フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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初心者の綱海が仲間との連携を覚え、試合はより激しい攻防戦が続く。

「ダーリン!」

試合終了間際、リカちゃんからのパスで一之瀬がボールを受け取り、ゴール目指して駆け上がる。

「いけ!一之瀬!」

「行かせねぇぜ!!」

うおおおおおお、と雄叫びを上げながら綱海が一之瀬に正面から向かう。
フェイントを掛け、横から抜けた一之瀬が抜ける、が。

『おお、』

一之瀬の足元にあるボールを綱海は脅威の身体能力を生かし、伸ばした足で掬うように奪い取った。

「っ、」

ボールを取った綱海は、フィールドを見渡して動きを止めた。
雷門イレブン達が、大海原イレブン一人一人にマークに付いていて、どこにパスを出せばいいか悩んでいる。

「くそっ、これじゃパスが出来ねぇ!」

悩む間に、一之瀬がボールを取り戻そうと足を伸ばして来る。

「だったら打つしかねぇだろ!!」

そう叫んだ綱海の後ろから大きな波が押し寄せる。その波に流されるボールをサーフボードに見立てて綱海は乗った。

「おらあああ!ツナミブースト!!」

ディフェンスラインからのロングシュートが雷門ゴールに向かって放たれる。

「円堂くん!」

「マジン・ザ……!」

マジン・ザ・ハンドの溜めに入ろうとした円堂は、ボールの流されてくる波の勢いが速いことに気が付き、溜めの為に握っていた拳をグッと前に突き出した。

ツナミブーストと円堂の繰り出したパンチングがぶつかり合い、円堂が後ろにぶっ飛ぶ。

「円堂弾かれた!だが、ゴール成らず!」

角馬くんの実況と共に、古株さんがピッピッピィーとホイッスルを鳴らした。

「ここで試合終了です。1対0、雷門辛くも逃げ切りましたァ!」

上半身を起こして、ぽかんとした様子で円堂は自分の掌を見つめている。
そんな彼の元に秋ちゃんと立向居が駆けていく。

「円堂くん!今のって!」

「ギューンですよね、円堂さん!!」

ずっと特訓で掴めなかった正義の鉄拳の動き、それに値するものではと立向居が興奮気味に言う。

「ダンギューンドカン!今のは絶対正義の鉄拳ですよ!!」

「円堂!そうなのか?」

みんなも円堂の周りに駆け寄って、依然として手のひらを眺める円堂に問いかけた。

「うーん……なのかなぁ?」

「なのかな?」

自分の事なのに喜んだ様子のない円堂に皆首を傾げでいる。

『まあ、ギューンがあの捻りだとしても、ダンもドカンあった感じなかったし、必殺技の完成系ではなさそうよね』

そう言えば、立向居はあっ、と呟いた。

「そう、ですよね……ダン、とドカン……。でも!ギューンは絶対アレですよ!ね、円堂さん!」

「うーん、確かにギューンって感じはあったけど、俺無我夢中でどうやって出したか覚えてないんだ」

立ち上がっても尚、円堂は自分の手のひらを見つめて握ったり閉じたりしている。

「全然?」

秋ちゃんがそう聞けば、円堂はうん、と頷いた。

「すげぇな円堂!」

そう言って綱海が輪の中に入ってくる。

「アレ、サーファーが波に飲まれそうな時、ボートから吹っ飛ばされないようにする動きだぜ!」

こうやって、と綱海はその場で実演して見せる。

「そうか!あの時俺、こうやって腰を入れて……!」

綱海の動きを見て円堂は同じような動きをしてみせる。

「えっ、違うだろ?こうだろ、こう!」

そう言って綱海はもう一度、同じ動きをしてみせる。

「こうか!」

「違うよ!こうだって……!」

円堂が綱海を真似るが、綱海は違うと言い、またやってくれるが、正直何が違うのか素人目にはさっぱりわかんない。

「何処が違うのか僕には全然わかりませんけどね」

『ねー』

私の思いを代弁するかのように目金が声を張り上げたのに頷く。

「やっぱまぐれか。そう簡単にできる動きじゃねぇからな」

綱海が諦めたようにそう言えば、円堂は何か悩むように動きを止めてじっと黙った。

「……綱海。俺にサーフィン教えてくれないか」

「えっ?」

「俺、その動きマスターしたいんだ!マスターして必殺技を完成させたいんだ!」

円堂は真剣な表情でそう言うが、綱海はやめとけやめとけ、とあしらった。

「マスターって素人が簡単にできる動きじゃないんだぜ?」

「俺、覚えたいんだ!どうしても!」

ずい、と円堂は綱海に詰め寄る。

「覚えて完成させたいんだ!」

「いや、気持ちはわかるけどよぉ……気持ちだけじゃ出来ないこともあんだからさ」

「でも綱海!お前にはできたよな?」

円堂のその言葉に綱海はきょとん、とした。

「俺に?」

「綱海だって、サッカーやったことほとんどないのにあんな凄いシュート打てたじゃないか!どうしても点を入れたいって気持ちがあったからだろ?」

円堂がそう言えば綱海は困ったように頭を搔いた。

「綱海頼む!綱海!」

円堂の様子を見て、綱海はしょうがないというように1つ息を吐いた。

「分かったよ。適わねぇな……教えてやるよ」

円堂の熱意に折れて、綱海がそう言えば円堂は、わあ!と嬉しそうに顔を綻ばせた。

こうして円堂と綱海のサーフィン特訓が始まる!の、前に、大海原の監督さんの厚意で、みんなでバーベキューをすることになった。
まあ、厚意というか好意というか……瞳子監督への下心が正解だったかもしれないけれど……、その想い人の瞳子監督は知らぬ間に居なくなっていてバーベキューに参加してないのだけれど。


