フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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綱海条介。鬼道の策に嵌められた彼は、水着からTシャツと短パンに着替えて、練習に混ざった。

最初は止まったボールを蹴らせれば中々の威力だったが、試合形式で動きながらになるとパスを受け取れなかったりシュートのタイミングが合わなかったり。
まあ、そこは素人だしいきなりは無理だ。
けれど驚くべきは驚異的な身体能力、そして動体視力。
綱海の実力を試す為にも人数を減らし4対4にしてボールに触れる回数を増やしているのだけれど、その結果1人がカバーする面積が広くなるわけだけど、なんともまあ、守備範囲が広い。

広い海の波を見極めるのに鍛えられたのか、フィールド全体をよく見ていて、ボールが飛んできたら直ぐにそこに向かえ、寸前で追いつき蹴り返す。

個人的はこのディフェンス能力の高さが彼のポイントだと思うのだけれど、鬼道はやはり先程サーフボードの上から見せた威力の衰えないロングシュートに興味があるようで、何度も彼にボールを渡してはシュートを打たせようとしている。

って、言ってたら、綱海にシュートカットされた零れたボール塔子ちゃんがすかさず、もう1度シュートを打てば、綱海は今度は顔面でそれをブロックした。

「綱海…!?」

『馬鹿!!』

思わずフィールド内へ駆け出す。

「いいぞ!綱海!!」

『いいぞ、じゃない!』

「あっ、」

やべぇ、という顔をする円堂に、このサッカー馬鹿!と叱りながら綱海の元に寄る。

『顔面から行く奴があるか!!脳震盪起こしたらどうすんの!?ボールは足で蹴るんだよ!!』

目を回している綱海の前にしゃがみ込む。

「……、いってて……。確か、ヘディングとかいうのあるだろ」

そう言って綱海は身体を起こす。
呂律は回ってるし、どこからも血とかは出てなさそう。

『ヘディングは顔面でするもんじゃないよ。とにかく、痛いところはない?』

「おー、平気平気。こんくらいで大袈裟だな」

ヒラヒラと手を振る綱海に、思わず、は?と呟く。しかも自分が思ってたよりだいぶ低い声で。

『キミ、さっき自分で目金に海を舐めるなって言ってたよね?それと同じなんだけど??脳震盪舐めてんの??死ぬよ?』

「え、……わりぃ、そういう事か。そりゃオレが悪かったわ」

すんなりと素直に謝ってきた綱海を見て、はあ、と大きく息を吐く。

『とりあえず、本当に何処も痛くない?吐き気とかしない?』

「ああ。大丈夫だ。心配してくれてありがとな」

そう言って綱海はニカッと笑う。

『少しでもおかしな所があればすぐに言いなさい』

「おう」

「ははーん……塔子に恋のライバルか……」

……なんかリカちゃんの変な声が聞こえたが気のせいか???…気の所為であってくれ。


「あの……水津?…練習再開しても……」

先程怒ったからか、おどおどとした様子で円堂が伺ってきた。

『さっきの反省してる?』

「はい」

『…もう、危険なプレーを褒めるのはダメだからね』

「おう、気をつける」

『ならよし!』

ゴーサインを出して、フィールドから出る。

「なんか久しぶりに怒ってる梅雨ちゃんみたな」

戻るなり土門がそう言った。

「え?水津さんいつも怒ってませんか?」

『は?』

「そういうとこでしょ怒られるの」

うしし、と木暮が目金を笑う。
その横で、じっとこちらを見つめる視線が気になってそっちを向く。

『夏未ちゃん、どうかした?』

そう聞けば、彼女は驚いたように目を見開いた。

「いえ、土門くんが言うように、久しぶりにあんなふうに怒ってる貴女を見たな、と思って……」

そうだっけ?最近みんながそんなに危ないことしてないだけじゃないかな…?

