フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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怒った様子の染岡から逃げるように秋ちゃんの手を引いたまま、グラウンドに戻れば、本当に試合が終わっていた。
結果は引き分け。エイリア石の力も失って、染岡も抜けてたんじゃ、5点返されても仕方ないか。

「お、戻ってきた戻ってきた!お前ら円堂を胴上げするぞ!」

早く来い来いと綱海が手招きする。

「えー!?なんで!?」

驚く円堂の周りにみんな集まっていく。
先程まで怒っていた染岡もしょうがねぇなと輪の中へ入っていく。

「ちょっと!」

もみくちゃにされる円堂の横に塔子ちゃんが身を寄せた。

「これはお礼だ」

そう言って彼女は円堂の頬にキスをした。
突然のことに周りは目を丸くし、キスをされた円堂は顔を茹でダコのように真っ赤に変えた。
みんなから1歩引いたように見守っていた私の両隣にいる秋ちゃんと夏未ちゃんはと言うと血の気の引いたような顔をしていた。

『ふ、2人とも、塔子ちゃんだから他意は無いよ』

フォローのつもりでそういえば、2人とも少し顔を引き攣らせたように、はは……と乾いた笑い声をあげた。
そんな様子にみんなは気付かずに円堂の胴上げを始めた。

『まあ、私も好きな人が他の子にちゅーされたら嫌だから分かる』

「そうよね……」

ほっと、夏未ちゃんは息を吐く。
女子テントでの夜の恋バナ大会以降夏未ちゃんは円堂が好きなこと隠さなくなったなぁ。
それを見て秋ちゃんは何を思ったのか……。少し侘しそうな顔をした後、頭を振るって、わっしょい、わっしょい、と胴上げの声参加しだした。

『恋か……』

誰かを好きになるってのは、しんどいことだよなぁ。
宙へ投げられる円堂を見ながら、ぼんやりと考えるのであった。










『と、言うわけで……。どうも、異世界人です』

わーと、拍手が起きたりはしない。
私に集まる視線が痛い。

みんなの前に立たされて、みんながゲームやアニメのキャラクターということは伏せて鬼道に話した時のような説明を改めて行った。
記憶喪失云々の嘘は響木さんが自分の発案だともちゃんとしてくれた。
まあ、してくれないと困る。私は真実を隠す事していただけで、別に嘘は言ってなかったのだから。

「とんでもない話だが、信じるしかないな。お前さんの今までの影山への態度や、エイリア学園の襲撃後、豪炎寺に俺の連絡先を渡していたことも納得が行く」

雷門イレブンたちと一緒に話を聞いていた鬼瓦さんがそう言えば、みんなを称えるため雷門中へやってきた財前総理も後ろで頷いていた。

「キミの判断も間違いではなかったと思う。確かに、知っていたなら事前に話してくれれば、エイリア学園の襲撃による被害は少なかったんじゃないかと思う人もいるだろう。だが、襲撃前にそんな話をした所で、実際信じた人がどれだけいただろうか」

円堂ぐらい純粋で、心の広いやつじゃなきゃ、そう簡単に信じれないだろう。
特に大人に話ところで戯言だと捉えられるのがオチだとわかっている。
響木さんだって、キャラバンが出発する前に、病院に行ってください、と私が言ったその言葉がなければ未来を知ってるなんて話信じれなかったって言ってたし。
……そう思うとやっぱ影山は異常だよ。最初から嘘は言っていないと見抜いてきてたし。

「まあだからと言って人に頼らずひとりで無茶するのは感心せんがな」

鬼瓦さんのお叱り言葉に、すみません、と謝る。

「それで、」

子供たちの方から痺れを切らしたように声が上がる。

「まだ、隠してることがあるだろ」

ムスッとした様子で、染岡がそう言ってきた。
………さっきのまだ根に持っていらっしゃる。


『あー、えっと………』

目を逸らして頬を人差し指で掻く。

「え、まだなんかあんのかよ!?」

「オレ、梅雨さんのせいで今まで以上に人間不信になりそう」

驚く綱海と、あーあ、と言うような木暮に、うっ、と唸る。

「水津」

ちゃんと話せ、と言うように、染岡の三白眼がじっとこちらを見つめてくる。

『はあ………。わかったよ』

なんだろう、と不安のような視線もみんなから私に向いている。

『えっと、その………。実はアラサーなんだよね』

ええーー!?と一斉に驚きの声が上がる。
いや、なんで鬼道も驚いてんの?影山に話した時一緒にいただろ。

『なんかわかんないけど気がついた時にはこの姿になってて………。こんななりしてるけど、中身は大人だよーって、言うね?』

「ま、まじか………」

話すように追い詰めてきた染岡も、空いた口が塞がらないようだった。

「それでなんかお母さんみたいだったんですね」

『春奈ちゃん?』

みんなの事は子供だと思ってるけど私の歳で14、5の子供居たら何歳で子供産んだ事になんのよ。

「みんなと一線引いた感じがあるとは思っていたけれど………」

秋ちゃんの言葉に、はは、と乾いた笑いを零す。
まあ、ね、そもそも居ない人間なのもあるし、みんなの若さにゃついていけないし。

「近所のねーちゃんみたいな感じあるもんな!水津は前からオレより歳上っぽかったんな!」

細かいことは気にしないタイプの綱海は、がはは、と笑っている。

「じゃあ、水津、さんは本当に?」

無理やり、さんを付けてきた円堂に思わず笑いながら頷く。
1年生達は元々、さん付けだったり、先輩呼びだったからそうでもないだろうけど、2年生達がなんて呼べは、というような顔をしている。

『無理して、さん付けとかしなくていいよ。一応体は若返ってるし、身体的には中学生らしいから。まあ、みんなが気にするなら好きに呼んでもらっていいんだけど……』

「じゃあ別に今のままでいいんじゃなねえか?どうであれ、水津が水津って事に変わりねーんだし」

綱海がそうあっけらかんと言えば、そうだよな、と円堂も頷いた。

「難しく考えるのはやめだ!綱海の言う通り、水津は水津!それでいいよな!」

そう言って円堂がニカッ笑った。
その笑顔になんど救われたことだろうか。

流石、

宇宙一のサッカーバカ
あまりに単純明快な意見に、みんなそれでいいか、と納得したのであった。
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