フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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綱海の案内の元到着したのは、東南アジアとかで見るような海上に転々と建築されそれを掛橋で繋げた建物。
綺麗な海に浮かんでいてリゾートのようなそれはみんなに好評のようで、こんなところで毎日サッカー出来るなんてと羨ましがっている。

「で、そのサッカー部はどこに居るんだ?」

綱海に連れてこられた海に囲まれたサッカーフィールドには人っ子一人姿が見当たらない。

「そう言えば誰も居ないですね……!?」

春奈ちゃんの言葉の最中に、ヒョロロ、と何かが打ち上がる音が聞こえた。
なんだ、とみんなが身を固めると、空中でバンバンと狼煙が上がるのが見えた。

「サプラーーーーイズ!!!」

そんな、男の人の声と共に、ターコイズブルーのユニフォームを着た少年少女が一斉にフィールドの中に飛び込んで来た。
そして、歓迎!雷門中!と言う横断幕を掲げられた。
一同ぽかんとしていれば、黄色いバンダナを頭に巻きその上にサングラスを乗せたアロハシャツのおじさんが、円堂に近づいた。

「驚いた?驚いた??」

子供のようにそう聞いてきたおじさんに、夏未ちゃんのこめかみが引きつった。

「この人が監督なの」

「いいノリしてんだろ?」

「確かにこの人なら大会の日、忘れちゃいそう……」

大海原中サッカー部監督は雷門中の子達一人一人に驚いた?驚いた?と聞いて回ってる。
みんな、えっ、とか、はあ、とか呆れてものも言えないよう。
そんなみんなの様子に気づいていない大海原中監督はハッとしたような顔で瞳子さんを見ると、デレデレと鼻の下を伸ばしながら近寄って行った。

「いやいやいや!光栄だなこんなところ出会えるなんて!あのフットボールフロンティアでの見事な采配!」

ん?と雷門中一同首を傾げる。

「見てましたよ!見てました。まさに監督の鏡!ぜひ聞かせて欲しいですなぁ…。星空でも見ながら。優勝監督の監督論!」

下心丸出しのその様子に瞳子さんは、淡々とそれはどうもと返す。

「響木監督には、私からちゃんと伝えておきますので」

そう言われてやっと気づいたのか、大海原中の監督は青い顔をした。

「…俺としたことが、あまりにも似てたもんで間違えちゃいましたよ!!」

んなアホな………。
何処をどう見たら顔の怖いオッサンとこんな綺麗なお姉さんが似るんだよ。

「あなたのチームはこんなのばかりなの……」

夏未ちゃんが呆れて言えば、綱海はああ、と頷いて、大海原中イレブン達を紹介してまわる。

「こいつは毎日親父と船に乗っててよ。こいつが乗ってるのは耕運機」

ガタイの良い鷲鼻の少年宜保と、鼻に絆創膏を付け波のようにカールした髪を持つ少年東江を指さす。

「こいつは家がノリ山町で、こいつのカーチャン海苔屋のノリ子!」

ドレットヘアでサングラスを掛けた戸具知、シュノーケルを付けた平良を紹介していく。

その様子に夏未ちゃんは頭を押さえた。

「頭痛くなってきたわ……」

「でも1番ノリが良いのは……」

そう言って綱海が指さしたのは、1人だけ離れて横断幕の横に立つ少年だった。

「紹介するぜ。音村楽也」

出たなトゥントゥク。

ピンクのヘッドホンを付けた眼鏡の少年は、音漏れしているヘッドホンで音楽を聞きながら組んだ腕を指先で叩きながらリズムを撮っている。

「チーム1のノリノリ男!」

「君たちの事は聞いているよ。試合楽しみにしているから」

それだけ言って音村は、離れていく。
そんな様子にイライラとした様子で夏未ちゃんが、先に帰ってる!と言い出した。

お嬢様はどうやらこのチームをお気に召さなかったみたいだけど……。

『音村か……』

「どうした?」

ぽつり、と呟いた言葉に鬼道が首を傾げた。

『あー、いや。相性悪そうだなと思って』

「わざわざ口に出すという事は…、お前が、と言うことか?」

『うん。多分この試合役に立たないかも』

なんせね、彼はリズム使いだからなぁ……。







そう言ったにも関わらず、

「フォーメーションはリカと水津のツートップ」

鬼道の提案した配置にしっかりと組み込まれた。
いや、まあ私でもゲーム的に相性悪くてもステータス的に目金より上だから私入れるわ。

「立向居にはミッドフィールダーを頼む」

ここも目金入れるよりは、元MFの立向居が入る方が確実だもんなぁ。

「はい!」

「久しぶりの試合で掴みにくいとは思うが気負わずやってくれ」

「はい!頑張ります!」

『私もちゃんとした試合は久々だし、一緒に頑張ろうね〜』

よしよーし、と立向居の頭を撫でる。

「はっ、はい…っ!!」

「よーし!」

円堂が声をかけて円陣を組む。

「みんな!気合い入れていくぞ。相手はちょっと変わってるが戦う時はいつも真剣勝負だ!」

おう!と返事してそれぞれポジションに散る。

「みんな頑張ってねー!」

秋ちゃんの声援に、頑張る!と手を上げてレフトウィングに入る。


古株さんのホイッスルで試合が開始する。
大海原のキックオフでスタートする。

「みんな!ノってくぜ!」

綱海の掛け声で大海原中イレブンが中央へ上がる。
サメのような見た目のFWの池宮城から、顔にペイントをしたモジャ毛の少年古謝にボールが渡る。
古謝は胸でトラップしたボールを頭の上で2回トントン跳ねさせた後、ヘディングでパスを回す。

