フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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リカちゃんをベンチに運んで、手当は秋ちゃん達に任せて、ユニフォームをスタジアムの外に止めているキャラバンへと取りに走った。

『アフロディの背番号なんだったっけ……』

ユニフォームを閉まっているダンボールを開けながらそう呟く。
アフロディが雷門ユニを着るの、ほんの数話だけだったから記憶に無いな……。

ダンボールの1番上にあったユニフォームを手に取って広げて、後ろを見る。

『……11番』

染岡が降りる時に置いて行ったやつか……。

「それでいいよ」

『うわっ、』

横からひょい、と綺麗な顔が覗き込んできて思わずユニフォームを手から落としてしまう。

『ビックリした。アフロディ、ついてきたの?』

「キミが戻ってくるのを待つより、僕が移動する方が早いからね」

『あー……』

瞬間移動ね。あれ、神のアクアなくても使えるんだね……。

「とにかく急ぐからこれでいいよ」

そう言ってアフロディは、着ている世宇子中ユニフォームを脱いで落ちたユニフォームを拾い上げ、上から被った。
顔女の子みたいなのに、こういう気にしないで着替えちゃうとこ男の子だねえ。

「さて。これでいいね。水津さん、手を貸して」

『はい?』

アフロディは、右手を伸ばして、私の左手を掴んだ。
あ、貸すって物理的に???

「目、瞑ってた方がいいよ」

ふふっ、とアフロディが笑うのを見て、移動するんだと察して大人しく目を閉じる。

「もういいよ」

その声に目を開けると、一瞬でスタジアム内に戻っていた。

『相変わらずどういう原理なんだこれ……』

「知ってるだろう?神の力だよ」

彼の言葉に、周りの雷門中生達が怪訝な顔をする。まさかまだ神のアクアを、と。

「君たちの反応も無理はない。しかし、僕はもう、神のアクアに頼るような愚かな事はしない。水津さんが検査を薦めてくれたおかげで、アレの危険性は痛いほど知れたしね」

ああ、よかった。あの後、世宇子中の子達はちゃんと診てもらえたのか。

「なにより、僕は君たちに敗れて学んだんだ」

アフロディは真っ直ぐに、円堂を見た。

「再び立ち上がることの大切さを。人は倒れる度に強くなれる」

「本気なんだな?」

円堂が聞けば、アフロディはああ、と強く頷いた。

「わかった。その目に嘘はない」

そう言って円堂がアフロディに手を差し出した。アフロディはそれを握り返し握手した。

「ありがとう。円堂くん」


アフロディは怪我したリカちゃんの代わりにライト側のFW位置に入る。


「ええんか?アイツに任せて」

ベンチの方へ入れば、リカちゃんが秋ちゃんに治療されながら不満そうに口をとがらせた。

「試す価値はあるわ」

「監督の言う通り、決定力の不足を補うにはこれもありね」

「大丈夫よ。円堂くんが認めたんだもの」

『そうそう。それに今、リカちゃんに無理させて怪我が酷くなっても困るし、向こうから力貸してくれるって言ってるんだし、借りれるもんは借りればいいんよ』

「それ、梅雨先輩がいいますか……」

呆れたように春奈ちゃんが言う。

『いや、まあ、ね』

そりゃあそうだわ。頼ればいいとか頼らない私が言うなって話だ。

「まあ最近は、まだ多少相談する事を覚えたようだからマシな方よ」

そう夏未ちゃんがやれやれと息を吐きながらもフォローをくれる。

『あははは……。と、とにかく試合応援しようか』

「まったく。貴女って人は……」

視線をフィールドへ向ければ、試合再開早々に、土門がボルケイノカットで、ボールを奪いドリブルで駆け上がっている。

「こっちだ!」

前線を駆け上がるアフロディが声をかける。
だが、土門はアフロディを信用していいものか悩んでしまったようで、その隙にダイヤモンドダストのブロウにボールを奪い去られてしまう。

