フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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着替えに建て直しされた部室に戻ったまでは良かった。
着替え終わった後、ロッカーを閉めて、すぐに部室を出ようと思った。
引き戸に手を伸ばしたが、その引手を触ることが出来なかった。

『また………』

手が透けていた。
視線を下に向ければ、足はある。
恐らく今回は手だけ透けてる。

『参ったな………』

これじゃ、扉を開けて出ることが出来ない。
いや、それ以前に、こんな腕透け透けじゃ、みんな驚く所の騒ぎじゃない。

前に全身透けてた時は少ししたら戻ったし、大人しく待つか。

しかし、これって………多分、どう考えたって消える前兆だよなぁ。
成仏でもするんか私。いやでも、死んだ記憶は本当にない。こっちに来る前にトラックに突っ込まれた記憶だってないし………。

まあ、考えうる理由は………、もうすぐ物語も終わるし、それに合わせて私も消えるって所かなぁ。
それか、話を変えようとした罰か。
多分、あの全身が透けて居たよりももっと前から前兆はあった。
あの首輪付けられてた時は、まともな思考回路じゃなかったから思わなかったけど、おかしい事が何度かあった。
不動に足を狙われた時も、当たったと思ったのになんともなかった。そしてあの時は、ヒロトの挑発もあって自らの意思で佐久間や源田の事をどうにかしようと動いていた。
確か、沖縄でも飛んできたボールを蹴り返そうとしてスカったことがあった。……あの前も、自らの意思でメンバーの減った雷門に加勢する事を決めた。

まあ、どっちかわからないけれど、近々私はこの世界から消えてなくなるのだろう。
いいじゃないか。それが、この世界における正しい姿なのだから。

最初から水津梅雨なんてキャラクターは存在しないんだから。

ぼーっと、考え込んで入れば、目の前の扉がコンコンと音を立ててた。

『ひゃっ、』

急な物音に驚いて思わず小さい悲鳴が出た。

「おい、着替え終わったか?早くしねえと試合終わんぞ」

扉の向こうから聞き覚えのある声が聞こえた。

『え、あっ、染岡?えー、と、着替え終わったっちゃ、終わったけど……』

「じゃあ開けるぞ?」

『あ、待って!』

慌てて静止をかける。
手を見ればまだ透けている。
開けられないで困っていたから開けてくれるのは助かるけれど、だけど、この状態を見られるのは………。

『えー、あー、どうしよう……』

「おい、水津?」

『ま、待って、30秒くらい待って!』

扉に向かってそう叫んで、考えるが焦れば焦るほど何も思い浮かばない。
そうして無駄に30秒が過ぎ去った。

「おい、もういいか?」

痺れを切らしたように扉の向こうの染岡がそう言った。

「開けるぞ」

返事に悩んでるうちにそう言って扉がゆっくりと開いた。
慌てて両手を隠すように後ろに回す。

「……?お前、なに隠してんだ?」

『え?何が?』

「いや、しらばっくれるなよ。今何か後ろに隠しただろ」

そう言って染岡は、ズカズカと部室に入り私の前に立った。
見下ろしてくる彼は、威圧的に見える。ガタイがいいってずるい。

ここで下手に退けば、何かやましい事がありますと言っているようなものだ。

『何にもないよ、本当に』

そう笑顔で答えるが、手を前に出すなんてこと現状できない。

納得いかない、と言うような顔で、染岡は身長を活かして、身を斜めにして私の後ろを見た。

『あ、ちょっと!』

「………んだよ?本当に何もねぇのかよ」

『えっ?』

思っていた反応と違って思わず、驚いてしまった。

「えっ、てなんだよ」

『あー、いやなんでもないなんでもない』

手を前に持ってきて、胸の前でナイナイと横に振りつつ、ちゃんと透けてないことを確認する。

「おい、また誤魔化したろ!お前いい加減に……!」

「あっ、2人ともいたいた!」

染岡が怒りかけた所で、秋ちゃんがひょいと部室を覗き込んできた。ナイスタイミングだ。

『秋ちゃん!どうしたの?』

「もー、2人とも戻ってこないから試合終わっちゃったよ」

『あー、ごめんごめん。染岡も呼びに来てくれたのに待たせてごめんね』

そう謝るが、染岡はさっきの話が途中で終わったせいか、ムスッとしている。

『えーと、』

「喧嘩?」

秋ちゃんか心配そうな顔をして私を見た。

「喧嘩じゃねえよ。こいつがまだ何か隠してやがるから………」

ギロリと睨まれる。いや、顔怖いよ。

『う………わかったよ。そんなに言うなら身体検査していいよ』

どうぞ、と染岡の前で両手を広げてみれば、彼の顔はみるみると真っ赤になった。

「はあ!?お前、馬鹿言ってんじゃねーよ!!!」

『いやだって、染岡が何隠した気になるんでしょ?私は何も隠してないもの。好きに調べていいよ』

「ばっ!!好きにって……!男にんな事言うんじゃねーよ!!!」

『えー、何想像したんですかー?秋ちゃんにお願いすればよくないですか?染岡くんってばやらしー!』

手を口の前に持って行って、からかうように、ぷぷぷ、と笑えば染岡は赤かった顔をもっと赤く染めた。

「お前なあ!!!」

怒鳴る染岡を前に、秋ちゃんの手を掴んで部室を飛び出した。

今はまだ誤魔化されて欲しい
嘘つきでごめんね。
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