フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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(染岡視点)


「試合中なのによそ見し過ぎ」

ちくり、とマックスに言われた。

「しかたねーだろ」

ベンチで立向居の手当てをしている水津から、やっと目を話してそう答えれば、何故だか目の前で対立しているはずの一之瀬が顔を輝かせた。

「もしかして、ついにか!?」

ついにってなんだよ、と思わず一之瀬を睨む。

「そうそう。やっと気づいたんだよねー。あんなに好き好きオーラ出しといて今更って感じだけど」

「なっ!?だ、出してねえよ、そんなもん!!」

「そっかー。なら俺と仲間だね」

ニカッと一之瀬は笑って見せる。
仲間、というのは恐らく……………片思いの、ということだろう。
まあ、一之瀬は前から木野の事好きっつってたもんな。
………その割になんか複雑な事になってそうだけどな。

少し離れた位置から、ダーリン!と浦部が手を振っている。
その上、木野は円堂の事が好きだからな。

「………なんつーか、お前の方が大変だよな」

「いや、染岡も人の事言ってる場合じゃないでしょ。ライバルがいるし」

マックスの言葉に、後ろでゴール前を守る影野を見る。

「あー………。アイツ意外とハッキリと、ああいう事言うんだよな……」

結構めんどくさい恋敵なのでは、と影野を睨めば、彼は長い髪を揺らしながら首を傾げた。

「へぇ、彼もそうなんだ。まあ、頑張れ染岡」

「あれ?一之瀬は染岡を応援するんだ」

マックスの言葉に、どういう意味だ、と俺も一之瀬も首を傾げる。

「え、土門もそうなんじゃないの?」

逆に今度はマックスの方が驚いた顔をした。

「は!?土門もかよ!?」

いや、アイツ前々から水津と距離近ぇなとは思ってたけどよ。

「あー。どうだろう」

分からない、と言うように一之瀬は唸る。

「幼なじみなのに知らないわけ?」

「意外と幼なじみと恋バナなんてしないって。それに、土門ってわりと誰とでもあんな感じだし」

ああ、確かに、と頷く。
なんせあの雷門夏未のことすら、ちゃん付けで呼ぶもんな。そういうとこ水津と似てるし、アイツら気が合うんだろうな。

ピピーッとホイッスルの音が聞こえて振り返れば、俺らのゴールが割られていた。

「「「あ、」」」

「おい!そこ!喋ってないでちゃんと参加しろ!」

怒った西垣が叫び、俺らは悪ぃ悪ぃと謝りつつその場を散った。

ポジションに戻りつつベンチを見れば、水津の姿はなく、立向居の手当ては音無が引き継いでやっているようだった。

どこ行ったんだアイツ……。

ぼーっと、ベンチの先を見つめて入れば、ヒュンとボールが横を飛んでいく。

「染岡!!!」

今度は風丸から怒声が飛んできた。

「あー、悪ぃ」

「お前なぁ……。たっく、交代だ交代!」

「は?オイ!?」

風丸に背中を押され白線の外へ押し出された。

「お前、集中出来てないんだから文句は言えないよな」

「ぐっ……」

「目金!染岡の代わりにこっち入ってくれ!」

「フッ、流石風丸くん。この僕に目を付けるとは──」

「はいはい。いいから入ってくれ」

そう言って風丸は俺を追い出した後、目金を引き入れた。

参ったな、とベンチへ向かえば、音無がニヤニヤと笑っている。

「梅雨先輩なら、着替えに行ってますよ」

くそ、見透かしたみたいな顔しやがって……。こいつそういうとこ鬼道の妹だよな。

「……アイツ、もう試合に参加しない気かよ」

「時間的にももう終わっちゃいそうですしねー」

そう言って音無が、フィールドへ視線を動かしたのにつられて見れば、俺の代わりに入った目金が、ボールを奪われて、ボールを取った豪炎寺が吹雪と共に、クロスファイアを決めた。

「それにしても、水津さん遅いですね?もう10分くらい経ちますよ?」

立向居がそう言えば、音無がいやいやと首を振る。

「女の子の支度は時間かかるんだから」

「え、でも、おめかしするわけじゃないんですから」

確かにユニフォームを着替えてくるだけなら、5分もかからない気がするが………。
何となく、嫌な予感がした。

「ちょっと探してくる」

「え、染岡さん!?」

ベンチを離れて、部室の方へ向かってみる。
ジェミニストームに破壊された学校の建築は終わっていて、部室も新しいものになっていた。
ダークエンペラーズのユニフォームに着替える時に、水津は部室で着替えていたし、今回もそうだろうと足を進めた。

グラウンドから部活棟側へ移動するまでに鉢合わせするかとも思ったが、それもなく部活前へ到着した。

万が一、まだ着替え中だったらいけないし、と一応ノックをしてみれば、ひゃ、と驚いたような声が聞こえた。
そういえばコイツ実はビビりだったよな。

「おい、着替え終わったか?早くしねえと試合終わんぞ」

『え、あっ、染岡?えー、と、着替え終わったっちゃ、終わったけど……』

「じゃあ開けるぞ?」

『あ、待って!』

その言葉にドアの引手にかけていた手を止める。

『えー、あー、どうしよう……』

何か悩んでるような声が聞こえる。
着替え終わってんだよな……?何をそんなに悩んでんだ?

「おい、水津?」

『ま、待って、30秒くらい待って!』

なんなんだ、と思いつつも大人しく30秒待つ。
その30秒、中に居る水津が動いている様子はない。
本当になんなんだ。

「おい、もういいか?」

30秒以上たったが、向こうから開けてはこないし、何も言って来ないのでこちらからもう一度訊ねる。

「開けるぞ」

そう言って恐る恐る扉を開ける。
そっと、覗いた中に居たのは、雷門サッカー部のジャージに着替えた水津だった。

鶴じゃなくて良かった
居なくなったりしないよな。
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