせちまって失敗したなぁ」

おちゃらけて、デートとか言ってたのそういう事か。

『……泣いてない』

「いや、泣いてるね」

『泣いてないってば!』

「梅雨ちゃんってば意地っ張りね」

そう言って、土門はやんわりと笑って、掴んだ腕はそのままに歩き出した。

カクテルピアノの響き
その優しさが辛い。
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