フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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綱海の持ってきてくれた魚でお腹いっぱいになったあと、片付けを済ませて、女子達はいつものテントで寝袋にくるまった。

「ほんで、梅雨的にはどうなん?」

『何が?』

「何って…、綱海のコトに決まっとるやん〜」

リカちゃんの顔を見なくてもわかる。声がもうニヤついている。なんで私まで対象になってるんだ……。

『塔子ちゃんとくっつけたいんじゃないの?』

「えっ、なんでそこでアタシの名前が出るんだよ?」

意味がわからないと声を上げる塔子ちゃん。

「それはそれやけど、三角関係っておもろいやん?」

『おもろいで泥沼望むな。そもそも、綱海は良い奴だけど、あんまり好みじゃないかなぁ』

顔も良い方だとは思うし、性格はいい兄貴分だし、キャラクターとして人気が高いのも頷ける。

「えー、そうなん。つまんな。……せやったら、梅雨はどんなんが好みなん?」

おい、今つまんなって言ったな!!馬に蹴られて死んでも知らないからな?

「そう言えば、梅雨ちゃんのそういう話聞いた事ないよね」

ぽつり、と秋ちゃんがそう言う。
まあ、ここでの恋愛話は、秋ちゃんと夏未ちゃん、そしてリカちゃんの話だもんなぁ。

『好みかぁ……』

自然とみんなの視線が私に集まる。
そうだなぁ…。

ゴソゴソと寝袋から上半身を抜け出して、傍に置いていた携帯を手に取る。

『最近好きなのは、このアイドルゲームのこの子かな!』

そう言って画面内の男の子の画像を表示させる。

『元サッカー選手だったんだけど怪我を理由に引退して、それからスカウトされてアイドルになったんだけど、何がいいって、見てわかる通り顔が良くて、声も良くてさぁ。あっ、曲もめっちゃいいんだよね、聞く?』

早口でそう言えば、塔子ちゃん以外の4人に、はあ……と大きなため息を吐かれた。

「そう言えばオタクでしたね、梅雨先輩……」

「もー、アニメやゲームのキャラクターはなし!ほら、チームの中に好きなやつおらんの?例えば円堂とか」

リカちゃんがそう言えば、夏未ちゃんと秋ちゃんが、えっ!と声を上げたので、思わず笑う。

『ナイナイ。だから2人とも安心していいよ』

「え、いや……」

「そういうつもりじゃ……」

そんなこと言って2人とも頬を赤く染めている。

「ハッ!まさかダーリン!?」

『いや、それもないから』

「ほんまかぁ?」

じろっと、リカちゃんが見つめてくるけど、一之瀬はないなぁ……。好きとか嫌いとかじゃなく、怪我しても尚、選手復帰出来た彼を画面越しに恨めしく思ってた側たがらなぁ。
こうしてコチラに来て話すと、リカちゃんが惚れるくらい良い奴だってのはわかるけどね。