『まあ、今回はちゃんと怒っとかないとね。監督にみんなのこと任されてるし、監督不行き届き旅先で出会った子を怪我させましたって訳にはいかないのよ』

「そう。確かにそれはそうね」

そう言って夏未ちゃんは頷いて、もう一度こちらを見つめた。

「そうやって、誰かを心配して怒ってる方が貴女らしいわ」

『…、そっか』

わざわざ口にだしてそう言ったって事は、夏未ちゃんから見てもここのところの私の言動はおかしかったんだろうな。
知ってたから佐久間や源田を助けようとしてのに、知ってたのに吹雪の事は黙ってたなんて、まあ、誰が見てもおかしいか。









日が暮れてきたので砂浜での練習を終え、綱海が教えてくれた、サーフ小屋で1晩を過ごすことになった。

「それにしてもけったいなやつやったな、綱海って」

トランプをしながらリカちゃんがそう言う。

「でも悪いやつじゃないと思うね」

そう言って塔子ちゃんがリカちゃんの手札からカードを引き抜いて揃った絵柄を場に捨てた。

『ツナミブーストも凄かったしね〜』

「それなー!」

あの後、リカちゃんと塔子ちゃんがバタフライドリームを完全させ、それに感化されてか、綱海も超ロングシュート、ツナミブーストを完成させていた。

「あんたら気ぃつけや〜、南国の男は火傷するでぇ〜」

「はあ?」

何言ってんだ?と塔子ちゃんは、ニヤつくリカちゃんを怪訝そうに見つめながら、私の方に手持ちのトランプをさし出てきた。
…てかあんたらってもしかして私もカウントされてんの?

塔子ちゃんの手札からカードを抜き、自分の手札と見比べる。おっ、あった。
揃ったAを捨てて、どうぞと次の円堂に手札を傾けた。

「それにしてもあいつ飲み込み早かったなぁ」

そう言いながら私の手元からカードを抜いた円堂は、揃ったものがなかったのかあからさまに眉を寄せて手札にカードを加えて、隣の一之瀬の方を向く。

「天性のバランス感覚とずば抜けた運動神経の持ち主だったね」

「すごいシュートだったぜ、あのツナミブースト!」

「そう言えば円堂さん!あの時の正義の鉄拳はどうやったんですか?」

向かいにいる立向居が、身を乗り出すようにして、こちら側を見た。

「ん?」

「何か感じが違ってました!」

立向居の言葉に、円堂はうーん、と頭を悩ませる。
ツナミブーストを打ち込まれ、正義の鉄拳を円堂が使おうとして、黄色い光の拳がボールを止めようとしていたが、途中で途切れゴールは割れてしまっていた。

「とっさだったからなぁ」

「何かのヒントになったんじゃないか?」

一之瀬の手元からカードを取った鬼道は、そう言いながら表情ひとつ変えずに手元にカードを追加した。…たしかこのカード……。

鬼道の手元から立向居がカードを引く。

「……、ババぁ!?」

先程鬼道が何食わぬ顔で、足したJOKERを引いて立向居は情けない声を上げた。

そんなタイミングでコンコンとサーフ小屋の扉が叩かれた。

「よお!」

返事をする前に、ガラガラっと引き戸が開けられて、魚人が現れた。

「ひぇええええっ!!」

頭が魚、身体が人間のそれを見て壁山が悲鳴を上げる。

「邪魔すっぜ!」

そう言って、魚の頭がひょいと上にズレて、身体と繋がった綱海の顔が現れた。

「綱海!」

「これ食わせてやろうと思って釣ってきたぜ!」

『釣ってきたって……』

マグロ級のサイズだよ、それ。
そもそも何の魚だこれ?トビウオとマグロのハーフみたいな見た目してるけど。

『出刃なんかうちのキャラバン持ってないわよ』

キャラバンに積んでるの三徳包丁だぞ!!
そもそもアジ、サバならともかく三枚おろしくらい出来るけど、そのサイズ感の魚は無理だわ。

「まっ、だろうな。任せとけ、ちゃちゃっと解体してやるから!刺身引くのはできるだろ?」

『さくにしてもらったらね』

「おー、じゃあちょっと台所借りるぜ」

そう言った綱海は本当にちゃちゃっと魚を解体してみせた。
それを急いで秋ちゃんと春奈ちゃんと共に、刺身に引いた。夏未ちゃんはね、ほら包丁持たせると危ないから、ね。お皿の準備とかしてもらった。