「再びダイヤモンドダストの攻撃!」

角馬くんが実況するように、ブロウが雷門ゴールへ向けてシュートを打った。

「ザ・ウォール!!」

がっちり壁山がブロックして、ボールを取り返した。

「壁山!アフロディがフリーだ!」

すぐさま鬼道が指示を飛ばす。しかし、

「え?でも……」

壁山も土門と同じように、躊躇いを見せた。

「パスするんだ!」

「は、はいッス!」

言われたまま慌てて蹴るものだから、ボールはアフロディの足よりも数歩前に転がっていき、ラインを出てしまった。


『んー……』

鬼道は、自身がアフロディと同じく敵チームから雷門に加入した身だからか受け入れが早いけど、やっぱり他の子達は難しいよねえ。


その後も、一之瀬がフレイムダンスでボールを取るが、フリーのアフロディより、マークの厳しい豪炎寺にボールを送り、奪われガゼルにシュートを打たせてしまう。
何とか円堂がキャッチしたものの……。

「やるじゃないか。だが、チームは噛み合ってないようだ。崩すのは容易いな」

ガゼルの言う通りだ。




「どうしちゃったんでしょう」

ベンチで春奈ちゃんが心配そうに呟く。

「まだ、信じきれていないんだわ」

秋ちゃんも不安そうにフィールドを見つめる。

『まあ、世宇子中を知ってる者からしたら彼のやった事はね……』

「そうね。簡単に信じられないのも無理ないわ」

夏未ちゃんが頷きそう返す。

『まあでも、大丈夫でしょ』

「どうしてですか?」

『円堂はもう信じてるだろうし、鬼道や豪炎寺は割り切れるタイプだし。なによりこのチームにはフットボールフロンティアの事なーんにも知らない、サッカー初心者もいるわけだしね』

「それって…………」

みんなの視線が綱海に集まる。

ちょうどよく旋風陣で木暮がボールを止め、綱海にパスを出した。

「おい!遠いぞ!」

「パスが乱れたぞ!奪え!」

綱海よりだいぶ前に飛んだボールを見て、ガゼルが指揮を飛ばせば、ブロウとバレンがボールを取りにスピードを上げた。
それに持ち前の運動神経を使い、足先を伸ばし、足の甲にボールを乗せた綱海は、足を自分の方に戻してボールを引き寄せた。それを奪おうとブロウとバレンは綱海の前を右と左で塞ぐ。

「ちょうどいいぜ。アフロディ!」

綱海は器用な事に、2人の身体の隙間にボールを通してパスを出した。
そのパスをトラップしたアフロディは、いくよ、と小さく呟いた。

「初めてアフロディにボールが渡ったー!」


『よし!』

流石、綱海。細かい事は気にしない男!

アフロディは直ぐにドリブルで駆け上がり、それをダイヤモンドダスト達が追っていく。

「ヘブンズタイム」

アフロディは足を止めて腕を天高く上げ、指をパチンと鳴らした。

時が止まり、アフロディは悠々と、ボールを奪いに来ていたドロルとアイシーの間を歩いて抜けた後、もう一度、パチンと指を鳴らして時を戻した。
そうすると、アフロディの後ろで逆巻く風にドロルとアイシーが吹き飛ばされた。

「ふん、堕落したものだ」

そう言ってガゼルがアフロディの前に立ち塞がった。

「キミを神の座から引きずり下ろした雷門に見方するとは」

「引きずり下ろした?違うよ。彼らが、円堂くんの強さが、僕を悪夢から目覚めさせてくれた。新たな力をくれたんだ」

「キミは神のアクアがなければ、何もできない!」

そう言ってガゼルがアフロディの元へ突っ込んでいく。

「そんなもの必要ない」

淡々と返したアフロディは少ない動作で、右足の側面を使い、とん、とボール左に押し出した。

え?とガゼルが視線を動かすのと共に、アフロディの横を豪炎寺が走り去りボールを取った。
そしてガゼルの視線が豪炎寺に向いたのを利用して、アフロディは右側からガゼルを抜いて、豪炎寺からパスを受け取った。

「見せよう。生まれ変わった僕の力を!」

そう叫んでアフロディは、背中に白い翼を生やして、空へ飛び上がった。

「ゴッドノウズ!」

「これは……!」

「前よりもパワーアップしている!」

ゴールへ飛んでいくシュートを見て円堂と鬼道が声を上げる。

「ゴォオオオーール!」

神のアクアに頼っていた時より、強くなったアフロディのシュートは、簡単にダイヤモンドダストのゴールを破った。

「よぉし!」

円堂がガッツポーズで喜びを表す中、シュートを決めたアフロディは踵を返して歩き豪炎寺の戻へ向かうと、彼は手を挙げたのだった。


ハイタッチ
ぱん、と手を合わせた2人を見て、他のみんながハッとするのがベンチからでもハッキリとわかった。
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