「あっ!」

ぽん、と何が閃いたと春奈ちゃんが手を叩いた。

「土門さんは?仲いいじゃないですか!」

『うん?土門かぁ……気は合うけどね』

「それなら、鬼道くんはどう?彼の方が落ち着いているから、水津さんに合うと思うのだけれど」

「えっ、お兄ちゃんですか?」

ワクワクとした様子で夏未ちゃんと春奈ちゃんが見つめてくる。

『うーん、鬼道は悪友って感じするわ』

「ああ、確かにそんな感じね」

「確かに今日も2人で綱海さんのことわざと挑発してましたもんね…」

「そもそも、梅雨はしっかりしてるから年下の方がええかもしれんな〜」

いや、なんなら綱海入れても全員年下なんだけど。

「自分から甘えるタイプやないやろ?」

『それは、まあ、そうかも?』

「なら、やっぱ年下の方がええんちゃう?立向居とかどうや!」

『あー、可愛いとは思うけどねぇ。てか、1年生はみんな可愛い弟分だよね』

「えー、そんなん言うたら決まらんやん」

『いや、なんでこの中で決めなきゃなんないのさ。みんなのことは好きだけど、恋愛対象にはなんないよ』

雷門中のみんなも、キャラバンに追加されたみんなも、あくまでキャラクターとしての好きであって、恋愛感情を抱くことはない。

「そうだよな!あたしもそう思う!なんでもかんでも恋愛に結びつけるなよなー」

塔子ちゃんがリカちゃんを叱るようにそう言えば、彼女はまたまた〜と茶化すように言った。

「そんなん言うても、理想のタイプくらいはあるやろ?」

「だからそういうのないって!な、梅雨!」

『うーん、確かに理想のタイプはあるっちゃあるよ?』

そう言えば、リカちゃんが、おっ!と声を上げた。

「なになに!?」

『私の好きを笑わない人、かな』

「…好きを笑わない?」

こてん、とみんな首を傾げている。

『私は、さっきみたいなゲームやアニメが好きだし、フリスタが、サッカーが大好きだし、それにみんなの事も好きよ。だから、それらを笑うような奴は許せないもの』

「だから好きを笑わない人、がタイプ、ね」

復唱するように言った秋ちゃんに、うん、と頷く。

「あー、じゃあ、お兄ちゃんはダメですね」

「えっ、なんでなん?」

「最初の出会いで、梅雨先輩キレてましたもん。一生懸命やってる奴を笑うんじゃないって」

「ああ、鬼道くんにビンタした時の……」

「えっ!?あの鬼道にビンタしたのか!??」

「うわ、恐れ知らずちゅうか、なんちゅうか……」

雷門と帝国の最初の試合を知らない2人が、驚いたとこちらを凝視した。

「でも、あれはお兄ちゃんが悪いです!」

『春奈ちゃんって時々、鬼道に当たり強いよね』

でも、リアル妹ってそんなもんか。

「私はアレで梅雨先輩のファンになったんですよー!めちゃくちゃかっこいいって!」

『えっ、ファンだったの!?それは知らなかった。ファンサービスしとく?』

一之瀬を見習って、ウインクしながら揃えた人差し指と中指をこめかみの近くから外側にサッと動かした。

「きゃー!梅雨先輩ー!」

春奈ちゃんは、黄色い声を上げてノってくれた。

「ふふ、なにやってるのよ、それ」

小さく、夏未ちゃんが可笑しそうに笑う。

「でも実際梅雨は男だったらめっちゃ女子にモテそうだよな」

『そう?私より塔子ちゃんのがモテそうだけどね』

塔子ちゃんがお父さんが財前総理だし、男の子だと顔はあんな感じかな。

「あ〜、わかる!塔子は本人は分け隔てなくフレンドリーに接してるつもりなんやけど、去った後に遠巻きに話しかけられちゃった♡とかキャーキャー騒がれるタイプやで。んで、梅雨は逆に女子からグイグイ詰め寄って来られて困るタイプやろなぁ」

「なんか想像つくね」

くすくすと秋ちゃんが笑えば、そうか?と塔子ちゃんが首を傾げる。

『秋ちゃんはめっちゃ紳士的な優男な感じになりそうよね』

「そうかな?春奈ちゃんは、鬼道くんみたいになるのかしら」

「顔はそうかもしれないですね!」

「性格は春奈の方がだいぶん明るいもんなぁ。夏未は超絶美形男子やろな」

「なっ、何言ってるのよ」

夏未ちゃんは照れたようにそっぽを向く。
超絶美形男子なのは確実だろうな。きっと後ろに(ツンデレ)って付くけど。

「それなら浦部さんは…………」







「みんな寝ちゃったね」

『だね』

恋愛話から逸れて、くだらないお喋りをしてるうちにみんなウトウトとしだして、私と秋ちゃん以外は順に眠りについた。

「ふふっ、楽しかったね」

『そうだね。こういうの久々だったかも』

学生以来かもしれないな。足の怪我もあったし働き出してからは忙しくてあまり友達とあう機会も減っちゃったし。早い子は結婚して子供がいたりもしたしなぁ。

「ねえ、梅雨ちゃん。聞いてもいい?」

『うん?』

改まっちゃって、どうしたんだろ?

「本当に好きな人はいないの?」

ははーん。さては円堂の事、本当に恋愛対象じゃないか気になってんだな〜??

『いないよ?』

「本当に?」

『うん』

「……でも、ほら、染岡くんとか……」

『……えっ?染岡??』

染岡ってあの染岡??
えっ、こういう話題に名前が出てくるとは思わなかった。
鬼道とか風丸とか吹雪とか豪炎寺ならわかる。女の子が見てキャーキャー言うタイプだから。

「えっと……ほら、仲いいじゃない?」

『そうかな?』

他のみんなと変わらないと思うけど。
春奈ちゃんが言ってたように土門と仲がいいって言われるのは分かる。始まりが始まりだったから2人でコソコソする事多いし。そもそも土門が軟派な性格だからか、そう見られることも多いし。だから土門の事を、恋愛対象なの?って聞かれるのはわからなくもない。
けど、染岡か……。

なんか、変な感じだな……。


『仲、は……まあ最初ほどツンケンされなくなったとは思うよ?でも、恋愛対象かって言われたらねぇ……』

さっきも言ったが、ここにいる子供達に恋愛感情を抱くことはない。
だって10歳以上離れてるし、中学生相手だよ?犯罪じゃん?

「そっかぁ……」

『うん。それに今は色々大変な時だし、しばらくは恋人はサッカーボールでいいかなって』

そう言えば秋ちゃんはキョトンとしてそれから笑いだした。

「ふふ、ボールが恋人かぁ」

『サッカー馬鹿だって思ったでしょ?』

「えっ、あー、うん。ちょっとね?」

くすくす笑ってる秋ちゃんに、ひどーい、と棒読みで言って、ゴロンと寝返りをうつ。

『さ、私らもそろそろ寝よ。明日はフェリーの時間までにみんな起こさないといけないし』

「そうね。寝ましょうか。……、ね、梅雨ちゃん。今はいないかもしれないけど…、もし誰か好きな人が出来たら教えてね?」

『ええ。もし、出来たら、ね。さあ、おやすみなさい』

おやすみ、と言う秋ちゃんの声を聞いて、ゆっくりと目を閉じた。

女子トーク
好きな人が出来たら、か。

……それはきっと、ダメだろう。
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