「すっげぇ……!」

「さ、遠慮なく食え!」

「サンキュー綱海!」

いっただきまーす!とみんな声を揃えて、テーブル上に置かれた山盛りのさしみ達に箸を伸ばす。
採れたては鮮度が違うとか言って皆が大喜びしてる中、

「うわあああああ!!!」

と壁山が悲鳴を上げた。

「わさびぃいいいい!!」

鼻をつまんで涙を流す壁山を見て、わさびのチューブを手に持った木暮が、うしし、と笑った。

「こら!またやったな!」

春奈ちゃんが怒れば、笑いながら木暮は走って逃げる。

「待ちなさい!!」

立ち上がって春奈ちゃんが追いかけるのを見て、綱海は少し呆けたあと、ははは!と爽快に笑った。

「お前らどっから来た?どこの学校だ?」

その質問に、さしみを食べる手を止めて円堂が立ち上がった。

「雷門中だよ!フットボールフロンティア優勝の……って言っても、知らないか!」

「ああ、知らね!」

気持ちいいまでに、あっさりとそういう綱海に、あはは!と円堂が面白そうに笑った。
その横に今度は塔子ちゃんが立ち上がって立った。

「ありがとう綱海!」

「ん?」

「バタフライドリームが打てたのはお前のおかげだ!」

「ちょ、それウチのおかげやろ〜」

こそっ、と塔子ちゃんの後ろからリカちゃんがツッコミを入れた。

「そうか!何だか知らないが役にたったんならよかったな!」

ああ!と塔子ちゃんが頷いて2人は握手を交わす。
それを見て面白そうにリカちゃんが、ふふーん、と笑う。そしてチラりとこっちを見る。
何考えてんのか知らないけれど、こっちは1ミリもそんな気ないぞ。

「なあ!綱海はこの島の中学なん?」

ガバリと、後ろから塔子ちゃんの肩を思いっきり掴んで覗き混むようにしてリカちゃんは綱海に尋ねる。

「いや、ここにはサーフィンしに来てるだけさ。住んでるのは沖縄だ」

「へぇ〜。歳幾つなん?」

「15」

綱海のその言葉に、リカちゃんと知ってた私以外が固まった。

「15歳か〜。勝気な塔子なら年上がええかもなぁ〜。……って、どうしたん?みんな?」

『驚いてるんだよ。彼の年齢に』

そう言えばみんな静かに頷いた。

「15歳と言うことは……、さ、3年生……」

「ん?言わなかったっけ?」

「あ、あの…すみません……!知らなかったものですから……」

円堂が慌てて敬語でそう言えば、綱海はキョトンとした。

「年上だった…でしたとは……、綱海さんが……」

「いいっていいって!そんなこと海の広さと比べればちっぽけな話しだ!タメ口で頼むぜ!」

そう言って笑う綱海に、円堂は、ポケーっと口を空けた。

「…うん」

弱々しく円堂がそう返す。
敬語はあやふやだけど、円堂は年上に対しての、敬意だとかがちゃんとしてる子だからこそ、綱海のこの反応が新しくて困っているみたいだ。

「おいおい、ノリが悪ぃなぁ。堅苦しいのは抜きでよろしく」

な?と、そう言って綱海は円堂に手を差し出した。

「え、あ……」

困惑したように円堂は綱海の顔と差し出された手を交互に見た。

『本人がいいって言ってるんだから気にしないでいいんじゃない?』

ぶっちゃけ私だって実年齢はみんなより遥かに歳いってるが、タメ口で話されても気にならないし、むしろそっちの方が仲間に入れてもらった感じがしてホッとする。

「そうだぜ」

「そっか…うん!改めてよろしくな綱海!」

円堂がそう言えば綱海は、おう!と返事してニカッと笑って見せた。

友情に年齢は関係ない
実際、なかなか難しい事だけどね。
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