フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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気力を使い果たしたのか円堂が後ろ向きに倒れ、雷門イレブンも、エイリア石が砕け正気を取り戻したダークエンペラーズのみんなも慌てて彼の元に駆け寄る。

その後ろでジュラルミンケースに入ったエイリア石も砕け、消滅し研崎が慌てていた。

『やっぱり、シナリオ通りの結末でしたね』

「なっ……!」

後ろから声をかければ、彼は空っぽのジュラルミンケースを大事そうに抱えたまま、頭だけ後ろに向けた。

「それは、つまり……あなたはこうなることを知っていたと!?」

『ええ。何か勝手に勘違いしていたようですけど、あなたの企みも、彼らがダークエンペラーズになることを選ぶのも、そして円堂によってエイリア石を無効化されることもね』

「なんですって!それじゃあ貴方は最初から私を騙して………!」

『騙すなんて人聞きの悪い。私は私の未来は知らないですもん。私が全力でやってみたらどう世界が変わるのか、それは本当に分からなかったんで』

全力の結果。話の結果は変わらなかった。
けど、私は満足だ。本来ならもっとラフプレーで雷門イレブンたちを傷付けていたの防げたし。2-3のところ1-5にしてしまったので立向居の負担は大きくなってしまったけれど………。瞳子さんが、奈良のジェミニストーム戦でやったような、最小限の被害に出来たと思う。

「はは………」

研崎は乾いた笑い声を上げた後、項垂れた。
その周りを複数の人が取り囲んだ。

『あ、遅いですよ鬼瓦さん。足止めしときましたよ』

「お前さんは……また、危ないことをして」

やれやれと呆れた様子で隣に立つ鬼瓦さんが一緒に連れてきた警察官たちが研崎の手下を確保していく。

「お前の野望もここまでだ。観念するんだな」

研崎は既に意気消沈していて、抵抗もなく捕まった。

「悪いが、お前さんにも事情聴取がある」

『あ、はい。一緒に行ったほうがいいですか?』

「いや、ここで話してもらう。お前さんの話を聞きたいのは俺だけじゃないだろうからな」

そう言って鬼瓦さんは親指で後ろを指した。

『ん、』

振り向けば、みんながこちらを見ていた。
円堂も意識を取り戻していたようで、一番にこちらに駆け寄ってきた。

「水津!」

『はい』

「水津水津水津!」

『え、う、うん?』

凄い勢いで名前を連呼し詰め寄ってきた円堂に、1歩退く。

「すっげー!やっぱりすげーよ、水津!お前が入ってからボール取りにくくなったし、こっちのパスは通らなくなるし、点はバンバン決められるし、ホントもうめちゃくちゃすっげー!!」

キラキラとした顔を向けてきた円堂に、何となく懐かしさを感じた。
そう言えば、一番最初に会った時もこんな感じだったっけ。

『それは……、みんなの力だよ。酷いことをした私の言うことなんて、聞いてくれないかと思っていたけど……、みんな指示通りに動いてくれたから………』

「勝つためだったからな」

そう半田が答えたあと、それに……と続けた。

「心の何処かで、分かってたんだよ。お前が、悪意で俺たちに黙っていたんじゃないって……」

「水津先輩、酷いこと言ってごめんなさい」

1歩前にでて少林寺がそう言って頭を下げる。
それにつられたかのように、オレも、と宍戸と栗松も頭を下げた。

『待って待って、頭上げて。私は言われも仕方ない事をしたんだよ』

先輩……!と泣きそうな顔で彼らは頭を上げた。彼は本当に何も悪くない。全部黙って見捨てた私が悪いのだから。

「もしかして、お前がそちら側についたのは、贖罪のためか?」

鬼道の赤い瞳の視線が、ゴーグル越しに射抜いてくる。

『そう、だね。酷いことした分、今度は力になりたかった。まあ、エイリア石をつけられてからはそういう気持ちより、このシナリオ通りに動かされるのがムカつくしぶち壊そうかなって感情に支配されていたけど』

「あの石がそういうものだと最初から分かって居ただろう」

『まあ、ね』

「自分自身がどうなるか分からないのによくやる………」

やれやれと鬼道は呆れたように息を吐いた。

『それは………、みんながどうにかしてくれるだろうなって』

「それって、俺らの事を信じてくれてたって事だよな!」

ニコニコと円堂が嬉しそうに笑うのを見て、はい?と思わず聞き返す。

「だって水津は、こうなる事を知ってたんだよな」

『う、うん………。ダークエンペラーズになったみんなを円堂たちが助ける。最初から全部知ってたよ』

「へへっ、そっか」

なんで円堂が嬉しそうなのか、1ミリも分からない。

「円堂が言いたいのはつまり、知ってたからって俺たちがそれをやりきるって信じてなきゃ、自分までリスクを負う様な事はしないってことだね」

一之瀬が円堂の言葉を代弁する。

「今までの事だって、私たちなら乗り越えられる。そう信じて黙ってたんでしょう?」

『秋ちゃん………』

「それに歴史改変は悪ですからね。先を知っていた水津さんが、情報を漏らす訳にはいかなかったというのも分かります」

『目金………』

「まあ、禁忌とされつつ歴史改変をやる、と言うのが知識有り異世界トリップ物の定番なので、水津さんの行動は変わっていると言えば変わっていますが」

目金はフォローしたいのか貶したいのかどっちなのよ。
まあ、全くしようとしなかったわけではないけどね………。どれも結局は上手くいかなかったけれど。

『あ、でも今回は私が知ってる結末と違う』

エイリア石に身を任せた私は、本気でシナリオぶち壊そうと思ってたわけだし。

「えっ、そうなのか?」

驚いた円堂に、うん、と頷く。

『1-5で点数的にダークエンペラーズの勝ちになってるし』

「本当は違うのか?」

『うん、本当なら──』

豪炎寺に聞かれて答えようとした頃で、待て待て!と円堂に止められた。

「まだ、試合は終わってねーぞ!!」

その言葉に皆、あっ、と呟いた。
そうだ。いい感じに終わった気になっていたが、後半終了のホイッスルはまだなっていない。

『じゃあ、結果はまだ分からないね』

「ああ!みんな!試合を続けるぞ!」

円堂がそう言えば、おう!と元気な声が空いっぱいに響いたのだった。



霽れ
見上げた空は澱みない快晴だった。
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