フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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校舎裏にある修練所の扉を開けて階段を降りたその先で、地下理事長室の隠し扉ではなく、真正面にある大きな扉の前に立つ。

扉の横のタッチパネルを見れば、タイムロックはかかっていないようで、OPENのボタンひとつ押せば簡単に扉が開いた。
中に入り大型の機械たちの間を潜り抜けて、ガションガションという機械音とベシバシと何かにぶつかる音が聞こえる1番奥へ進む。
そこでは、円堂がキーパー練によく使っていた、野球のピッチングマシンのように自動でボールが排出されるサッカーマシンで特訓している木暮とそれを後ろから見守る春奈ちゃんがいた。


「うわあっ、」

木暮は逆立ち状態から足を開き、その場で回転する。そして、マシンから勢いよく飛ばされたボールにぶつかられて押し負けて後ろに倒れた。

『なるほどね。開いてる脚のバランスが悪いわ』

「え?」

後ろからそう声を投げ掛ければ、驚いたように2人が振り返った。

「梅雨先輩!!」

そう言って、春奈ちゃんが全速力でこちらへと走って飛び込んで来た。

『ちょ、っと!?春奈ちゃ、いっーーー!?』

「わー!!ごめんなさい!!」

急に抱きつかれて、その衝撃でお腹の痛みが走り悶絶すれば、春奈ちゃんは青い顔して慌てて離れた。

「先輩ごめんなさい。怪我してるの忘れてました」

『ん、いや、うん。大丈夫だよ』

「なんだよ。早かったな追いつくの。大した怪我じゃなかったんじゃねぇの」

よっこいしょ、と倒れた状態から起き上がりながら木暮はそう言えば、木暮くん!と怒ったように春奈ちゃんが詰め寄る。

『あはは、そうだったらよかったけどね。暫く運動はダメだって。追いつくの早かったのは、飛行機で文字通り飛んで帰ってきたからだよ』

「ふーん。怪我人なら大人しく休んどけば?」

『それがそうもいかなくてさぁ。瞳子さんって人使い荒いよね』

「どういうことですか?」

首をかしげる春奈ちゃんと、どうでも良さそうな雰囲気を作りながらチラチラとこちらを見てくる木暮に、かくかくしかじかと、先程受けた瞳子さんからの命令を説明する。

『と、言うわけで、木暮の必殺技完成させに来たので、がんばってくれたまえよ』

ぽんぽんと木暮の肩を叩く。

「頑張れって言ったって……もう1時間以上やってんだよ!!」

『ずっとこのマシン使って練習してるの?』

「はい、そうです」

頷く春奈ちゃんを見て、うーん、と頭を悩ませる。

『さっきのを見た感じだと、なんていうか、ただ我武者羅に脚を振り回してるだけ、だね』

「なんだよ!!回転すんの結構難しいんだぞ!!」

『あーわかるー。難しいよねぇ』

私もアクロバット始めた頃は、逆立ち状態から腕をどう動かしたらスピン出来るのかわけわかんなかったもんね。
むしろ木暮は、それを難なく勘で出来てるのはセンスいいんだよね。

『木暮は回転自体はできてるんだけど、開脚のバランスが悪いから片方に重心が寄って慣性が変に働いて遠心力の釣り合いが取れてないからボールがぶつかった時崩れちゃうと思うんだよね』

「えっと…?」

木暮は頭の上にはてなをいっぱい浮かべている。どうやらちょっと難しかったみたいだ。
こういう子は説明するより、体を使う方が早いか。

『とりあえず、そこで倒立してごらん』

「……ほらよ、っと!」

『うん。その真っ直ぐの状態から脚を広げて』

木暮は言われた通り、両脚を開く。
しっかりと開けているように見えるが……。

『今、ちょっと左足が内側に入り気味だから、もっと真っ直ぐにできる?脚を真っ直ぐ1本の棒のようにして欲しい』

「こうか?」

『おっ、そうそう!そのままバランスを崩さないように回転してみて』

そう言えば、木暮は地につけた手を回しぐるぐると回転しだした。

『いいね!上手!もしかして天才じゃない?』

「へへーん!そうだろ!!」

よし、木暮が調子に乗ってるうちに、感覚を身につけさせよう。

『春奈ちゃん!マシン起動してくれる?』

「はーい!行きますよー!!」

そう叫んで春奈ちゃんがスイッチを押した。












『ラストもう一本!』

「よし来い!」
「はい!」

木暮と春奈ちゃんが同時に返事をする。

木暮が功夫のように構えをとり、春奈ちゃんがスイッチを押すと共に、その場で逆立ちをした。
たった30分の練習で、綺麗なフォームを身に付けた木暮が、両脚を開きぐるぐると回転した。
そこに、マシンから3連続で排出されたボールが勢いよく飛んでいく。
べしべしべしと木暮の足に当たりボールは弾かれる。

『うん、いいね。木暮、あと3連来るよ!ラストは上に上げて!』

「おう!」

同じように飛んできたボールを2つ弾き飛ばし、ラスト1個を足で上に跳ねさせた。
ボールが上空にあるうちに木暮は、脚を地面に下ろして体を起こした。

「どうだ」

『バッチリ!完璧な仕上がりだね』

「へへん、まあな!」

どうぞ、とタオルを手渡しながら言えば木暮はそう胸を張った。

「やったね、木暮くん!」

春奈ちゃんが喜んで駆け寄れば、木暮はプイ、と顔を背ける。

「別に俺にかかればこのくらい余裕だし…!」

『照れちゃってまあ』

「照れてねーよ!」

そう言って先程手渡したタオルを投げ返されるのを見ながら、仲良いですね、と春奈ちゃんが笑う。

「あっ!せっかくですし、皆さんに見せに行きませんか?」

『「みんなに?」』

揃って首を傾げれば、春奈ちゃんは携帯を開いて、秋ちゃんから届いたメールを見せてくれた。

メールの内容は、休息のはずが、みんな河川敷に集まってサッカーしてるよって事。
自慢しに行く?と聞けば木暮が結構ノリノリで頷いたので、それじゃあ行こうと修練所を出る。
そのまま近い裏門から学校を出て、河川敷に向かった。

「今の通りをこっちとは反対方面に進んだら、梅雨先輩の家があるんだよ」

「へー」

木暮にとって初めての稲妻町を、春奈ちゃんが説明しながら道を進む。

「で、もうすぐ見えるはず…!」

言うなり、住宅街を抜けた先に河川が見え始める。

「あっ、ほんとだ。みんないる」

「おー、い?」

大きな声で叫ぼうとした春奈ちゃんが固まった。
フィールドで走っていた染岡が、鬼道からのパスを受け取りそれを吹雪に繋げるため、ワイバーンを出した所だった。
ボールを蹴る直前、染岡は背を大きく逸らし、声にならない悲鳴のようなものを上げた。

『え…?』

「染岡!?」

どさり、とそのままフィールドに倒れた染岡にみんなが駆け寄っていく。

まって、今の……。

「染岡さん、どうしちゃったんだよ」

不安そうに木暮が私を見上げた。

「梅雨先輩…!行きましょう!!」

確かにここで、彼が離脱するはずだけど、でも……。
今の倒れ方は、まるで、皇帝ペンギン1号を打った後の佐久間のような……。
こんなのは知らない。


警鐘
先輩!ともう一度、春奈ちゃんに呼ばれるまで動けなかった。
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