東江に飛んだそのボールを彼はその場でターンで一回転しながら受け取った後、上に流して、膝でリフティングして1段高く上げ、それをハイキックで後ろに蹴り返した。

「はいっ!」

今度はそのボールを、戸具知がターンしながらヒールで受け取ったボールを上に上げて頭で受け止めた。

「イェーイ!」


「…なんか、この動き……」

「梅雨ちゃんに似てる……?」

ベンチから見ているマネージャー達がそう呟く。

……そうなんだよねぇ。ここの子たち、凄くリフティング技能が高い。

「おほー!みんなノってんなぁ!!こいつは俺も負けらんねぇぜ!戸具知!」

綱海が叫べは戸具知は頭上のボールを、更に後ろの綱海に蹴った。

「え?」

前のFWじゃなく後ろのDFの綱海に渡された事にリカちゃんが困惑している。

「でああああ!」

叫びながら、跳んだ綱海は空中でそのボールを両足で挟んで受け止めた。

「ん〜!ナイスキャッチ!」

監督が叫び、ボールをキャッチした綱海はシュタッとカッコつけて地に降りた。

「「「イェーイ!!」」」

「やっぱり凄いぜ綱海!」

「だが、戦略的になんの意味があるのか、全く不明です!」

いつもの如く追いついてきて実況を始めた角馬くんがマイクを握りしめそう言っている。
本当になんの意味もないから怖いよこのチーム。

「ノってけよ!」

綱海がそう言って、古謝にパスを出す。

「何がノってけや!そんなノリでうちらに勝てると思ったら大間違いや!」

そう言って駆けるリカちゃんを見て、腕を組んで立ったままの音村の指先とトゥントゥクと口先で刻むリズムが早くなった。

「プログラ、アップテンポ!8ビート!」

音村が叫ぶと、ドリブルをしていた古謝のスピードが上がり、リカちゃんの横をサッと通り過ぎた。

「あっ、」

うーーん、やっぱり私とは相手悪そうだ。
音村を見れば彼はまだリズムを刻んでいる。

「いいぞ古謝!どんどんノってけ!」

「だったらアタシが!」

ザ・タワーで塔子ちゃんが迎え撃つ。

「アンダンテ!2ビートダウン!」

アンダンテは歩く速さでという意味。スピードを落とした古謝は、タワーにぶつからず、くるりと向きを変えてバックパスを出した。

「信じられないッス!ザ・タワーをあんなに簡単に躱すなんて……!」

あのエイリア学園ですら塔子ちゃんのザ・タワーにはやられてきてるのに、驚きだよね。

バックパスでボールをもらった戸具知がドリブルで上がる中、ワシも行くぞ!と大声を上げで宜保が駆け上がってくる。

「ノリで上がってきた!?」

上がった彼に戸具知がボールを渡せば、その両サイドに池宮城と古謝が寄り宜保が2人の腕を掴んで大空へ放り投げた。

「そしていきなり必殺技!?」

「「イーグルバスター!!」」

空から2人が蹴り下ろしたボールがゴールに向かってピィーと鷲の鳴き声と共に飛んでいく。
それを見て、よし!と綱海が拳を握る。

「円堂くん!」

円堂はぐっ、と体を捻って拳を握る。

「マジン・ザ・ハンド!!」

危なげなくガッシリとボールは円堂の手の中に収まった。
その様子に、綱海は凄く驚いたような顔をしていた。コンドルダイブが決まったと思ってたんだろうな。
舐めてもらっちゃ困るぜウチのキャプテンを。

「「「イェーイ!!」」」

そう声を上げたのはボールを防いだ雷門側ではなく、何故か大海原中の選手たちだった。
いや、本当なんなんだこの子ら。


「よし、リカ!」

円堂からロングパスが飛ばされてそれを受け取ったリカちゃんがドリブルで上がれば、綱海が奪いにくる。
だが、それはあまりにも真正面からだったのであっさりとリカちゃんが抜き去る。

「16ビート!」

また音村が叫べば、DFの赤嶺が動き出す。
彼はぐんっ、とスピードを上げてリカちゃんの足元からボールをかっさらった。


「ここでまたもボールを奪われた!!」

『奪われたんなら取り返すまで』

音村が叫ぶまでは彼らのリズムは変わらない。
トントントントンと速いリズムでドリブルしているその足元にスライディングで、ボールを蹴り弾く。
転がったボールを一ノ瀬が上手く拾ってくれる。

「2ビート!」

音村が声を上げ、今度は平良がスライディングで一ノ瀬の足元からボールを奪った。
平良が池宮城に向かってループパスを出した。
ゆったりとした大きい弧のてっぺんに向かって飛んで、先程綱海がして見せたように両足でボールを挟み込んで着地する。

「なっ、」

『鬼道!』

音村にビートを数えられる前に、バックパスで鬼道にボールを渡す。

「塔子!」

鬼道も同じように直ぐに塔子にボールを回すが……、

「4ビート!」

塔子ちゃんに届く前に赤嶺が足を伸ばしカットした。

パス間のリズムも測れんのかよ!?

「どうした雷門!?ボールが繋がらない。完全に動きを読まれているぞ!」

角馬くんの実況が雷門中に焦りを産むおかげで、大海原は更に調子づきノリに乗っている。

まさに、

トントン拍子
いや、トゥントゥン拍子かな。
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