フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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皆が練習を終えて、夕食を終えて、それからテントの中で眠りにつく。

だが、目が冴えて眠れやしない。
目を閉じれば、自らヒロトのシュートに突っ込んでいく吹雪の姿が思い返されて……。

そっと寝袋から抜け出して、テントの外に出た。

陽花戸中のグラウンドから見上げた夜空は、星がよく見えた。

「水津…?」

名前を呼ばれて振り返れば、後ろに風丸が立っていた。
こんな時間に出かけるのか、彼はスポーツバッグを肩にかけていた。

『風丸』

「お前も立ち止まってるんだろ」

『え…?』

夜の闇のせいなのか風丸の目には光がないように見えた。
北海道で話をしたあの夜の時よりも彼の表情は暗い。

「俺はもう進めない。どう頑張ったってこの先は壁じゃないか……」

『そっか……』

そうだよね。ここはちゃんと離脱してくんだろう。シナリオ通りに。

『引き止めはしないよ』

そう言えば風丸は黙った。
彼自身引き止めて欲しくて私に声をかけたわけじゃあるまいに。
私が言って止めるなら、円堂の言葉で止まってる。

『…今までよく頑張ったよ。お疲れ様』

風丸は静かに目を瞑ったあと、ああ、と頷いて目を開けた。

「お前はまだ、残るんだな」

『逃げる勇気すらないんだよ』

「……そうか。……俺は、もう行くな」

『うん。夜遅いから気をつけてね』

背を向けて陽花戸中の門の方へ歩いていく風丸をただただ、黙って見送った。







翌朝。

「そんな……」

「信じられないッス……!」

瞳子さんに集合を掛けられ、風丸がイナズマキャラバンを降りたことを伝えられた。

「監督、本当なんですか」

鬼道の問に瞳子さんは、ええ、と頷いた。

「既に東京へ戻ったわ」

「どうして止めなかったんですか!?ここまで一緒に戦ってきた仲間なんですよ!」

声を荒らげる秋ちゃんを見て、胸が痛む。

どうして止めなかったのか、か……。

「サッカーへの意欲を無くした人を引き止めるつもりはないわ。私はエイリア学園を倒すため、このチームの監督になったの。戦力にならなければ出て行ってもらって結構」

私が言えた話じゃないが、どうしてこの人はこういう言い方しか出来ないんだろうね。

「ああ!そうだったな!アンタは勝つためならどんなことでもする奴だもんな!!」

案の定、土門がキレた。

「吹雪が2つの人格に悩んでるのを知りながら試合に使い続けるくらいな!!」

……これまた痛いことを言ってくれる。

「…練習を始めなさい。空いたポジションをどうするか考えるのよ」

瞳子さんは土門の言葉を無視してそう言って去っていく。

「ハイハイ女王様」

土門が悪態を付いても、彼女は振り向きもしなかった。

「こんなんじゃ練習できっこないッスよ……」

皆が、しん、とする中、秋ちゃんだけはキリッと眉を釣り上げた。

「私、風丸くんは帰ってくるって信じてる!」

それに釣られるように、春奈ちゃんも私もですと声を上げる。
それを見て静かに頷いた鬼道は、1人その場から歩み始める。

「お兄ちゃん?」

「始めるぞ、練習」

「え、でも……」

「俺たちがサッカーをするのは監督の為じゃない。円堂がいつも言ってるだろう」

鬼道のその言葉に、暗かった皆の表情が変わる。円堂が言うことなんてみんな知ってる。これまでずっと彼の言葉に支えられて来たのだから。

「サッカーが好きだからだ。サッカーを守る為にもエイリア学園に勝たないとな」

「お兄ちゃん…!」

先頭に立ち歩く鬼道を春奈ちゃんが追いかければ、他の皆も釣られるように、行くかとグラウンドに向かって歩み始めた。

ただ、1人を覗いて。

立ち止まったままの円堂に、秋ちゃんがボールを持って近づく。
円堂くん、とそのボールを彼の目の前に持っていけば、円堂はやんわりとボールを押し返した。

「練習…できない……」

小さくそう言った円堂の言葉に、皆、えっ?と足を止めて振り返った。

「どういうこと…?」

「今の俺は、サッカーと真正面から向き合えない……。ボールを蹴る、資格がないんだ……」

いつものような元気はそこにない。

「だから……、ボールは、それまで預かっといてくれ………」

そう言って、円堂はとぼとぼと皆の前から去っていった。

鬼道がかけ戻ってきて、去る円堂の背中を見つめる。

「アイツ……」

「円堂くん……」


暗転
かける言葉もない。
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