フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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福岡2日目。今日は、陽花戸中との練習試合を行う。

試合が始まる前に、陽花戸中の水飲み場を借りてドリンクを作る。

「じゃあこれ私持って行ってきますね」

よいしょと作ったボトルのいくつかを春奈ちゃんが抱えた。

『大丈夫?私が持ってくよ』

「ダメですよ!先輩まだ怪我治ってないでしょ!」

大人しく、残りのボトルの中身作っててください!と春奈ちゃんは叱った後、運動場の方に行ってしまった。

言われた通り大人しく、ボトルに粉と水を入れシャカシャカと振る。
怪我をしてから1週間経ち、痛みも痣もだいぶ薄れてきたが、秋ちゃんも春奈ちゃんも過保護で重たいもの持とうとしたら直ぐ怒られてしまう。

「まだ、怪我治ってないんだね」

後ろからそう声をかけられた。
振り向けば、赤毛の少年がやあ、と片手を挙げた。

『……あー、ヒロト』

そうか、見学してたっけ。

「そんな嫌そうな顔しないで欲しいな」

『無茶いわないで』

「え、酷いなぁ。心配してたのに」

そう言った顔は、真顔だった。

『てか、怪我の事知ってんのね』

「うん。まさか君があんな事するとは思ってなかったよ」

あんな事、ね。
そもそもコイツが臆病だのなんだのと挑発してきたせいで、私が余計な事したんだが…?なんか腹たってきたな。

『殴ってもいい?』

「あれ?こんなに会話出来ない人だったかな」

『する気ないからね』

そう言えばヒロトは、それは困ったと呟いた。

「どうして急に未来を変えようとしたのか聞きたかったのに」

『…変える気なんかないよ最初から』

「ふぅん。でも、あの試合の時は違っただろ?どうしてだい?」

『は?』

ぷつ、と私の中の何かが切れた。

『お前のせいだろ!?お前が、私に関わってきたから……!!』

「未来を変えたくなった?」

光のない彼の目が細くなった。

『違う!!未来を変えたかったんじゃない……!!もう誰にも怪我して欲しくなかっただけなんだよ………』

「もう、か……。ジェミニストームとの初戦で自分は何もにしないで選手達が怪我をして、今度は防ぐ為に動いたはずが怪我をした。結局、君はいてもいなくても同じなんだ」

そんな事分かってる。
いや、むしろいたからこそ今回は余計酷いことになった。

『そうだよ。……だから、もう余計な事は何もしない。君らの先をただ見守るよ』

「そう。俺は父さんの邪魔に君がならないならなんでもいい」

結局、警告しに来ただけか。

『…怪我してるし試合にも出れないのに、なんの心配してんだが』

そう言えばヒロトは、うん、と頷いて踵を返した。

「それもそうだね。ただ、君と試合出来なくなったのは残念だ」

そう言った彼の表情は見えない。
どういうつもりでそんな事言ってんのか。


「梅雨先輩ー!!」

遠くから私の名を呼ぶ声が聞こえて直ぐに強い風が吹いて思わず目を瞑る。
次に目を開けた時にはもうヒロトはその場にいなかった。

「先輩?もうすぐ始まりますよ…って、まだボトル途中じゃないですか。大人しくとは言いましたけどサボっていいとは言ってないですよ!」

アイツと話してたせいで手が止まってたからボトル1個しか作れてないや。

『ああ、うん、こめん。ちょっと痛くて、動けなかった』

「えっ、大丈夫ですか!?」

『うん。試合始まるんだよね、急ごうか』

心配そうにもう一度、大丈夫ですか?と聞いてきた春奈ちゃんに大丈夫と返事をして、再び作業に取り掛かった。










陽花戸中との練習試合は、円堂と立向居がお互いに高め合うのにつられて白熱し、みんな何だか楽しそうだった。…吹雪を覗いては。
彼は試合中、頑張ってもう1人の自分を押さえ込んでいた。それに集中するが故に、ミスが多く皆にいつものお前らしくない、と言われる始末。