浜辺でのバーベキューで腹ごしらえを済ませた後、円堂と綱海はサーフィン特訓を開始し、残った者達は大海原中のグラウンドを借りての練習となった。

『みんなー!しっかりストレッチしてねー!!』

「いっち、に、さーん、しー」
「ごー、ろく、しち、はち」

各自、特訓前のストレッチを開始する。
1人で行う者も入ればペアになって行う者たちもいる。

「いてててててて!壁山くんもっと優しく!!」

「すみませんッス……!」

なんで目金は壁山と組んだんだ……。
体格差考えればいいのに。

一応は私トレーナーとしてこのチームにいる訳なので、みんなが運動前のダイナミックストレッチがちゃんと出来てるか見ておかないと、と辺りを見渡せば、ストレッチをしないで立向居の元に歩いていく土門が居た。

「立向居、行かなくていいのか?」

「はい?」

土門の言葉に、1人でストレッチを行っていた立向居は動きを止めて振り返った。

「浜辺の円堂達のところだよ。いつも一緒に特訓してるだろ?」

「はい、でも、キーパーの特訓はいいんです」

そう言って立向居は土門から目を逸らした。

「俺、元々ミッドフィルダーだし……。俺、さっきの試合やって思ったんです。いつかは円堂さんみたいなキーパーになりたい。けど、雷門の正GKはやっぱり円堂さんなんです。だから今は……」

立向居は前を向いて、グッと両手を握ってファインディングポーズのように構えた?

「ミッドフィルダーとしてチームを支えます!」

そっか、と土門は優しい声色で頷いた。

「よし、じゃあ付き合え」

「え?」

「俺と組んで練習しようや!」

土門の言葉にありがとうございます!と立向居が礼を言う。

いい先輩してるじゃん。

「水津!少しいいか?」

鬼道に呼ばれて、はーい!と返事をしてベンチに向かう。

「この練習メニューだが………」

鬼道の持つバインダーを覗き見る。

『うん?』

鬼道が見ていたのは、立向居の個人練習メニュー。陽花戸中からフェリー乗り場までの道中で作成した物だ。

『あー、これね』

「体力作りのメニューをもっと増やした方が良いだろう」

現在のメニューは筋力アップを目的としたものが多い。

『いや、個人メニューはこのままでいいよ。どちらかと言えば、全体のパス連携とかの練習増やした方がいいと思う』

「ふむ……」

『体力は筋トレと全体練でもそれなりに上がるし、連携で立向居の立ち回りを少なく出来れば、体力温存もできるしね』

「……なるほど。わかった。となると、ジェミニストームがやっていたように、パターンを決めていた方が、最小限の行動で済むな」

『そうだね。今回と同じフォーメーションなら、私が……』

「2人とも危ないッス!!」
「避けてください!」

『へ?』

壁山と目金の叫び声を聞いてバインダーから顔をあげて見れば、サッカーボールが飛んできていた。
必殺技シュートではないしこれなら取れる。

『よっ、と……』

軽く飛んで、それこそ先の試合で綱海がやって見せたように、足で挟んで止めてやろうと思った。

のだが…………、

『……あれ?』

取れた!と思ったのに、すかっ、とボールが足元をすり抜けて、後ろを通り過ぎて行った。
とん、と地面に着地して、首を傾げる。

『なんか今の……?』

「どうした?いつもならあれくらい余裕で取れるだろう?」

隣の鬼道も首を傾げている。

『そうだよね。なんか今の感じ、前にも…………』

「ぷぷっ、カッコつけて取れないでやんの〜!」

やーい!と指さして木暮が笑ってきた。
そんな彼に、ピキピキとこめかみを引き攣らせ、木暮くん?と低い声で春奈ちゃんが声をかける。

「元はと言えば木暮くんがボール吹っ飛ばしたんだから謝るところでしょ!!」

「そうッスよ!」

「えぇー?元はと言えば目金さんのパスがヘッタクソだったからだろ〜」

「なんですって!?」

やいやい!と3人に怒られて木暮が逃げ惑う。

「前にも、なんだ?」

そう鬼道が4人の様子を見つめながら聞いてきた。

『ああ、えっと、なんか前にも同じような事あった気がしたんだけど、忘れちゃった』

「デジャヴということか?」

『うーん、それとはなんか違う気が…………』

思い出そうとしてみるが全く、分からない。


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