フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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あの野郎、ジャッジスルー2使うとか有り得なくない!?クソ痛てぇんだけど!!
ゲームじゃファウル率高い技だろ!!せめて審判ファウル取れ!!!
まあ、今回も影山の息のかかった審判だろうからしょうがないけど……。

いてて、と痛む腹を擦りながら、足を動かす。
わざわざ必殺技までお見舞してくれたって事は、少なからず私のシュートが厄介だったって事なんだろうけど。お陰で、これ以上飛んだり跳ねたりは無理だし、必殺シュートなんか打てたものじゃない。けど、私を潰した事で向こうの警戒心が逸れているなら、逆に今がチャンス、である。

先程作戦を伝え、任せろと言った染岡は吹雪と連携しゴール正面まで上がっている。
その染岡の前に真・帝国DFの郷院と竺和の2人が立ち塞がり、足を止めれば、後ろから、打たせろ!と不動が叫んだ。

「シュートは源田が止める」

口角を上げ、不動はそう言った。
分かってて言ってるんだからタチが悪い。
DFの2人が、ゴールの前を開ければ、染岡の目には肩で息をする源田の姿が見えた。

「チッ…、どうする……!」

「おおっと!?染岡、シュートコースが空いたのに打たない!?」

実況の驚きの声を聞きながら、レフトを走り大きく手を挙げる。

『染岡!!』

そのパス要求に、真・帝国のDF達、そして源田の視線が動いた。

「うっし!」

まさか、ジャッジスルー2を喰らった後にあのシュートをまた打つのか?その一瞬の思考を産ませた。それだけで、私の役目は十分だ。
染岡が、ゴールに向かって真っ直ぐワイバーンクラッシュを放つ。

パスじゃない。それに瞬時に気がついた源田が、ビーストファングを使おうと、構えた瞬間。

「遅せぇよ!エターナルブリザード!!」

いつもは、溜めて打つエターナルブリザードを、吹雪は染岡からのパスでダイレクトに放った。

「ゴール!!!源田が反応出来ない!!」

ピピッーとホイッスルが鳴り、源田は瞬きをする。必殺技を発動どころか初動の構えすらしていない。

「雷門追いついたー!!!」

圧倒的な速さで、源田にダメージを与える事無く点を返した。

「やったー!!」

「ビーストファングを出させずゴールを決めちまいやがった!!」

後ろでみんなが大喜びしている。
やっと、彼らの選手生命を守る道が切り開けた。

「素晴らしい!これは2人の連携技として使えますよ。名付けて、ワイバーンブリザード!」

目金の必殺技命名を聞きながら、よし、と小さくガッツポーズする。

「もっと盛大に喜べよ」

とん、と吹雪に肩をぶつけられる。
その後ろには染岡もいる。

『2人とも、ありがとう』

「礼を言われるまでもねぇ。それにお前が染岡になんか言ってただろ」

『あー、』

先に行ったから知らないと思ってたけど、何気に見てたのね。

『あれは、私が囮やるから、全力で無視して吹雪に合わせろって。染岡ならできるでしょ、って』

「へー、それだけか。俺の動きよく分かったな」

ちらり、と吹雪が染岡を見上げれば、染岡はフン、と鼻を鳴らし顔を背けた。

「いつか負かしてやろうと思っていつも見てたからな。大嫌いなお前を」

染岡がそう言えば、吹雪はフッと笑っていた。

その様子を、じろりと見る男、不動明王。
視線を向ければ、目が合い、不動はニヤリと笑って見せた。

『まあ、潰しにくるよね……』

「水津?」

どうしたと、染岡が上から覗き込んで来た。

「…痛むのか?」

『え、あ、あー……大丈夫』

まあぶっちゃけ絶賛痛み継続中だけど、同じ腹部の痛みとしては生理痛と比べたら吐き気とか頭痛がない分幾分か平気……いや、やっぱり痛いものは痛いわ。

「いや大丈夫じゃねーだろ。俺と染岡がワイバーンブリザードで決めてやっから、お前は安心して休んでな」

ベンチに行けと親指で指す吹雪に、うんうんと染岡も頷いている。

『ん、ありがとう。けど、まだやらなきゃいけない事あるから』

「やらなきゃいけない事……?」

なんだ、と2人が首を傾げる。

『あ、再開するよ。2人ともラインに戻って』

早く早くと、2人の背を押す。

あんまりこの手は使いたくなかったんだけどな。



ピッーというホイッスルの音と主に、ボールが蹴られる。
点を決められた側のキックオフで始まるから、まず気をつけないと行けないのは、佐久間による速攻キックオフシュート。
その予想通り、FW比得呂からのパスは佐久間に渡り、それを最前線の吹雪がスライディングでカットして零れたボールを拾う。

「水津!」

こっちだ!と染岡がパス要求し、その先を更に吹雪が走っている。
もう一度、ワイバーンブリザードを決める、チャンス。
けど、

『鬼道!』

バックパスで鬼道にボールを回す。

「おい!水津!?」

「お前何やってんだ!?」

染岡と吹雪から驚きの声を投げかけられるが、無視してフィールドの中盤に居座る。
ボールを受け取った鬼道も、わけが分からぬまま、ボールを奪いに来た真・帝国から守るように更に一之瀬へとパスする。

「染岡!……えっ!?」

そこから染岡へとロングパスを出した、一之瀬が目を見開く。

「おおっと!?どういうことでしょう!水津、一之瀬から染岡へのパスをカットした!?」

実況の角馬も困惑しているようすだが、フィールド上の雷門イレブンも真・帝国イレブンは更に困惑していた。

「オイオイ。仲間割れかァ?」

随分と楽しそうに顔を歪ませた不動が、ボールを狙って足を伸ばす。

『お前の、二流プレイ対策だよ!!』

「アアン!?誰が二流だって!!」

二流、と言う言葉に異様な反応を見せた不動の眉間にシワがより、ギロリと瞳が動いた。

『お前だよ、お前。技術がないからプレイヤー潰すしかボール取れないもんな』

ぷぷぷ、と口元に手を翳し笑ってみせる。

「てめぇ…!!そう言う事かよ。そう言うてめぇこそ、怪我を恐れてシュートさせないビビりじゃねぇか!!」

そう言って動く不動の足先からボールを守るように、自分の足を動かす。

『そうだよ、ビビりだよ!』

ヒロトに言われた通り、きっと私は臆病で世界を変える気なんてなかった。
私が何をしても変わらない、今までがそうだったからってそう決めて、ジェミニストームとの戦いで見て見ぬふりをした。
私が何を変えようと動いたのはたった1回。世宇子戦の時。しかもそれもゲームのシナリオに乗っ取ったやり方でやろうとしただけ。
本気で自分の力で変えようとはしていない。

「ビビりはビビりらしく大人しくしとけッ!!」

そう言って不動は、右足を大きく後ろに逸らした。
狙いはボールではなく脚。

『だろうね、』

避けるのでは無く、左足をガードに右足のヒールで、とん、とボールを小突いて、後ろの鬼道へとパスを出した。

それと共に不動の足が振り下ろされた。

「水津!」


ヘイトタンク
世界を変えるのに多少の犠牲は付き物。そうだろう?
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