大丈夫じゃないの分かってて大丈夫と声掛けに行くのも変だし、なにより、もう余計な事はしたくない。でもこのまま放置していいの…?ああなるのが分かってるのに…?だけど、アレより酷いことになったら……。
ぐるぐると、頭の中で思考する。そんな時に、パチパチパチと手を叩く音がした。

なに、と顔を上げれば、陽花戸中の校長とその横に福耳糸目でふくよかな体型の男性と、その後ろに控えるかのように細く顔色の悪い男性が、グラウンドにいるみんなに拍手をおくっていた。
なんで、ここに…。


「いやぁ、よか勝負じゃった」

校長先生!と陽花戸中の子供達は挨拶をする。
校長はただ様子を見に来ただけなんだろうけど、その横の人物は……思わず瞳子さんの方を見れば、彼女は青い顔をしていた。きっと私と同じように、なんでここにと思っている事だろう。
でも、アニメでの登場こそなかったものの、ゲームでは確かに陽花戸中で出会っていた。これもまた私がここにいるせいなのだろうか。

「あの少年が伝説のキーパー選手と言われた円堂大介のお孫さんですか」

ふぉっふぉっふぉっと福の神みたいな顔して校長の横の人物は笑う。

「あれ?おじさんもじいちゃんの事知ってるのか!」

円堂がそう言えば、校長は慌てたように、これ!と円堂を叱った。

「やめんしゃい、そげん口の聞き方!吉良様、とんだ失礼を」

そう言って校長は、福耳の男を吉良と呼び頭を下げた。

「吉良…?」

聞き覚えのある苗字に皆あれ?と首を傾げる。

「いえいえ、構いませんよ。子供は元気なのが1番です」

「このおじさん何処かで見たような……?」

塔子ちゃんは吉良の顔をじっと見て首を傾げている。

「おやおや!これは、これは…、塔子お嬢様。お久しぶりでございます」

仰々しくそういい、吉良は塔子ちゃんに近づいた。

「こんな所でお会いするとは。いったい何をなさっているのですか?」

「あー!思い出した。あなた、偉い人ばっか集まるパーティに来てた金持ちのおじさんだ!」

「こ、これ…。君もかね……」

いやいや、校長一応この子現総理大臣の娘よ。

「はっはっ、塔子様は相変わらずお転婆ですなぁ」

「君たち、こん方は吉良星二郎様と言って、世界を股に掛ける、吉良財閥の会長さんったい」

その説明を聞きながら瞳子さんは顔を背けた。

「そうか、吉良財閥の…。俺もどこかで見た顔だと思ったが」

「鬼道も会ったことあるのか?」

「ああ、父に付き添ってパーティに出た時にな」

そう円堂に説明し鬼道は吉良を見据えた。

「(表向きには穏やかに見えるが…、なかなか食えない男だ)」

「おや、有人坊ちゃんも。お父上はお元気ですかな?」

鬼道は、ええ、どうも。と軽く挨拶を交わす。

「吉良様は子供がとってもお好きな方での。お日様園という身寄りのない子が暮らす施設ば経営しとるくらいったい!」

『…子供が好き、ねぇ』

よく言うよ。…いや、園を開いた時は本当に子供が好きだったのかもしれないけれど。

ぽつりと呟いた言葉が聞こえたのか、吉良はこちらを向いた。

「おや、君は……」

「おじさん、水津とも知り合いなのか?」

円堂がそう言えば、校長がこれ!とまた叱っている。
円堂の質問には答えず、吉良は何故かこちらに歩いてき近づいてきた。

「そうか君が神の子なのですね。こんなところでお会いできるとは、光栄です」

『は?』

頭を下げた吉良に、ぽかんと、口を開ける。

え、神の子??いや、

我、人の子ぞ??
変な設定をまた足さないでくれ。
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