フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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立向居の居たレフトのポジションに入れば、鬼道が寄ってきた。

「流石の監督も、お前を使わざるを得なかったということか」

『まあ、さっきの状態だと土門の負担が大きいからね。出来れば中間でボールをキープしてDF全体的に回復させたいしね』

土門が目金と立向居のフォローで崩れて来てからは、今度はそのフォローにDF全体が疲れを見せていたし。

「ああ。それもあるだろうが、攻め手の補充の意味もあるだろう」

『あー……』

まあね、DFもだけどやっぱりFWとしての吹雪の位置がデカい。

「お前の事情は分かっているが、俺も使えるものは使う派だ。ディフェンダー達の体勢が建て直ったら、お前も攻めてくれ」

『………うん。分かったよ』

どうせ彼が来るまでの間だけだしね。







『行かせないよっ!』

「はあ!?」

ドリブルで駆けて来たマキュアが、メテオシャワーを使おうとする前に、スライディングでボールを奪い、取ったボールを両足で挟んで飛んで彼女から距離を取る。

試合は私が中盤に入ることで瞳子さんの思惑通り雷門側でボールをキープ出来るようになった。これで攻め上がる事ができる。

「リカ!塔子!上がれ!!」

鬼道の指揮に、返事をした2人はフィールドを駆け上がっていく。

「水津!」

2人にパスだ、と鬼道が私の名を呼べば、それにつられてスオームとモールが彼女達を後ろから追う。

現行、彼女らでは追いつかれて振り払える程の突破力はない。だから、

『綱海!』

「へ?……オレ!?」

自分の所にパスが飛んできて綱海は驚きの声を上げてくれた。
そのおかげで、リカちゃんと塔子ちゃんを追いかけていたスオームもモールも足を止め、引き返そうとした。

「そういうことか!綱海!2人にロングパスだ!」

「よく分かんねぇが……!うぉりゃああああ!!!」

綱海の力強い蹴りで、ボールが速攻で彼女達の元に向かう。初心者故にコントロールが良くないおかげで、逆に正しくポジション取りしたイプシロン達の間を抜けていく。
そして、例えパスコースズレてても、リカちゃんも塔子ちゃんも、綱海が初心者だと分かっているから2人の方から合わせるように調節してくれる。

「行くで塔子!」

「ああ!」

綱海からのボールを真ん中になるように飛び上がった彼女達は空中で手を繋いだ。

「「バタフライドリーム!!」」

大きな蝶が舞い、イプシロンゴールへと飛んでいく。

「ワームホール」

バタフライドリームはデザームのワームホールに吸われ、簡単に止められてしまった。
そしてデザームは止めたそのボールをイプシロンのメンバーにでなく、鬼道へと投げつけた。

「なにっ」

以前から、吹雪を焚き付けるときにもしていた、打ってこいと言わんばかりのパス。

「……!一之瀬!!」

鬼道は一之瀬を呼びボールを上に蹴りあげた。
一之瀬はボールに合わせて飛んでそのボールをヘデングでたたき落とし、それを鬼道がシュートする。

「「ツインブースト!!」」

「ワームホール」

ツインブーストも、ワームホールに吸い込まれ止められる。
そしてまたもデザームは、ボールを雷門側である一之瀬に投げつけた。

「一之瀬!」

ゴール前から円堂と土門が駆け上がって来る。

「よし!」

3人が走り、3つの線が1つの点で重なった時、炎の鳥が生まれる。

「「「ザ・フェニックス!!!」」」

雄叫びを上げながら3人がボールを蹴り、今度はフェニックスがゴールに向かって飛んでいく。

「ワームホール」

またも、ワームホールかボールを吸い取った。

「なんというキーパーだデザーム!雷門の必殺技を尽く止めている!!」

角馬くんの実況、プレイヤー側からするとキツいわね。

「やはりこの程度か……!」

ぶんっ、とデザームがボールを投げつける。

「ひいっ!」

悲鳴を上げて目金が避けたボールが私の足元に跳ねて来た。

「梅雨!」

行け!と言うように塔子ちゃんが叫ぶ。

ああ、もう……!仕方ない!!

つま先でリフティングしたボールを高く蹴りあげ自分も跳ぶ。私の上を雨雲が多い雨が降り出した。

『行くよ、レインドロップ!』

空中で前転し、踵でボールを叩き落とす。

「ワームホー……なにっ!?」

吸い込もうとしたボールはゴールよりも大分手前に落ち、そして落ちた瞬間軌道を変えて吸い込まれるより先にゴールに刺さった。

『えっ………』

「おおおお!!雷門先制点!水津梅雨が一点をもぎ取りました!!」

「「やったー!!」」

「梅雨!!」

後ろで皆が叫んで、リカちゃんと塔子ちゃんが私に勢いよく飛びついてきた。

「ほう……」

ぎろり、とデザームの赤い目がこちらを射抜くように見てきて、背筋が凍る。

「やるやん梅雨!決めたんやからもっと喜びや!!」

バシバシとリカちゃんは背中を叩いてくる。

「そうだぜ、梅雨!って……なんでそんな青い顔してるんだ……?」

私の顔を見て塔子ちゃんはギョッとしたように目を丸くした。

『え、あっ……』

だって、決まるなんて思ってなかった………。みんなのシュートと同じようにワームホールで止められると思っていた。
ここで、私が点を取ってしまったら、話が………。

「梅雨?どうしたんや?まさか怪我完全に治っとらんかったんか??」

リカちゃんが、わたわたと慌て出す。

『……はっ、』

どうしよう……。とんでもないことをしてしまったのでは……。このままではまた、誰かが……!


「よく決めた」

とん。

と、後ろから頭を押された。

『は……?』

「だが、少し落ち着け」

『なん……?』

振り返れば鬼道が居た。こういうスキンシップが珍しくて驚いて見れば、彼はふっ、と口角を上げた。

「染岡がよくそうやっていたから真似して見たが、効果あったな」

『え?』

ああ……、確かに、染岡は私の頭を押さえるように押してくる事あったな。それやめてって何回言ってもやられた。

「恐らくこの先は多分、お前が標的にされる」

そう言って鬼道はポンと肩を叩いた。
私が標的にされる……。デザームが執拗に吹雪にシュートを打たせようとしていたみたいに……。確かに、シュートを打たせる間はデザームは故意に相手を怪我させたりはしない。本当にそうなるかはわからないが、事情を知る鬼道は私を落ち着かせる為にそう言った。

「ああそうか!大丈夫や梅雨。あんた1人に頼らんで!うちかてシュート決めたるからな!」

「ああ!あたしだってやるぜ!」

鬼道とのやり取りを傍で聞いていたリカちゃんと塔子ちゃんは、私が青い顔をしていたのは、吹雪の代わりの重責を感じたからと読み取ったようだ。

『2人とも……』

2人ともすっごく優しい……。

『ありがとう。鬼道もありがとね』

「行けるな?」

こくり、と静かに頷いた。

蛇に見込まれた蛙
彼が来るまでの間、最悪だけは防がなければ……。
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