フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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「監督、今、なんて………」

円堂は少し、震えた声で聞き返した。

「キーパーをやめろと言ったのよ」

『瞳子さん、言い方』

もうちょっとなんかあるでしょうよ。

「そんな!急にそんな事言われても……」

円堂は驚きと困惑でいっぱいといった顔をしている。
そりゃそうだ。今回は、大きな失点をして敗退したわけでもなく、陽花戸中の時のように戦意喪失していたわけでもないのに、やめろ、と言われれば、何故?となる。だから、その説明を先にするべきだと思うんだけど……。

「アタシは反対です監督!このチームのキーパーは円堂しかいません!」

そう声を上げたのは、塔子ちゃんだった。

「だよな。むちゃくちゃだろ」

うんうんと、塔子ちゃんの言葉に綱海が頷く。

「どういうつもりでそんな事いうんですか!」

「オレもいやっス!」

一之瀬や壁山からも不満の声が上がる。

『ほら、ちゃんと説明しないから……』

そう言えば、瞳子さんは小さくため息を吐いた。
……いちいち説明しないと分からないお子様ばっかり、とか思ってるのかなあ。

「勝つためにキーパーをやめて欲しいの」

真っ直ぐに円堂を見て、瞳子さんはそう伝えた。

「勝つため……」

「俺は監督に賛成だ」

「鬼道!?」

「水津、お前もだろう?」

『まあね』

同意を求めてきた鬼道に頷けば、他の皆がええー!?とこちらを見つめてきた。

「俺たちは地上最強のサッカーチームにならなければならない」

『で、その最強になるにも、さっきアフロディが言ったように今の雷門は得点力不足。だから現状、GKであるにもかかわらず沢山のシュート技に関わる円堂がゴールをほっぽって出なければいけない』

「お前が、必殺シュートの為に前に出ることで、相手に得点のチャンスを与えてしまうのなら、それは大きな弱点だ。弱点は克服しなければならない。そこで俺たちは完璧な地上最強チームを名乗ることができる」

鬼道の"完璧"と言う言葉に、吹雪がピクリと眉を動かした。

「それで、円堂にどうしろって……」

「変わってもらうんだよ、円堂に」

『ゴールをほっぽり出さないようにね!』

どういうこと?とみんな首を傾げている。

「円堂。お前はリベロになるんだ」

「リベロ!?」

所謂攻撃型DFだ。

「鬼道くんも同じことを考えいたのね」

感心したように瞳子さんがそう呟く。

「はい。エイリア学園に勝つために、大胆に変わらなければいけないんじゃないか、と。その鍵になるのが、円堂じゃないか?」

『まあ、今回の試合を見たら思うよね。可能性がありそうって』

「今回の試合………」

円堂は、つい先程の試合を思い返す。

「ペナルティエリア外のあのプレーか」

「あの技をマスターすれば、お前は攻守に優れたリベロになれる」

「リベロ……」

円堂が呟く後ろで、他のみんなも、リベロかあ、と先程の試合を思い返したようだった。

「決めた。俺、やるよ。勝つために、強くなるために変わる!リベロになる!」

「リベロ円堂か。面白いじゃないか」

豪炎寺とアフロディは肯定的のようだ。

「キャプテンがリベロに……!」

「なんで震えてるんだ?」

「ビックリしてトイレに行きたくなったッス!」

木暮の質問に答えた壁山はダッシュでスタジアム内のトイレに向かっていった。

「で、キャプテンがリベロをやって、誰がゴールを守るのさ?」

そう言って木暮が首を傾げる。

『さっき、キーパーは円堂しかいないー!とか言ってたけどさ、実はもう1人いるでしょ?』

「ああ。立向居がいる!」

円堂が力強く頷いて答えれば、立向居が、えっと目を丸くした。

「俺が、ですか?」

「そんな簡単に決めちゃっていいわけ?」

塔子ちゃんの言葉に、目金もそうですよと頷いている。

「失礼ながら立向居くんはキーパーとしての経験がまだ浅いと思いますが……」

「大丈夫だ!俺さ、上手く言えないけど……立向居からは可能性を感じるんだ!物凄いヤツになる!そんな気がするんだよな。こいつに任せておけば大丈夫って思うんだ」

真っ直ぐと見つめた円堂に、立向居は困ったように眉を下げた。

「でも……俺……。俺が、雷門のゴールを守るんですか……!?」

まあ、そりゃあプレッシャーかかるし重荷だよなあ。

「私からもお願いするわ、立向居くん」

「監督……」

「ゴッドハンドもマジン・ザ・ハンドも覚えることが出来たお前だ。円堂の後継者に最も相応しいと言えるだろう」

鬼道の言葉に、円堂もうんと力強く頷いた。

「なっ、俺たちのゴールを守ってくれ!」

天才の鬼道に後継者に相応しいと言われ、憧れの円堂にそう言われ、立向居は嬉しそうに顔を綻ばせた。

「はい!頑張ります!」

「しっかりな、立向居」

「面白いじゃねーか。立向居がキーパーになれば、このチームもっと強くなるんだろ?だったらどこまでも強くなってやろうじゃねえか!」

一之瀬と、綱海がそう言って立向居の背中を押す。

「ありがとうございます、監督。ありがとうございます、円堂さん。俺、頑張ります!よろしくお願いします!」

ガチガチになりながら、立向居が2人にそう頭を下げる。

「おいおい、緊張し過ぎだろ」

『まあまあ、あまり気負い過ぎないでね。DFのみんなもサポートしてくれるだろうし』

おう!任せとけと、土門と綱海が頷き、どうかなーと木暮はそっぽを向いた。

『私もトレーナーとしてサポートするからね』

「は、はい。ありがとうございます!」

この日の為に、立向居のトレーニングメニューは、キーパーとして必要な筋力を育てるメニューにしてあるもんね。
それに気づいてたのは鬼道だけで、メニュー調整を言ってきたことがあったなあ。今回の件でメニューを変えなかった理由を賢い鬼道なら理解しただろう。

「そうね、水津さん。今回あなたにもトレーナーとして頑張ってもらわないといけないわ」

『はい?』

そりゃ、頑張るけどなんでわざわざ……?

「立向居のGK用のメニュー、円堂くんのリベロとしてのメニュー。これはヘディングをする上で必要なトレーニングを多めに考えておいて。それから新規加入のアフロディくん。1からのデータで大変でしょうけど、よろしく頼むわね」

『………』

そっかー。立向居はまあ、円堂のメニューを立向居向けにちょっといじればいいけど、そっか………り、リベロか。……1からの作り直しかぁ……。しかも、新規ね……なるほど。なるほどねえ。


頑張ります
今まで、いずれ立向居がキーパーになるってことしか、考えてなかったな……。
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